42GF The exit from hell is still far away
大阪に帰った羅刹天は、神月に報告しようとビルドの本拠地へと足を踏み入れた。本拠地に入るのが久しぶりな羅刹天は、微かにある記憶を頼りに神月のいる部屋へと向かった。
「お? 強くもなれないカスが何しに来たんだよ」
羅刹天は、一番めんどくさいと思っていた相手に見つかってしまった。
(梵天か……)
今すぐ殺したい。そんな心を抱いていたが、ここは本拠地であるため、殺してしまうと一気に劣性になってしまうためできなかった。羅刹天は梵天に向けていた殺気を抑え、神月のいる部屋へと向かった。
(あのカスの殺気に俺は怯えてた……?)
梵天は、羅刹天が向けた殺気に身体が怯えていた。心は必死に抵抗するが、それでは抑えられないほど怯えていた。体は震え、後ずさっていた。
(落ち着け……)
そんな梵天の姿を、陰から見ているものがいた。
(梵天……。……何してんだ?)
そう思ったのか、その者は梵天に近づいて話しかけた。
「なあ梵天。何してんだ?」
「ど、どうした?」
「なんでそんなに動揺してるんだよ。寒いのか?」
「寒くねぇよ。てか今7月だし」
そう話し合う2人だが、その者は羅刹天のことについて1つ、疑問に思っていた。
「1つ質問いいか? 梵天」
「おう、あの風天が質問とか珍しいな」
「お前は俺のことをなんだと思ってるんだ……」
「完璧超人」
「なわけないだろ。それは日天だ」
「まあ、それで質問なんだが、羅刹天の殺気ってあんなに強かったか? お前が怯えていたように見えたんでな」
「いやいやいやいや……、そんなことねぇよ」
「そうか……、俺の勘違いか。ありがとな」
そう言うと、風天は梵天の目の前から姿を消した。
(いや……、あれは確実に怯えてた。じゃあやっぱり羅刹天は確実に強くなってる……。俺達は最初からフルスペックで生成されているはずだ……。人間をベースにしてても2日程度経ったら全員が同じ領域にいるはずなんだ……。なら今まで羅刹天は実力を隠していた? そんなことしてもメリットはないか……)
風天はそう考え、大阪の街中へ出かけた。
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羅刹天は、神月以上に会いたかった者に会った。
「火天……」
羅刹天は走って火天の胸へ飛び込んだ。火天は一瞬微笑んだが、すぐに羅刹天を引き剥がした。
「あなたと私は違う」
その一言だった。その一言で羅刹天は全てを察することができた。だが、火天をそのまま行かせてはいけないと思った羅刹天は、自分の横を通りすぎていく火天の肩に、手を置いて止めた。
「何か支配されてるの?」
羅刹天は、周りには決して聞こえない程小さな声で、火天に事情を聞いた。火天はそれに答えるかのように、小声で羅刹天へ返した。
「私は支配されてる。けど今だけは解放されてる」
「じゃあさ、この後街中で話さない?」
「まあ……、いいけど……」
「それじゃ神月様のところに行ってくるよ」
「待って」
火天は羅刹天の肩に手を置いて止めた。そして耳に口を近づけて小声で言った。
「私が支配される直前になったら合図をする。そのときは戦闘だよ。殺しはしないから」
「う、うん……」
そう言うと、火天は振り向いて歩いていった。羅刹天はそのとき、明確な目標を立てることにした。それは……。
(この命で……、火天を自由にする……)
そんな心を抱きながら、神月の部屋へと向かった。
神月の部屋の前へと辿り着いた。羅刹天は神月に会うことに緊張していなかった。将来、敵になる可能性がある者に、緊張などしてはいけないと思っていたため、それだけは決してしなかった。
「失礼します」
羅刹天は神月のいる部屋へと入った。神月はひたすら人間を使って実験を繰り返していた。それは何の実験なのかはわからないが、自分のためにしている実験なのだろうというのはわかった。
「結果は?」
「断罪者を確認することができませんでした」
「そうか……、下がれ」
「失礼しました」
神月は、他人に対しては消極的な性格であり、自分が良ければ周りは残酷な目に遭っていても何も思わない、そんな人間だ。それに、他人と関係を持とうとしない者でもあり、他人とのコミュニケーションも、最近は十二神がする報告に返答するくらいである。その姿を見て、羅刹天は神月に向けて懐疑的になっていた。
(神月はいったい……、……何がしたいんだ?)
羅刹天は神月のいる部屋を出て、大阪の街中へ足を運んだ。
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「あ、いたいた」
羅刹天は、高速道路の真ん中で佇立し、上を見上げていた火天を見つけた。大阪は夜に包み込まれており、周囲には誰もいなかった。その中で火天は、瞳から涙を溢していた。
(涙? どうしたんだろ……)
羅刹天はそう思い、対向車線との間にある中央分離帯に隠れて見ていた。
「羅刹天……。私はもう……、あなたを守ることができない……」
酷く懺悔するその姿に、羅刹天は感打たれた。だが、ここで姿を現すと、火天の本音を聞くことができないと思った羅刹天は、もう少しだけ中央分離帯に隠れることにした。
「私は守ると誓った……。けど、結局私は見放した……」
その時、火天は中央分離帯の方を見た。その裏には羅刹天がいており、火天はそこに羅刹天がいると感づいた。だが、火天は気づかないフリをしてそのまま独り言を続けた。その独り言はまるで、羅刹天へのメッセージのようだった。
「私は羅刹天より弱いかもしれない……。けど、羅刹天は私を守ってほしくない……。羅刹天は自由に生きてほしい……。ビルドのような完全に縛られた組織じゃなくて、何事にも縛られない人造人間になってほしい……」
(火天……)
「そうでしょ? 羅刹天?」
火天は中央分離帯を越え、対向車線へ跳んだ。そこには盗み聞きをしていた羅刹天がいた。
「バレた……」
「ま、さっきの話は全て本当だよ。私は羅刹天に自由になってほしい」
「なんで私だけが……。帝釈天の支配を解除することはできないの?」
「毘沙門天さんならできる。前に私の炎を消してくれたみたいに。けど今、毘沙門天さんは東海地方にいるからできない」
その時、火天の頭に強烈な痛みが襲った。
〔羅刹天を殺せ〕
脳に直接その文が送られた。心は抵抗するものの、体はその命令に従って殺そうとする。
「逃げて!!」
「いや、戦って洗脳の元となってる部分を暴いて、それを潰す」
羅刹天は戦闘態勢に入ると、火天は抵抗する力がなくなり、命令に従って行動を開始した。
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「これでいいのか? 梵天」
「ああ。羅刹天を効率よく潰すには、これが一番効率的だ」
梵天の能力で大量に作り、街中に配置した監視カメラから火天と羅刹天の状況を見ていた。帝釈天は、梵天の指示で洗脳し、羅刹天を殺すように命令した。
「しかしだな……、……これをして何になるんだ? 断罪者に対しての戦力が大きく削がれるだけじゃないか?」
「殺す直前で止めればいいだろう? 羅刹天は絶望させて傀儡に。火天は支配して傀儡に。それが一番楽じゃないか。ロストエネルギーも効率よく使える」
「そうだな。奴らは俺達の計画に反対しているからな」
帝釈天が心変わりしたとき、誰かが梵天と帝釈天のいる部屋に近づいてきていた。それは独特な足音であり、離れているのだが圧倒的な威圧感、プレッシャーを感じる。
「なんだ?」
「さあ? わからねぇけどさ、この足音と威圧感……」
2人は声を揃えて言った。
「神月様だ」




