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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第3章 Bullying and revenge
52/206

52GF The judge tells the past Part1



 裁断 慧彼。慧彼は、ただただ普通の家庭に育った。家族関係も普通であり、父、母、そして妹である慧羅の4人である。慧羅とは4歳離れており、慧彼は慧羅が生まれた瞬間から、慧羅だけは守ろうと決意した。



 「ねぇ、お父さんとお母さんはどんな仕事をしてるの?」



 慧彼はあるとき、父と母の職業について疑問に思った。幼稚園に迎えに来る母は、必ず4時30分に来る。そして、家に帰ると父は必ずいる。その2人はいったい、どんな仕事をしたらそんなジャストタイムで家に帰ってこれるのか疑問になっていたのだ。当時の慧彼は何事にも敏感であり、些細な変化であっても気づく。そんな慧彼でも気づかないほど、ピッタリなのはおかしい。そう思った。

 慧彼は父、母の目をじっと見ていた。教えてくれるまで目を離さんとばかりに見てくる慧彼に、父と母は職業が何なのか、何をしているのかを話した。



 「お父さんはね、お医者をやっているんだよ」


 「お母さんはね、スーパーで働いているんだよ」



 慧彼は納得したふりをして、父と母からは絶対に視界に入らない場所へ移動し、そこから聞き耳を立てていた。



 「ああ、わかっている」


 「あの子を殺すのはもう少し先だよ」



 慧彼がその場から完全に離れたことを確信した2人は、明らかに怪しい会話をしていた。慧彼は、微かにだがその声が聞こえた。「あの子」は誰を指しているのか。それはわからなかったが、自分か慧羅の2択であることは確実だった。その時、慧彼はある決心をした。



 (私は……、……この親を殺す)



 妹を守るためなら、親を殺すことすら躊躇わなかった慧彼は、ご飯を食べさせる時以外は全て慧羅の世話をしていた。全ては親に殺されないようにするため。



 (何としても守る……、何度も来る魔の手を全てはたき落とすように……)



 そして約2年後、慧彼は明日で6歳となる時、親の行動全てに少しずつ不信感が湧いてきた。慧彼か慧羅、そのどちらかを殺す時は確実に近づいてきていることに気づいたその時、慧彼には両親を殺すための力がなかった。



 (……殺すための力がない)



 ただがむしゃらに立ち向かっていっても、殺されるだけだとわかっていた。



 「ねぇ、お姉ちゃん」



 その時、慧羅が話しかけてきた。慧羅は親の言うことに従順であり、姉である慧彼に甘えてくる。また、慧羅は家族が好きであり、誰も欠けることなく過ごしたいと思っている非常に家族思いな者である。そんな慧羅のことが、慧彼は大好きであった。



 「ん? どうしたの?」


 「難しい顔してたから……、……何か困ってるの?」


 「困ってるよ。けど、慧羅にまで迷惑はかけられないよ」



 慧彼は慧羅の頭を撫でてそう言い、微笑んだ。



 (さて、この子が寝たら私はちょっと行動に出よう……)



 慧羅はベッドの中に入ると、すぐに寝た。慧羅が寝たことを確認した慧彼は、静かに家を出た。幸い、家に親はいなかった。家に親が帰ってくる前に前橋市の夜の街に着いた慧彼は、ニュースで報道されていた、「児童養護施設の襲撃事件」の犯人がいることを願って、ただ立ち尽くしていた。



 「お前、私達のことを探そうとしているな?」



 慧彼はその者達を見た。すると、細身の男達が慧彼を囲んで立っていた。その奥から出てきた細身の男は、慧彼の姿を見た。慧彼はパジャマのまま、細身の男達を鬼の形相で見ている。その滑稽な姿に感心したのか、奥から出てきた細身の男は手を差し伸べた。



 「気に入った。お前のその目、力が欲しいのか」


 「……そうだよ」


 「ならこの手を取れ。痛みと引き換えに力を与えてやる」


 「力が手に入るならなんでもいい」


 「やはり見込んだだけある。さあ、手を取れ」



 慧彼は差し伸べられた手を取り、車に乗った。



 「力を与えるってことは何かの手術をするの?」


 「まあ、簡単に言うと手術だな」


 「そう……。……ならそれでいい」


 「それ以外選択肢はなかったがな」



 前橋市から仙台市までの約4時間、慧彼はただただ力を欲して、前を向いていた。



 「そんなに力が欲しいか」


 「もちろん」


 「じゃあ聞く。お前は手に入れた力で何をする?」


 「親に妹が殺されそうになってる。それを止めるため」


 「……そうか」



 車の中は地獄の空気だった。



 「あの中に入れ」



 慧彼は何も言わず、人体実験を行うための機械に入った。そして人体実験はスタートし、慧彼の体は固定され、果てしない程の激痛が襲った。慧彼は痛みに耐えようと悲鳴をあげた。その声は生々しく、そして酷かった。骨が無理矢理伸ばされ、皮膚、筋肉はちぎれてブチィィッと大きな音が鳴る。だが、それは無理矢理繋がれるためとてつもなく痛い。それを永遠と近いほどの時間を慧彼は体感した。だが、それはほんの一瞬にしか過ぎなかった。体に痛みが蓄積する。その痛みは、日常を生きている人間は体感することなど永遠にない程の痛みであり、何かに頼らないとこの痛みには耐えることは出来ないのだが、手足は封じられているため身動きが取れない。つまり、何にも触ることが出来ない、自分の体だけでこの痛みを耐えなければならないという苦痛を味わっていた。だが、慧彼は耐え続けた。愛する妹である慧羅を守るため、慧羅を殺させないようにするため、自分が親を殺すため、力を手に入れるため。そして、力を手に入れるため。

 体感では8時間を過ぎた。だが、実際の時間は3分にも満たない程短かった。苦しい。辛い。痛い。そして何よりも、長い。慧彼を蝕む痛みは、とうに慧彼の限界を超えていた。



 「この子は長いな……」


 「まだ3人目でしょうが。前例があまりないのに長いとか言わないでください」


 「まあいいじゃないか」


 「心配させなかったらいいんですけど……」


 「ははは、この子は決定的な意思がある。そう簡単に意思は折れないさ」



 その男の言葉の通り、慧彼は折れなかった。苦しくても、辛くても、痛くても、その時間が長くても、慧彼は慧羅を守るために耐えた。痛みに耐え続けるのは屈強な精神がないとできない。だが、慧彼にはその精神があった。

 痛みが治まった。慧彼は耐えた。力を手に入れるために。親を殺すために。そして、慧羅を守るために。



 「耐えたな」


 「5分間続いた激痛に失神無しで耐えるなんて……」


 「……面白そうだ」



 その男は、慧彼の姿を見て不敵な笑みを浮かべた。



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