25GF 街中という危険地帯
『那覇にて、住民を次々と殺害し、家屋を破壊し続ける人造人間達を、鬼頭 風月を連れて至急殲滅せよ。これは緊急任務であり、那覇に住む住民を守るための任務である。直ちに那覇に向かえ』
盾羽と別れた慧彼と風月は、どうやっていくかに迷った。
「……どうやって行くの?」
慧彼は風月に聞いた。
「……方法なら一応ある」
「え? 何?」
食いぎみに聞く慧彼に、風月は落ち着けと言わんばかりのジェスチャーをし、慧彼を一旦落ち着かせた。
「私の能力って、斬撃を具現化する能力なんだよ」
「……と言いますと?」
そう慧彼が聞くと、風月は自分の能力の説明を小声で始めた。それを聞くように慧彼は耳を澄ませて聞いた。
「剣ってさ、速く振ったら残像ができるじゃん?」
「うん」
「その残像には実体がない。けど、それを物体としてこの世に残す。それと同時に、斬った時に向いてる方向に飛ばす。その斬撃は色を変えたり、飛ぶ時にラグを生じさせることができる。つまり飛ぶ瞬間を操作する。それが私の能力」
「なるほどね。だいたいわかったよ」
慧彼は理解した。だが慧彼は、「それがどうしたのか」と言わんばかりの考えているリアクションをしている。考えるようなジェスチャーをし、能力を説明した意味を探した。
「……わかんない?」
「わかんない」
慧彼がずっと考えていたため、風月が慧彼にそう聞いた。すると、慧彼は潔く「わからない」と答えた。
「私さっき、斬撃を具現化するって言ったじゃん?」
「うん」
「じゃあ、その上にも乗れるよね?」
斬撃を具現化すると、その斬撃に触れるようになる。もちろん斬撃の上に乗ることも、斬撃を掴むことも、巨大な斬撃を作ることもできる。そして、斬撃を飛ばす瞬間を操作できるため、斬撃がそこにある間はずっと宙に浮いている状態である。だから、その上に乗ることで前方に高速で進むことができる。
そこで疑問が生まれる。それを慧彼は気づいた。
「じゃあさ。私たちが乗った斬撃って、飛んだ時落ちないの?」
そう、その疑問が生まれる。それに風月は答えた。
「落ちないよ。何故か、上に物が乗っていても関係なく飛んでいくんだよね」
風月にも訳は分からなかった。だが、重さに制限がなく、斬撃を消滅させるまでずっと真っ直ぐ飛んでいき、その上に乗っても斬撃は落ちたりしない。ということだ。
「なるほどね。とりあえず乗ってればいいんだ」
「ま、そういうこと。んじゃ、行くよ」
「りょーかーい」
慧彼と風月は、周囲にある一番高いビルの屋上まで、重力を無視するように壁を走って登った。前傾姿勢で走るその姿は、まるで忍者のようだった。
「あれ何!? 忍者!?」
「すげぇ!! 忍者だ!!」
走りながらもその声を聞いていた慧彼と風月は、そのリアクションについての会話をしていた。
「忍者だって。私達だったら多分くノ一じゃないの?」
「多分そうだと思うけど……、まあ服装が男っぽく見えるんじゃない?」
黒のロングコートを着た2人の姿は、遠くから見たら男にしか見えなかった。だが、黒のショートカットにアンバーの瞳をしている慧彼と、黄のロングヘアーに翠眼の風月は、近くで見たら必ず女であると言えるだろう。もう一度言おう、2人の姿を近くで見た全員が女であると思うだろう。
屋上についた慧彼は、一度ビルから顔を覗かせて下を見た。すごく高く、人が蟻みたいにうろうろしているのを見たのだが、慧彼は単純な感想しか述べなかった。
「高っ……」
「まあ、このビル高さ100m越えてるからねぇ」
「え? マジ?」
「多分ね」
「多分て……、一気に信用度ゼロだよ」
そんな会話をしながら方角を確認していた風月は、腰に刀を形成した。
「準備完了だよ。今から飛ぶよ」
「え? ちょっと待って」
「待つって」
風月は斬撃を具現化させ、それを宙に固定した。風月は早速その上に乗り、慧彼に乗るように促した。
「ほら、早く乗って」
「今から行くって」
慧彼も具現化した斬撃の上に乗り、向かう準備はできた。
「じゃ、絶対にこの斬撃から手を離しちゃダメだからね。覚えといてね。……もう一回言うよ!!」
「言わなくていいよ!!」
「じゃあいいや」
そう言うと、具現化した斬撃は那覇へと一直線に進んだ。そのスピードは圧巻であり、飛行機より圧倒的に速く、空気抵抗も凄まじいものである。
「これ、手離したら落ちるやつだ」
「だから手離しちゃダメだよ。落ちたら那覇行くの時間かかるからね」
そんな雑談を具現化した斬撃の上で繰り返し、18時20分、那覇周辺に具現化した斬撃は飛んでいた。
「じゃ、もうそろそろこの斬撃消すから。着地はしっかりした方がいいよ。打ち所悪かったら死ぬから」
「大体死なないでしょ。こんな高度だったら尚更」
「いや、ちょっとずつ高度上げてってるからさ、今多分高度6000mとかだよ」
「どうりで寒いわけだ」
「ま、斬撃消すよ」
「よろしく」
慧彼が風月に任せるような発言をした時、風月は具現化した斬撃を消滅させた。その瞬間、体は急降下を始めた。落下スピードは時間が経てば経つ程上がっていき、すぐに時速100kmを越えた。そして、那覇郊外をめがけて降りている風月と、その少し上で風月の落下地点を見極めようとしている慧彼。
風月が上を向き、慧彼へ喋りかけた。
「あのサトウキビ畑周辺に着地するから。それに合わせて着地して」
「了解」
風月は落下地点を慧彼に伝え、再び急降下を始めた。慧彼はそれを把握したのち、再び急降下を始めた。
慧彼と風月は、サトウキビ畑周辺のポイントへ正確に着地した。そこから那覇は少し距離はあるが、走っていけばどうにかなると思った慧彼は、風月に提案した。
「ここからだったら走っていったらいいんじゃないの?」
「まあ、それもそうか。そうしよう」
風月はすんなり受け入れた。かなりの距離を走ることに賛成なのだろう。
慧彼は、走っている間の虚無な心を埋めるために、風月にある提案をした。
「喋りながら行く?」
「そうしよう」
風月は、それもまたすんなり受け入れた。数日前ではあり得ない光景だっただろう。だが、今の慧彼と風月の関係は良好である。
2人は地面を踏み込んで、同時に蹴って走った。那覇への一本道を走る速度は凄まじいものであり、2人が走っている残像が見える程である。一歩一歩の間隔がかなり広く、ほぼ飛んでいるように走るため、2人の足音はたまに地面を蹴る時の音しか鳴らない。
「今日の任務結構ヤバそうだよね」
「今までの任務を知らないからわかんない」
「というかさ、前までは任務じゃなくて仕事だったんだよね。けど、今回の任務だけはしっかり任務ってなってるんだよね」
「今までとは違うんだ……」
「何回も任務って言ってるってことは多分故意だからさ。なんで今回だけは違う表現の仕方なんだろうって思う」
この会話を通して、風月は話の中にあった「任務」と「仕事」というキーワードと、マネジメントから送られてきたメールに出てきていた「緊急」というキーワードを使って、風月はある持論を作った。
「今回の任務って緊急なんでしょ?」
「うん」
「緊急じゃない、いつも送られてきてるのが「仕事」、今回みたいな至急行動しなさいみたいなやつを「任務」って言うんじゃない? そういうことじゃないの?」
「あー……、……そういうことね!!」
頭を使って考え、理解することができた慧彼は、なるほどと言わんばかりにわかったような顔をした。
「そろそろ着くよ」
那覇が見えてきた。周りはもうすっかりビルだらけである。
「一旦止まって」
目の前に路地から1体の人造人間が現れた。その後ろから続々と、人造人間が姿を現した。慧彼のその異常な程の危機感知能力の高さに、風月は少し驚いた。
「さて、戦闘開始だね。風月」
慧彼の言葉と共に、風月は戦闘体勢に入った。




