50GF The deceased does not speak
「並び的に次は私か」
霞は話し始めた。
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瑠璃 霞。霞は孤児だった。そのため、幼い頃から児童養護施設でいた。環境はいいものとは言えなかったが、悪いとも言えない、至って普通の児童養護施設で1人、孤独に過ごしていた。その中、1人の男児を見ていた。その男児はリーダーシップに長けており、周りを大切に考えている模範的ないい男だった。イケメンであり、児童養護施設の中でのカーストはトップだった。ただ、霞は幼少期から性格が異常であり、歪であり、変であり、ひん曲がっていた。霞は、その男児とは真逆な人間になろうとした。
(あの男を目標にしよう……)
自分以外の人間を、「人間ではなく、自分に話しかけてくる幻想、虚構に過ぎない存在」として、人間として存在するのは自分だけだという唯我論を掲げ、自分以外の人間の言葉を完全に無視し、周りから人は離れていく。
そんなことをしている間に、周りには誰もいなくなり、自分の理想とする空間が完成した。
(できた……。これが私の望んだ完全なる虚構世界!! 幻想世界!! 私の空間!!)
この考えを知り、霞の望んだ完全なる虚構世界を完成させた時、なんと3歳である。
そしてもうそろそろ6歳となる頃である11月13日、霞は引き取られた。普通、親族じゃないと引き取ることなんてできないが、今回の場合、児童養護施設自体が襲撃されたのである。職員や児童は全員無惨に殺され、6歳の誕生日が明日である霞だけが運良く生き残ったのだ。
(完全なる虚構世界が……)
霞は自分の世界として構築していた完全なる虚構世界が、目の前でことごとく壊れる姿に苛立ちを覚えた。
「お前にはある実験に付き合ってもらう」
「付き合う? まだ5歳なのでお断りします」
「そういう付き合うじゃねぇよ。お前みたいなやつなんかと付き合うわけないだろ」
「えっ……、失礼……」
「とりあえずお前は実験の被験者で確定だ」
「あ、確定なんだ私」
「……黙れ!!」
幼少期の霞は、襲撃者が怒るほどうるさかった。
霞は車に乗せられ、蕨市から仙台まで向かった。
「ここに入れ」
「はいはい」
霞は何の抵抗もなく実験に使う機械の中に入った。そして実験が開始されると、霞は悲鳴をあげることはなく、ただただ実験をしている研究員のことを見ていた。そして、冷静に周りを見ていた。
(ここ……、ビルドって言うんだ……)
霞はあまり痛みを感じなかった。そのことには全研究員が驚いていた。
「あの子全然痛がりませんよ」
「屈強すぎませんか? ねぇ白銀さん」
「あの女……、痛覚をあまり感じていない?」
「え? 痛覚が?」
「偶にいるんだよ。こういうやつは過去に何かしらの影響を受けてるってな」
「へぇー」
研究員たちがそう話していると、実験は終了していた。変わり果てた姿に霞は少し驚いた。
(これが新たな姿か……)
「それで、体をいろいろ弄る実験ってことでOKかな?」
「あなた……、痛みは感じた?」
1人の研究員が霞に近寄り、水入りコップを渡しながら聞いた。
「まあ感じたよ。すんごい痛かったよ」
「じゃあ、強がってたってこと?」
「まあ、そんな感じだね」
霞はそう言い、1人の研究員から渡された水入りコップを見ていた。
(水……。柱とかになったら面白いんだけどな……)
じっと見ていると、水は地面と垂直に伸び始めた。そして、霞の身長より少し上へ行ったところで止まり、水の柱が生まれた。
「これが能力!?」
「この子が……」
「え? 能力? ……これが私の能力?」
霞は瞬時に全てを理解した。思い通りに水を動かす能力。これが自分の能力だと瞬時に理解し、それを当たり前かのように実行しているその姿を見て、研究者たちは驚く以外できることがなかった。
「じゃ、とりあえずここから立ち去りますわ」
霞は、この施設にある水を使って背中に翼を生やし、仙台から脱出し、大阪へ1人向かっていた。翼を生やして飛ぶ速度は、この能力を使って初めてなのだが、新幹線を凌駕していた。
(……なんで大阪向かってるんだろ)
霞自身、なぜ大阪に向かっているのかは分からなかった。本能的なものが行けと行っているのか、それとも行く運命なのか。全ては神だけが知ることである。
そして淀川に着水した時、ある者達が河川敷から見ていた。何かを話しているようだった。だが、全く聞こえなかった。それは、水の中から陸上の音はあまり聞こえなく、霞は少し耳が悪いからである。
(何か喋ってる……、とりあえず陸に上がってみるか……)
霞が河川敷に上がると、霞を見ていた者達は霞を見下ろすように立った。そして話しかけた。
「君を引き取ろう。私達、マネジメントで」
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「私はこのくらいしか覚えてない」
「全員……、過去やばくない?」
風月は盾羽、白夜、霞の3人の過去を聞き、驚愕していた。
「まあ、人体実験受けてるしそれまでの過程が大変なんだろうなって思う」
そこを白夜は冷静に語る。その姿には違和感が溢れていた。それを慧彼は口に出してしまった。
「白夜が真面目なこと言ってる……」
「私ってそんなに真面目なこと言ったら変!?」
「変。すごく変」
「マジか……」
慧彼は全員を見て、語ろうとした。
「じゃあ最後は私が……」
「明日で」
その時、風月はそう言った。
「えっ?」
慧彼は思わず困惑したことを口に出してしまった。
「流石に明日で」
白夜も便乗した。
「私も明日を希望します……」
盾羽も便乗した。
「じゃあ私も」
霞も便乗した。
「いや、「じゃあ」って言ってるじゃん!!」
「これはこれ、それはそれ」
「意味が違う!!」
「まあ、とりあえず明日の夜っていうことで、とりあえず今日は寝よう」
風月がそう言うと、全員はぞろぞろと布団の中に入り、すぐに寝た。




