43GF A true best friend is someone who speaks his mind
4車線の真ん中に立つ2人は、互いに向き合っていた。すでに戦闘態勢に入っている火天と、少し距離を取った後に戦闘態勢に入った羅刹天は、動き始める時に生じる地面を踏み込むスピードに違いがあった。
(遅れた……)
戦闘態勢に入ってすぐにその事を察した羅刹天は、火天の突進を対処するために後ろへ跳んだ。それと同時に、自分の真横に1つ魔法円を生成した。火天が着地した瞬間に、羅刹天はその魔法円を殴り、魔法円自体を火天の目の前まで飛ばした。
(これで動きは制限できるはず……)
火天の目の前で放たれた光線は、火天を包み込んでいなかった。放たれる寸前で火天は上に跳び、光線から逃れた。火天は能力を発動し、火天の発生させた炎が、勢いよく燃えた時に発生する空気を押し上げる力で、羅刹天の元へ向かった。
(ここまで近くなったら光線を撃つのは危ない……)
火天と交戦はしているものの、羅刹天の目的は交戦することではなく、洗脳している部分の大元を探るためである。決して、火天を殺してはいけないのだ。その一方、洗脳されているため本気を出すことができない火天だが、体を守ろうとする防衛本能が働いているため、攻撃より防御を優先する。そのため、避けれる限界の攻撃は全て避けようとする。防御できる攻撃は全て防御する。それを知らない羅刹天は、まだ避けることができる距離であるものの、交戦を放つことを躊躇ったのだ。
(避けれるってことを伝えたいけど……)
火天は、思考以外を洗脳の動きに任せたため、喋ることが非常に困難になっていた。考えてもそれを行動に移すことができないため、近づく機会がなかった。だが、今は羅刹天に近づいている。チャンスは今しかなかった。火天の中にある抵抗力を限界まで引き出し、発言できるようになった。
「撃つんだったら撃って。私の体、そこまで脆くないから」
これが限界だった。だが羅刹天は理解した。この言葉だけで、火天の体に起こっている状況を理解した。だが、その時にはもう、交戦を撃つ距離ではなくなっていた。火天は羅刹天を殴ろうと、右拳を前へ突き出した。それを羅刹天は右腕で止めた。その時、火天の右側が無防備だったため、羅刹天は左足で火天の右脇腹付近めがけて蹴った。だが、火天はそれを左手を使って止めた。
(肉弾戦は互角……)
その後も激しい打ち合いが続いた。光線を放つ暇すらなく、拳と拳がロストエネルギーを纏った状態でぶつかっていた。周りから見ると、拳の残像が見えている程速く、そう簡単に乱入できるものはいなかった。
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高速道路からは少し離れた場所、そこには風天がいた。深い緑の綺麗な長髪で、深い緑の瞳が映すものは、夜の中で荒廃した大阪の街だった。
「これが全て日天がやったのか……。やはり規格外の強さだな……」
その時、微かにだがロストエネルギーを纏った風が風天の周囲を通った。
「……北西方向か。誰かがロストエネルギーを使ったのか?」
風天は自身の微かな疑問を解決するために、北西へ向かった。
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羅刹天は、火天の脇腹を蹴り、荒廃したビルの壁へ打ち付けた。蹴るのと同時に光線を放ち、動きを封じることに成功した。火天はそこから動くことができず、ただ壁に埋もれることしかできなかった。
(これで火天の体の中にある異常を調べられる……)
羅刹天は火天の胸に触れ、体の中を探った。目を閉じ、集中していた。それと同じく、洗脳する力が徐々に弱くなっていたため、火天は喋ることができた。
(この気配……、いったい何? 高速で近づいてくる……)
「羅刹天、何か来る」
火天は羅刹天に伝えた。すると、羅刹天は火天の体の中を探りながら近づいてくる方向を向いた。
「確かに何かが来てる」
その時、強風が火天と羅刹天を襲った。立ってることが奇跡なほど強く、足の力を緩めるとすぐに倒れてしまう程だ。台風の3倍はあるだろう。そう考えた2人だが、その風を発生させている正体は近くにいた。
「何をしている。羅刹天」
シルエットからは想像することができないほど低い声。そして何よりも、声質が渋かった。その特徴が当てはまる者は1人しかいない。
(風天か……)
2人はそう思った。
「風強くない? 解除してもらえる?」
火天がそう言うと、風天は発生させていた風を止ませた。
「それで……、何をしている? 羅刹天」
「洗脳している大元が火天の中にあると思ったから調べてる」
「それなら……、もうそろそろ自然解決するはずだ」
「え?」
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梵天と帝釈天のいる部屋の近くを、神月が通っていた。圧倒的なプレッシャーを感じていた梵天と帝釈天は、言葉を発することも、動くことも、呼吸することすらできずにいた。
「ここか」
扉の向こうから聞こえてくる声は、一言一言に重みがあった。それは間違いなく、神月本人のものだった。
「何をしている。お前ら」
神月は扉を開け、梵天と帝釈天がモニターを見ているところを見た。
「監視ですよ」
「監視か。なら俺にも見せろ」
神月はモニターを見た。それは、戦闘している火天と羅刹天だった。
「戦闘データか?」
「は、はい」
「梵天。今、動揺したな?」
神月は、少しの声の揺らぎだけで動揺していることを当てた。そして帝釈天を見ると、帝釈天もまた動揺していた。
「貴様ら、能力を剥奪されたいみたいだな。俺を相手して恐怖するとは」
神月は手に持っていた機械を2つ、梵天と帝釈天に1つずつ向けた。
「これはフェイルチーターという。焔摩天が製作してくれたんだがな、使用した相手の能力を共有したり、剥奪できる」
すると、神月はフェイルチーターを起動し、梵天と帝釈天の能力を剥奪した。
「能力自体はこのフェイルチーターに入っている。これは有効活用させてもらう」
その瞬間、モニターはロストエネルギーに戻り、街中にあった監視カメラも全てロストエネルギーへと戻り、帰ってきた。
「能力を剥奪……」
「これは罰だ。隊列を乱すな」
神月が部屋を出ると、帝釈天は自身の手を見た。
「洗脳が封じられた……」
「まあ、直接戦闘とは関係ないからいいんじゃないか?」
「まあ、そうか」
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火天は、洗脳が解除された。すると、途端に動けるようになった。
「俺は帰る。お前らは何かするのか?」
「もうちょっと話をしてから帰る」
「私は……、帰れないと思う」
「お前を差別することは十二神の中では常識になっているからな。まあ、神月様はその事を知らないみたいだが……」
「伝えなくていいよ。私はやりたいようにする」
「裏切ったらその時はその時だ。それをしないなら俺はお前に対して友好的に接することを約束する」
「それは任せるよ。……1つに気になったんだけどさ、風天って男なの?」
「男だ」
風天はそう言うと、その場から消えた。
「羅刹天。私はね、人間と人造人間が共存できる世界を作りたい」
「共存……」
「そう。断罪者だって人間と人造人間が共存してできてる組織。それは地球全体でもできるんじゃないかって思うの」
それは、他の十二神の口からは絶対に出ない言葉だった。
「この組織から抜けて断罪者側に付くなら付いて。私は羅刹天を通じて共存する道を作りたい」
「……それがもしできなかったら?」
「私はできるまで諦めないと思う。けど、断罪者が大阪に来たらこう言うと思う」
「……なんて言うの?」
「私は、「ここにいる人造人間を、1人残らず殺して」って言うと思う。それは神月を含めて言うと思う。私はそのためにここに残る」
羅刹天には、自分の考えを伝えている火天の意思を汲み取った。その上で、羅刹天は火天にやりたいことを伝えた。
「1ついい?」
「いいよ。何?」
「さっき戦ったじゃん? だからさ、次は全力で戦わない?」
戦うことの本質を知った羅刹天は、火天と戦いたいという欲望が出てきた。
「いいよ」
火天もまた、羅刹天と全力で戦いたかった。2人は距離を取り、戦闘態勢に入った。
「最後かもしれないこの戦い。全力で殺り合おう」
火天がそう言うと、火天は炎自体を物質化し、超高密度に圧縮した剣を生成した。それに炎を纏い、羅刹天に突進した。




