45GF The hand extended from the abyss is wrapped in light
目の前には高く燃え、非常に熱い炎があった。羅刹天はその瞬間に負けを確信した。
「強くなったね、羅刹天」
「いや、まだまだ敵わないよ……」
火天は炎の剣を消し、羅刹天に手を伸ばした。その手を羅刹天が取ると、火天は羅刹天を引き上げるように腕を動かした。火天と羅刹天は、2人の間に何かが繋がったような気がした。
「いつ行くとか決めたの?」
「いや、とりあえずビルド内に十二神が少ない時に行く」
「それまで私は九州行っておくよ」
すると、火天は西を向いて能力を使用し、九州へ向かった。それを見送った羅刹天の目は、何かを決意した目だった。
(人間と人造人間の共存……。火天……、私は火天の願いのために生きるよ……)
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火天が九州に行ってから4日が経った。羅刹天は、ビルド本部に十二神がいないタイミングを、ただ静かに見計らっていた。羅刹天の部屋の中はこの4日間、音がなかった。何も鳴らなかった。虚空で包まれているような、空虚に塗れているような、静寂で閑静な部屋だった。それは、ビルド本部内にいる人数を把握するためであり、羅刹天が動き出したのは、ビルド本部内に十二神が誰もいない瞬間だった。
(今動いたら出れる……)
羅刹天は静かに部屋を出て、走る時の足音を消して出口へと向かった。羅刹天は冷静だったが、急いでいた。他の十二神がビルド本部に帰ってくる前に、大阪を出なければならないと思っていたからだ。
(外には誰もいないはず……)
羅刹天は、なんばパークスのB24番出口から外へ出た。そこには、すぐ近くに高速道路があり、高速道路の上まで跳ぶと、そこには毘沙門天がいた。毘沙門天は羅刹天の腰ほどの大きさであり、翠玉色の瞳に青髪のイケメンであった。そこから出されているオーラは、見た目では考えられない程圧迫感があった。
「俺は止めこそしないが、お前がもし殺されそうになっても何もしない。まあ、目の前で殺されそうになったら流石に助けるが、火天程、お前に寛容に接するわけではないことは忘れるな」
「わかりました」
「それで? お前はどこに行く?」
その時、羅刹天の返答は既に決まっていた。
「火天の願いを叶えられる場所に行きます」
「そうか……。俺は止めることはしない」
「ありがとうございます」
「早く行った方がいい。十二神が帰ってくるからな」
冷静な口調でそう言うと、毘沙門天は6本ある腕を展開し、そのうち2本の手で、手を叩いた。すると、腰ほどの大きさしかなかった毘沙門天が、一気に5m程の大きさまでに一気に成長した。
「俺がお前を東に投げる。それをうまく使って目的地まで向かえ」
羅刹天は、毘沙門天に全てを悟られているように感じた。「火天の願いを叶えられる場所に行く」と言っただけなのだが、進行方向が東であること。目的を言わずに全てが通じたこと。そして何よりも、止めなくてもいいことであると瞬時に悟ったこと。この3つの根拠を元に、羅刹天は全てを悟られていると感じたのだ。
毘沙門天は、羅刹天の胴体を掴み、助走をつけて東に向けて飛ばした。それは、仙台に向かって一直線であり、進行方向まで察することができるのかと羅刹天は思った。
「さて、羅刹天はどのようなことをしてくれるのだろうか……」
毘沙門天は微かにだが、羅刹天と火天に期待していた。
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仙台市の農場付近に着地した羅刹天は、雷風達のいる学校へと向かった。
(雷風……、いてくれたら嬉しいんだけど……)
羅刹天は走った。羅刹天は走った。羅刹天は走った。羅刹天は走り続けたのだが、雷風のいる学校にたどり着く気配が、微塵もなかった。周りからは、ただただ変な目で見られていた。羅刹天はそれを感じることなく、走り続けた。
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雷風は学校から離れて、ある交差点の近くにあるビルの屋上に来ていた。学校は見えるため学校内の監視はできているのだが、雷風は下にいる者に注目していた。
(……なんだあれ)
物凄いスピードで走り抜けていくその姿に、雷風はある者の姿を重ねて見ていた。周りは走る姿を変な目で見ていたが、雷風だけは違った。
(……ついてくか)
雷風は、羅刹天が気付くくらいの尾行でその者を追った。それは、雷風が羅刹天だと思ったからだ。
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(誰かついてきてる……)
羅刹天は気付いた。誰かがどこからか尾行していることを。それに確証こそないものの、羅刹天は気付いたのだ。それは、本能で察したものだった。だが、羅刹天は気にせず走った。それもまた、本能察したものであった。
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羅刹天が学校へ急接近しているところを、雷風は見ていた。それを見た雷風は、一直線に学校へ向かう羅刹天の元へ向かった。
(あいつは多分、学校に近づけてはいけない……。だが、奴も奴なりでここに来て、あの学校に行く理由がある……。なら、自分でその理由を問い質した方がいい)
雷風は急いだ。羅刹天よりも速く、その姿は空を駆ける鶻のようだった。風を切って走る音はなく、残像が本体だと思わせるように見えた。だが、そこに触っても意味はない。そこは、既に空虚だから……。
羅刹天の視界の先には、雷風と前に戦った学校が見えていた。その学校は、周りから見ても圧倒的なスケールであり、存在感もあるため、一目見ただけでどこなのかがわかるほどだ。
(あれだ……!!)
羅刹天は急いだ。そこに突如、見覚えのあるシルエットが学校の前に現れた。羅刹天は一瞬、明らかに動揺したが、その動揺は一気に安心へと変わった。
「何をしている。羅刹天」
雷風だった。




