37GF A pure heart that wants to become stronger eats away at the heart
「裁断 慧彼です。好きなことは……、うーん……。……人の笑ってるところかな?」
「護神 盾羽です。好きなことですか……。……強いて言えば、動くことですね」
その時、窓の外で轟音が鳴り響いた。その音に驚いた生徒達は、全員窓の方を向いた。賑わっていた教室の空気は一変し、しばらくの静寂が続いた後に教室は騒然とした。
「今の何……?」
「怖い怖い怖い怖い……」
パニックとなっていた生徒達をよそに、教室の中で冷静であった慧彼と盾羽は、雷風に文句を言った。
〔雷風、ちょっと派手にやりすぎじゃない?〕
〔そうじゃねぇ、量がおかしいんだよ。一回教室から外見てみろ〕
そう言われた慧彼は、盾羽と共に窓の外を見た。そこには宙に浮く異形の人造人間が5機と、大量の人造人間がいた。異形の人造人間からは、人形である一般の人造人間が産み落とされており、次第にその数は増えていく一方である。
〔私今、屋上いるよ。浮いてる偵察兵なら今から速攻で潰せる〕
その時、無線で風月が連絡を入れた。
〔じゃあ姉さん、よろしく〕
風月は雷風に頼まれ、屋上から可視化されている状態の斬撃を5発放った。その斬撃の1つ1つは、風月の言う偵察兵の核を正確に斬っていた。
偵察兵を全て倒されたことを確認した雷風は、人造人間を一気に殲滅した。運動場を埋め尽くしていた人造人間約8000体を、ほんの数秒で殺し尽くしたその姿は、一瞬の間に見えるその微笑みから生徒達には殺人鬼、シリアルキラーのように見えていた。生徒達はそんな雷風に恐怖し、自分が殺されるのではないかと思った。
〔上から何か来るよ〕
慧彼は雷風に何かが近づいてきていることを知らせた。そのとき既に人造人間達を殲滅し終わっていた雷風は、近づいてくる方向を向いた。
〔……遊撃兵です。雷風君、気をつけてください〕
先にその正体に気づいた盾羽は、雷風にそれを伝えた。
〔何体いる?〕
雷風はそれを聞くと、盾羽はすぐに数を伝えた。
〔3体です〕
盾羽の言葉と共に、運動場に砂埃が舞った。そのうちの1体の遊撃兵は、砂埃に紛れて雷風の方へ一直線に突っ走った。
(単調な攻撃……、やっぱり遊撃兵はこれが限界か……)
雷風は刀身で円を描くように斬り上げて、遊撃兵の核を正確に斬った。それはとても綺麗な断面をしており、その平らさは水平線と肩を並べるほどだ。
(まずは1体)
雷風が1体の遊撃兵を相手にしている間に、次の1体の遊撃兵は上に飛んでいた。その遊撃兵は雷風の元へ急速落下しており、腕で体を貫こうと空中で体勢を作っていた。その後にする動きを完全に読んだ雷風は、刀の射程範囲内に入った瞬間に核を斬り上げた。
(あと1体)
最後の1体は、斬り上げた後に背を向けた雷風に向かって、隙だと思って全力で走った。
〔お前らに教えておく、こうやって自然な流れで隙をあえて見せることで相手を騙す。そして騙されたこいつを一気に斬る。本当に強いやつは偽の隙を見せて、その隙を叩こうとした時に一斉にそこを突くんだよ〕
雷風は背を見せることで偽の隙を遊撃兵に見せていた。それを突こうと既に動いている遊撃兵は、雷風の策にもうはまっていた。
(はい、チェックメイト)
遊撃兵が刀の射程範囲内に入った瞬間、雷風は後ろを向いたまま遊撃兵の核めがけて突いた。刀身は核ごと体を貫き、徐々に息絶えていった。
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ただ強さを求めた。ただ強さが欲しかった。ただ強さに貪欲だった。だが手に入れることはなかった。
羅刹天はあの後長考した。荒廃した街中を独りで寂しく、心苦しく、虚しい心を持ちながら歩いたその心は、歩いていけば行く程、考えていく程、悩む程、生きていく程、自分と言う存在自体がこの世にある程、どんどん蝕まれていった。そして心が完全に蝕まれる寸前で答えにたどり着いた。それは、これまで完全に諦めていた道である「強くなること」だった。
(強くならないといけない……。そのために私は……)
羅刹天の深紅の瞳には、迷いで埋め尽くされた蘇芳色の瞳のように見えた。それをグラデーションするように生えている翠玉色の髪は、穏やかに吹く風に任せて靡いていた。
羅刹天は強さを求めるために、自分の能力をひたすら研究した。体内のロストエネルギーを全て使用するまで能力を発動した。だがその心は、常に迷いが生じていた。
(ねぇ火天、私はいったいどうしたらいいんだろう……。強くなるためには何をしたらいいんだろう……。けど今は教えてもらうことはできない……。火天……、洗脳から絶対に解放させるよ……)
羅刹天は、迷っていくほど「火天」という存在に依存していった。今までは自分を守ってくれていた絶対的な存在。それを唐突に失うということは、その先の自分からしたら不安要素の塊のようなものだった。
子供は親を越える。だが、明確に越えているという指標がないから子供は親を越えていることを知らない。感じることができないのだ。それと違い、実力というものは何かしらの形でわかる。今までは確実にわかっており、目の前にあった大きな存在としていたものが、一瞬にして消えるのだ。そんな状況に直面した羅刹天は、ただただ強くなることしかできることはなかった。
(強く……、強く……、強く……、強く……)
そう心に思いながら能力を発動すると、今までより強く発動した気がした。だが、それが思い違いだと気づいた羅刹天は、ひたすら能力を発動し続けた。それは何よりも堅実に、強烈に、迅速に、そして何よりも感傷に。
「強くなりたい」という思いは、日が経てば経つほど募っていった。それは自分の精神を蝕んでいるとも知らず、ただただ没頭していた。精神を蝕みながら没頭している、そんな異常なところにまで達してしまった羅刹天は、ある大きな感情を喪失するまでに至った。
「……羞恥心って、……どうしたら感じるんだっけ?」
羅刹天は、心を蝕んでいった結果だということに気づかず、自分の能力をひたすら研究し、強くなろうとする努力をすることで、また心を蝕み続けていった……。




