49GF The overthrower tell the past
「じゃあ次は私かな?」
白夜はそう言うと、話し始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
満月 白夜。白夜は、ただただ普通の一般家庭の元に生まれた。何の変哲もない、強いて言えば兄弟の数が多いくらいだろうか。兄が5人、姉が3人、弟が2人、妹が4人であり、そこに父、母、そして白夜を加えた17人家族であった。
白夜の家庭は、兄弟の数が多いために喧嘩がよく起こっていた。白夜はそれに巻き込まれる形で被害を受けるため、ボロボロになることがよくあった。兄と兄が喧嘩を始めると、白夜は止めたいと思うことがよくあった。だが、それに関わると自分が巻き込まれ、無駄な被害を被ってしまう。だから、それを止めるだけの力が欲しかったのだ。
(力の強い兄貴達の喧嘩を止めたい……。けど……、それには圧倒的に力が足りない……)
白夜は外を歩きながら考えていた。
歩きながら考えていると、周りは次第に暗くなっていき、夜の街並みが広がっていた。
(夜……、いつの間に……)
5月26日。ギリギリ梅雨に入らない位の時期であるため、日が落ちる時間はかなり遅かった。そんな時、不審者は多く集うのだ。
その時、4台の車が白夜を囲うように止まった。そして、そこから出てくる細身の男達は、白夜を取り囲むように立った。
「君、ちょっといいかい?」
白夜は話しかけてきた細身の男を見た。黒服にサングラスをかけた非常に威圧感の強い者であり、白夜は少し後ずさった。
「そんなに怯えるなよ。ただただ話をしたいだけだ」
「………話?」
「そう。君は何が欲しいんだ?」
「……力が欲しい。けど、どうやって私に力を?」
自分に直接力を渡す方法が、白夜には分からなかった。
(道具なんか与えられても……、私は上手く使えない……。じゃあどうやって私に力を与えるつもりなんだろ……)
すると、細身の男は正面にある車の助手席のドアを開けた。
「力をやる。その代わり、我々についてきてもらう」
(ついていくだけでいい?)
白夜は、そんなことでいいのかと思った。ついていくだけで力を手に入れることができるなら簡単だと思った。もっと過酷な条件なんだろうと思った。白夜は、力を手に入れるにはそれ相応のことをしなければならないと思っている。そのため、ついていった先で何かが起こるのだと考えた。
「わかった」
過酷なことが待っているのを覚悟の上で、白夜は細身の男についていくことにした。
「君は何のために力が欲しいんだ?」
「兄同士で喧嘩するんですよ。それが私にとってすんごい酷いって言うか……、周りを巻き込んでするから……、それをどうにかして止めたいって思ってる。けどそれには力がいる。力で止めないと兄は止まらない。だから私は力が欲しい」
「喧嘩を止めるために力を使うのか。なるほど、それは面白い理由だ」
そう細身の男は言い、仙台まで車を走らせた。
「さて、この機械の中に入ってもらおうか」
「これは?」
「力を与えるために君の体に少しいじる。まあすぐに終わる。痛みは来るが、我慢してくれ」
白夜は機械の中に入り、人体実験が開始された。体を強制的に伸ばされ、骨が砕ける。その度に再生し、皮膚は結合される。そこに神経はすぐに行き渡り、また砕ける。絶叫も血もは外に出ることはなく、ただただ白夜の体には痛みが蓄積されていった。だが、白夜はその方が楽だと思った。白夜の中では力を手に入れるためには、この痛みは妥協範囲だったのだ。激痛に耐え、耐え、耐え続ける。だが苦しい時間というものはすぐには終わらない。体感では8時間くらい格闘していた。だが、実際は3分ほどである。その現実の辛さに、白夜は立ち向かっていた。それは、力を手に入れるという純粋な欲望のために。
「終わったぞ」
5分間続いた激痛に耐えた。辛さはこれまでに体験したことがないくらいの痛みであり、これを超える痛みはないと白夜は思った。
「さあ、兄の喧嘩を止めるんだろ? 行ってこい。横浜までは送ることはできないが」
「ありがと。力をくれて」
白夜は、目線が明らかに高くなっていることには違和感を感じなかった。感じるより前に、兄の喧嘩をどうやって止めようかと考えていたからだ。
「名前だけでも教えてくれない?」
「教えるわけないだろ。仮にも誘拐犯だ」
「ま、そうか」
白夜はその場を離れ、走って横浜まで走った。
「ただいまー」
家に入ると、兄が喧嘩している声が聞こえた。次に聞こえたのは、物が壊れる音。家の何かが壊れている音だった。パリンと割れる音は、まるで皿を落とした時に鳴るような音だった。
(昨日いない間に喧嘩はここまで……)
白夜は喧嘩が起こっているリビングに入ると、殴りあっている2人の兄がいた。他には、部屋の角にいた弟達だけだった。
(止まれ)
そう思った時と同時に、喧嘩をしていた2人は、急に床へへばりついた。白夜は最初にそう思った。だが、2人の顔を見ると何かが違う。次に思ったのは、「何かに押さえつけられている」ということだった。急に床へへばりつくわけがない。なら、何かに押さえつけられているしかないと思ったのだ。何に押さえつけられている? 何も見えない。白夜の視界には、押さえつけている原因となっているものは何も見えない。目に見えず、全てを押さえつけるもの。つまり、重力だ。
(重力を操った?)
白夜はその考えを思い浮かべた瞬間にそう理解し、2人の動きを再開させるために重力を元に戻した。
「お前誰だよ」
喧嘩をしていた1番上の兄が、変わり果てた姿の白夜に聞いた。白夜は身長、スタイル、顔つき、声など、外見が全て変わっていたことに気づいていた。だから質問をしてきた意味がわかった。それがわかった上で、1番困惑する返答をした。それは……。
「白夜だよ。満月 白夜」
正直に答えることだった。
「は? あんなにちっぽけな力しかなかったあの白夜か? ……笑わせんなよ!!」
「邪魔なんだよ!! ここから消えろよ!!」
「あのね。あんたらが喧嘩するのはまだいいとしてさ、周りまで迷惑をかけるのは違うと思うんだよね」
「黙れ!! お前に関係ないだろ!!」
「いいや大アリだね。イラついてるのか知らないけどさ、皿割ったり、他の兄弟を殴ったり、そういうのって1番よくないと思うんだよ」
「仮にお前が白夜だとする。けどな、お前ごときが俺達の何をわかるんだよ!!」
「わかるわけないじゃん。だからこうやって……」
殴りかかってくる1番上の兄の懐まで近づき、顎に思いっきりのアッパーを浴びせた。
「力で止めるしかない」
殴られた1番上の兄は、宙を放物線状に飛ぶ。そして地面に横たわった時、白夜は喉を思いっきり踏んだ。
「ここで殺してしまっても別に問題は無いと思うんだよ。だってさ、こんなクズ共と一緒に住むとか嫌だし」
「じゃあお前がどっか行けよ!!」
喧嘩をしていた相手である上から4番目の兄は、白夜にそう言った。
「いや、私達がどっか行って欲しいって言ってるんだよ。あんたらがいたらこの家壊れるんだけど。後さ、あんたらが消えてもらった方が私達楽なんだよ。去る人数はそっちの方か少ないんだし」
「は? 消えてもらうのはお前だけだろ。なあ? お前ら」
4番目の兄がそう言うと、弟達は全員白夜の元へ向かった。
「こういうこと。早く消えてくれないかな」
そう威圧をかけて言うと、4番目の兄は怯んで後ずさった。
「あんたはどうすんだよ」
1番上の兄の喉から足を離し、喋れるようにした。
「出ていく」
そう言うと、2人は窓から出ていった。
「私もちょっと外出るからさ、ここにいて」
弟達にそう言うと、玄関から出て兄たちを追った。
「さて、どうする?」
一瞬で追いついた。周りに監視カメラはなく、住居すら存在せず、ただただ何も無い場所だった。人は通っておらず、自分の命を守る手段は、自分の力だけだった。
周りに監視カメラはないことを確認した白夜は、仙台に向かう途中に細身の男から貰っていたハンドガンを手に取り、銃口を兄達に向けた。
「まさか……、撃つのか?」
「この状況で撃たないっていう選択肢あるの? ないよね。状況考えればわかるじゃん」
「人を殺すってことに躊躇いは無いのか!? ましてや家族だぞ!?」
「躊躇いなんてあるわけないじゃん。家族だと思ってないし。まずまず人間だ思ってないし」
兄達は、白夜の変わり様に恐怖を感じていた。
「生き物ってね、生きてる限りは必ず死ぬんだよ。それは、神話に登場する神だって死ぬ。それは、人間であるあなた達も同じ。遅かれ早かれ死ぬだけ。私はそれを早くしてるだけ。あとね、これは生き残るためにするんだよ。私は私の大事なものの為なら、家族だとしても容赦なく殺す」
白夜はそう言い、1番上の兄の脳を狙って撃ち殺した。その横にいた4番目の兄は、さっきまで喧嘩をしていた兄を見て、白夜に怯えていた。地面に尻をつけ後ずさる姿は、白夜にとって滑稽でしかなかった。白夜は笑いながら引き金を引き、撃ち殺した。返り血を体につけることなく殺した白夜は、何事も無かったかのように家へ帰った。
「何も無かった?」
「本当に白夜ねーちゃんなの?」
「そうだよ」
1番下の弟の頭を撫でると、弟は泣いて白夜に抱きついた。
「怖かった……。すごく怖かった……」
「私も怖かった……。けど私は力を手に入れて兄達を家から追い出せた。まあ、その代償がこの体の変化なんだけどね……」
そして満月家は、日々の喧嘩によるストレスで自殺した両親の代わりに金を稼ぐために、高校生だった上から2、3番目の兄は働き、なんとか生活費を稼いでいた。遺産は上から2番目の兄に引き継がれ、なんとかやりくりをしている。
時は流れて中学2年生の冬、白夜は女ヤンキーとして横浜中を暴れている存在になっていた。
(……何してるんだろ私)
自覚はあった。だが、知らぬ間にこうなっていた。
そこに、1人の男が現れた。
「お前が満月 白夜か」
「そうだけど……、……何?」
「力を持て余してるようだな。しかも何をしているかわかっていないような顔をしている。……ついてこい。最適な場所を教えてやる」
(最適な場所……)
白夜は、その男に連れられるがままに大阪へ来た。
「お前は2008年5月27日、人体実験を受けているな?」
「年月は覚えてないけど、人体実験はされた。力を手に入れるために」
「……お前は力を手に入れるためなら、あの危険な実験すらも受け入れるのか!?」
「当たり前。そうしないと今の私はいない」
「……もういい。お前、世界の悪人を殺すためにその力、使う気はないか?」
「悪人ねぇ……、……いいよ。やる」
考えている間はあまりなかった。その決断の早さは、目の前の男を驚かせた。
「ならいい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まあ、覚えてる範囲ではこんな感じかな」
「それで……、ヤンキーになった経緯は……?」
冗談半分で風月は白夜に質問した。
「覚えてない」
白夜は、そう軽く受け流した。
「並び的に次は私か」
霞は話し始めた。




