47GF Beyond the Great Wall was the freedom to expand
雷風は、羅刹天との間合いを一気に詰めた。そして、容赦なく羅刹天の核めがけて刀を振った。羅刹天は、完全に殺す勢いで刀を振っていたことが一目見てわかった。
(雷風は本気で殺しに来てる……。……けど、戦わないと私も火天を救えない……)
着地した羅刹天は、前方に大量の魔法円を展開した。展開した全ての魔法円から瞬時に光線が放たれ、それは全て雷風へ向かって飛んでいた。
(発動する量が多い……。短期決戦に持ち込もうとしてるのか……)
雷風は飛んでくる全ての光線を、1つの方向へ逸らした。その光線達は空中で螺旋を形成し、集束して1つの光線となり雲を突き抜けた。雲に穴を空けた瞬間、波紋が広がるように雲が消えていき、終いには周囲にあった雲は完全に蒸発して消滅した。
光線に紛れて雷風に近づいた羅刹天は、更に魔法円を展開し、そこから光線を放った。雷風はさっきと同じように光線を逸らし、展開している魔法円の場所がだんだん近づいていることに気づいた。
(魔法円の展開場所が近づいてきてる……。ってことは、羅刹天が接近戦を仕掛けようとしてるのか)
羅刹天は、雷風の目の前で魔法円を展開した瞬間に光線を放った。だが、それを前傾姿勢になることで避けた雷風は、魔法円の下から羅刹天に斬撃を放った。それは核を的確に狙って放たれたものであり、避けないと確実に死ぬ一撃であった。だが、羅刹天は展開していた魔法円を踏み台にして後ろへ飛ぶことで、雷風の斬撃を紙一重で避けることが出来た。
(ここからどうするか……。雷風には大体の攻撃は避けられる……。……なら、避けられない体勢の時に攻撃をしなければならない……)
空中で考えている間にも、雷風は羅刹天を追撃しようと走って追いかけてくる。それを羅刹天は確認していた。
(雷風を避けられない体勢にまで追い込まないと……。ならいったいどうすれば……)
激しく悩むが、時間はそうなかった。もう少しで着地する。そこに高速で来る雷風。羅刹天は、追いかけてくる雷風のスピードを落とすために魔法円を大量に展開し、雷風に向けて光線を放った。それを避けるために刀を使い、光線を逸らしていく雷風のスピードは、少しだけだが落ちていた。
(とりあえずうまくはいった……)
この状況を見て、羅刹天はあることに気づいた。
(雷風はこれまで交戦を1つの方向にしか逸らしていない……。ならそれはまだ余裕があるということ……。……なら、対応に追われるくらいの量の光線を色々な方向から放てばいい。平面的に考えるのではなく、立体的に考えて見る!!)
羅刹天は着地し、上から跳んでくる雷風を中心に、球状に魔法円を展開した。その量は、これまでに出した魔法円の量からはかけ離れており、これには雷風も驚かざるを得なかった。羅刹天は雷風の顔を見て笑い、その魔法円たち全てから光線を一気に放った。
(逃げ場を無くしたか……)
雷風は1つ1つ丁寧に捌いていった。その速度は尋常ではないほど速く、刀が空気を斬る音と刀が光線を逸らす時に生まれる音が、そこ周辺に鳴り響いた。
(にしても量が多すぎる……。捌くのはできるが、1つの方向に逸らせと言われたらさすがにキツイな……)
雷風は1つの方向に光線を逸らすことをやめた。それをやめた瞬間、光線を逸らすスピードが一気に上昇し、少しだが余裕が生まれた。
(この隙に……)
羅刹天はその瞬間、一気に魔法円を全て消した。雷風は空中で刀を振り上げた後、つまり避けようがない体勢に追い込むことに羅刹天は成功したのだ。羅刹天は雷風に一気に近づき、雷風の鳩尾に1発、強烈な打撃を放った。雷風はビルの外壁で上手く受け身を取り、外壁に傷をつけることは無かった。
「合格だ。羅刹天」
雷風は羅刹天の元へ行き、家に来ること促すジェスチャーをした。それを羅刹天は読み取り、雷風の後をついていった。
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羅刹天は雷風の家に入り、お互いソファに座った。
「さて、お前の過去は記憶回路を共有することで読み取ることにする」
「記憶回路?」
「まあ、一般的に言うと記憶だ。それを共有することで、前に何をしたかっていうのがわかる。見すぎたらプライベートに支障をきたすし、体内に入っている記憶しか読み取ることが出来ない。これは天城のデータに入っていた情報だ」
「へ、へぇ……」
羅刹天達十二神は、神月の研究データが脳にインプットされていない。そのため、雷風の言っている神月の研究データに関することは何もわからないのだ。だが、意味自体はわかるので、初めて知ったリアクションをしている。
「それと同じようなものだが、思考回路ってものもある。まあ、思考を共有するものだ。この2つには基本的に制限がない」
そこで、羅刹天は1つ疑問に思った。これから何をしようとしているのか? 火天を救うために何をするのか? それを雷風に聞いた。
「それで、それを共有したとして何をするの?」
「お前が言ったんだろうが。火天を救うために行動するんだろうが。まさか、考えてないってことは無いよな?」
「……」
「図星だな」
羅刹天は何も考えていなかった。それを見越していた雷風は、羅刹天に1つ提案した。
「お前、この家に住まないか?」
「……え?」
羅刹天は混乱した。何故前まで他人だった人造人間を、ましてや前日まで敵だったのだ。羅刹天は、自分をここに住まわせる意味が完全にわからなかった。
「……それはなんで?」
「お前、家ないだろうが。どこで休息するつもりだったんだお前」
「え? 普通に街中」
「バカか。当たり前のようにホームレス宣言するなよ」
雷風は1度溜め息をついて、話を戻した。
「それで? 住むのか住まないのか早く言え」
「自分用の部屋があるなら住まわせてもらう」
「わかった。空き部屋はまだあるからそこをお前の部屋にする」
雷風は無線で慧彼に連絡した。
〔おい慧彼〕
〔ん? どうしたの?〕
〔お前ら、旅行行くか?〕
〔すんごい急じゃん。それでなんで旅行?〕
〔福引で当たった〕
〔強運じゃん……。……まあ、とりあえず聞いてみる〕
〔ちなみに青森県の奥入瀬渓流温泉な〕
〔青森県かぁ〜。めっちゃいいじゃん〕
〔満足してくれて結構。じゃ、諸準備とかはこっちで済ませとくから行ってこい〕
〔ありがと。5人分、よろしく〜〕
〔なあ、その場に全員いるのか?〕
〔あ、いるよ。ちなみに全員行くって〕
〔まあ、楽しんでこいよ〕
雷風は通信を終了した。
「てな感じで他の断罪者は当分帰ってこない。まあ、好きなようにしてくれ」
「わかった」
そして雷風と羅刹天は、羅刹天の部屋となるはずの空き部屋へ向かった。
「……綺麗」
「まあ、掃除はしてるからな」
「寝るところがない……」
「それ以外もないからな。とりあえず買いに行くぞ」
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雷風と羅刹天は家具や雑貨、インテリア用品などを購入した。そして設置も済ませ、2人はリビングでくつろいでいた。
「そういやお前の名前ってさ、日本じゃ使いにくいよな」
「ま、まあ……。そうだけど……」
「じゃあ俺が日本で使えるような名前付けてやるよ。それを住民票に追加する」
「名前……」
羅刹天は少し嬉しくなった。
「なんで嬉しくなったような顔してんだよ」
「いや、私のためにわざわざつけてくれる人って初めてだから」
「そういや十二神って、十二天の名前が元だったな。それに沿った名前になってるのか?」
「そう。だから、12体の人造人間に適当につけていったんだと思う」
「じゃ、ちゃんとした名前考えてやる。少し待ってろ」
そして5分後、雷風は何の前触れもなくその名を口に出した。
「雫」
「え? 今なんて?」
羅刹天は、思わず聞き返してしまった。
「鬼頭 雫。それがお前の名前だ」
「ありがと……」
「感謝すんな。感謝してもらうのはもっと先だ」
羅刹天の名前は、鬼頭 雫に変わった。




