26GF 遥か彼方という不可視空間
「さて、戦闘開始だね。風月」
慧彼の言葉と共に、風月は戦闘体勢に入った。人造人間達が走り出した時、風月は斬撃を放とうとした。その時、慧彼が横から刀を抜こうとする風月の腕を止めた。
「まあ、見といてよ」
慧彼は能力を発動した。その時、アンバーの瞳がマルーンの瞳へ変化した。それと同時に、慧彼の視界に入っている人造人間達の頭上に、漆黒の天使の輪っかのようなものが現れた。
「串刺し」
慧彼のその言葉と共に、輪っかの中が黒く染まり、そこから下へ槍を高速で下ろして串刺しにした。それは核を貫き、文字通り串刺しになっていた。それを初めて見た風月は、唖然としていることしかできなかった。
「……ヤバ」
慧彼は、人造人間達が豆粒程の大きさになる高さまで跳んだ。そして、その状態で能力を発動し、風月の周辺にいる人造人間達を消滅させた。
(慧彼……、能力強すぎじゃない?)
慧彼は地面に着地した。
「さて、とりあえずあの雲の上のやつをどうするかだね……」
慧彼は空高く跳んだ時、雲の上で何かが動いている音がしたのを感じた。そんなこと知るわけがない風月に、慧彼はその姿を知らせた。
「とりあえず雲の上にあるのは飛行船。それにロストエネルギーを利用してる」
「じゃあ確実にビルドの飛行船じゃん」
「そうだと思う。んで、どうやって上に行くかなんだけど……」
「斬撃でも上を持つのは危なすぎるし……」
「かといってジャンプても届かなそうだし……」
2人は悩んだ。だが、そんな考える暇を与える間もなく、上空から20体の巨大な人造人間が降下してきた。着地した時にコンクリートは大きくへこみ、地響きも鳴った。
「とりあえず私はこの人造人間達を殺るから、慧彼はビルドの飛行船を落とす作戦を練って」
「わかった」
慧彼はその場から一旦離れ、風月は20体の巨大な人造人間を相手に強気な態度をとった。
「それで、図体だけの人造人間達はどう刻むかなぁ……」
風月は刀を抜き、戦闘体勢に入った。人造人間達は風月を囲うように円形になり、戦闘体勢に入った。周囲は建物だらけであり、死傷者も出てしまうと考えた風月は、できるだけ街を壊さず戦うことを選んだ。
(この人造人間達は多分自我を持ってない。さっきの煽りでだいたい確認できた。じゃあ私を殺すっていう目的だけを持って動いてるだけのロボットか。ロボットを壊すのは得意なんだよね、私)
ニヤリと笑った風月は、さっきとは別人のような表情になった。そして、人造人間達が風月に向かって一斉に走った。だが、人造人間達が走ってくる時に生まれた少しの隙を突き、ある人造人間の左足を根本から、能力を使用して切り落とした。そこで生まれる少しの空間を風月は利用して、人造人間達が作った包囲網から脱出した。
(この角度なら……、4体は潰せる)
風月は振り返って後ろへ跳んだ。地面に足がつく少しの間に風月は能力を使用して斬撃を飛ばし、4体の人造人間の核を正確に斬った。
(残り16体……。そしてさっきの人造人間はもう足生やしてる……。なら次は……、……あそこかな)
人造人間達は、前衛と後衛に陣形を分けた。そして前衛の6体は風月に向かって走った。それはさっきより速く、普通なら着いていくのは不可能なくらいのスピードである。だが、風月もまた人造人間。着いていくのは簡単であった。
(6体倒せるね)
風月は人造人間達が来る前に刀を、強い風が生まれるほど振った。そして、人造人間が風月の前に来た時、能力を発動して斬撃を飛ばした。人造人間達はバラバラに切り刻まれた。それは核も同じであり、核は跡形もなく切り刻まれていた。
(残りは……、……後衛みたいな隊形してる10体か)
風月は居合い斬りのような体勢を取り、一気に距離を詰めて倒そうとした。その時、槍がビルの屋上から大量に飛んでいた。それは人造人間達のいるところめがけて飛んでいた。
「今!!」
どこからか慧彼の声が聞こえてきた。
(なるほど。この間に殺せってことね)
人造人間達は槍を防ぐため、各能力を使って防いでいた。隙は大量にあったため、そこを風月は狙って一気に距離を詰めて斬撃を10発放った。それは全ての人造人間の核を斬り、消滅させた。
「おつかれー!!」
風月は振り向いて見上げると、ビルの屋上にいる慧彼が見えた。
「一旦そこまで上がるから待っておいて!!」
「りょーかーい!!」
風月は慧彼のいるビルの屋上へ跳んで登った。
「作戦は立てれたの?」
「立てれたよ」
「説明よろしく」
「まず、私の能力を使う」
慧彼の能力のひとつ、ガベルを利用する。そのガベルは大きさを自由に変化させることができるため、慧彼と風月が乗れる程のガベルを上へ射出させて飛行船へ乗るというものなのだが、それに要するロストエネルギーが問題と慧彼は言った。
「問題なのは私のロストエネルギー量なんだよね……。足りるかわからないっていうところだからさ」
「回復してから行けばいいんじゃないの? しかも自動で回復するからさ」
「あー……、それ忘れてた」
「ポンコツじゃん」
慧彼はロストエネルギーの回復に専念した。その間、人造人間達は降下を続けていたため、風月は降下している人造人間達を斬撃を飛ばして、次々と落としていた。
「回復し終わったら言ってね。それまでここで殺し続けとくから」
降下する人造人間達の核を正確に斬るその姿は、異次元の存在を彷彿とさせていた。慧彼は、雷風を初めて見た時も同じことを思った。
異次元の存在だと思わせるものは、何かしら共通点があるのだろう。だが、それが何なのかは慧彼にはわからない。とりあえず強い、凄いという感想しか出ないのだ。
「回復したよ」
慧彼は回復した瞬間に、巨大なガベルをロストエネルギーを使って生成した。ガベルを縦に生成したことで、ガベルの上に乗ることができるようになった。
「じゃ、とりあえず乗ろ」
「そうだね」
慧彼と風月はガベルに乗り、巨大なガベルを上空へ向けて射出した。




