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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第7章 三正面作戦
202/206

202GF 記憶の片隅



 雫の口から、過去が話される。ある者は涙を、ある者はいちばん悲しかったであろう雫を抱きしめ、ある者はその状況を頭の中で思い浮かべ、ある者はある登場人物に引っかかる。



 「雫、そんな過去があったんだ……」



 慧彼は真っ先に雫を抱きしめに行き、思いっきり抱きしめる。次点で途中から目を覚ました白夜が抱きしめる。風月と盾羽は雫の頭を撫でながら、慧彼達と同じく泣き、楓とアラミスはそのすぐ後ろで静かに涙を流していた。霞、アトスは雫が思い出した記憶を頭の中で思い浮かべる。ポルトスはその状況をただただ聞いていただけだが、雷風は違った。



 (楓から貰った情報の中で、この名前あったよな……?)



 雷風はその名前が出た瞬間、違和感を感じる。その違和感は、楓との記憶回路の共有で得た「God (神の)willing(意志)」の中に記された、とある者の名前。



 「楓、ちょっと来てくれ」


 「ん? わかった」



 皆が雫の過去について関心している空気の中、2人はベルシー・アレナの外に出た。



 「で、どうしたの?」


 「ああ、雫の過去についてだ」


 「……わかった」



 雷風がわざわざ外に出た理由は、なんとなくわかる。楓は彼なりの気遣いに、声には出さないが感動する。



 「雫の過去に出てきた、白い女の人。名前がある人と共通していた。名前はリーレ・スターベン」


 「リーレ・スターベン……」



 自分の記憶を探り、『リーレ・スターベン』の記憶をその場で探る。



 「リーレ・スターベン。……あ!」


 「そう、あれだ」


 「God (神の)willing(意志)だよね?」


 「そう。God (神の)willing(意志)の中にいた、俺達人造人間を生み出した、全ての原因」



 オリバーはGod (神の)willing(意志)の一節を、楓にこのように説明した。



 『時は遡ること29年前。魔導士(ソーサラー)と呼ばれるやつらが地球に訪れた。その際にロストエネルギーが伝えられた。元凶はそいつらだ。そんなことはさておき、ロストエネルギーの説明を人間は何となくで把握して実行に移したわけだ。だが、それの研究は困難を極めていた。そこに現れたのが、リーレ・スターベンという女っていうやつだ』



 人造人間を作り始める原因となった者が、雫に直接関与してきたということは、紛れもない事実。それが何を意味するのか、それはリーレ・スターベンにしかわからない。それに加え、その意味を知る必要は、今の雷風達にはなかった。



 「リーレ・スターベンが何のために接触したのかは知らん。が、楓。好奇心はそんなこと、気にしないだろ?」


 「言い回しは結構口説いけど、言いたいことはわかるよ。私も気にはなってたし」



 2人の意見は一致した。



 「じゃ、ゆっくり調べながら三正面作戦の詳細を練っていくか」



――――――――――――――――――――――



 会議室にて、それぞれ三正面作戦の詳細を練っていた。



 「ここで私がアトミックアニーどーんでしょ」


 「いや、違う違う。あえての雫の魔法をどかんでしょ」


 「私の魔法はそんなに万能じゃないよ?」


 「……まともに考えましょう?」



 イタリア組はずっとこの調子である。



 「戦力を見極めないとどう動くか想像もできないんだけど……」


 「まあ、まずはどこまで戦闘を避けてロンドンまで行けるかって話だから」


 「まあ、それはそうか……」


 「雷風が来るまでは、戦力は2人。動こうにも、まともに動いたら向こうの天使連中にボコされる未来しか見えない」


 「雷風ならすぐに来てくれるよ。私は信じてる」


 「風月が言うのなら……」



 極力戦闘を避ける動きをとるイギリス組。そして……。



 「重要拠点を重点的に潰す。そして、それを伝いながら最短距離でモスクワに向かう」


 「拠点制圧は二手に分かれたほうがいいかもね」


 「そうだな。電撃戦ってやつだ」


 「じゃあ、私はまずキーウかな。ミンスクも一緒に潰せそうな位置にあるし」


 「なら俺はクライベダだな」


 「次は私がクロンシュタット、雷風はサンクトペテルブルクだね」


 「制圧でき次第、楓はレニングラード、俺は先にモスクワを制圧する。その流れでいいか?」


 「うん。けど、枢要罪が現れたら合流しよう?」


 「枢要罪が残ってたら本拠地を潰したところで意味がないからな」


 「確かに。私達の目的は、ロシアの無力化だもんね」



 ロシア組はすぐに話がついた。



 「じゃ、楓はイタリア組に合流して、話をつけてくれ」


 「わかった。そっちは任せたよ」


 「俺のセリフを颯爽と取るな」



 楓は混沌としているイタリア組の元へ、雷風はイギリス組の元へ向かった。



 「いや、あえての盾羽じゃない?」


 「なわけ。盾羽は私より殲滅能力ないよ?」


 「ディスってるんですか? 作戦会議1歩も進んでませんよこれ」


 「いいの盾羽。本題の人が来るまでまともに始められないんだから」



 最早サボってるとしか言いようがない慧彼と白夜を遠目から見た楓は、頭を掻きながらその場に入った。



 「で、慧彼ちゃん。話は進んだ?」


 「い、いや……。ひとつも進んでません……」


 「……まあ、いっか」



 楓は作戦会議が進んでいないことについて、特にどうとも思っていなかった。



 「じゃ、今から作戦会議を始めるよ」


 「と言っても、イタリアの軍についてあまり詳しくないんですよね」


 「と言われると思った。そんな盾羽ちゃんみたいな真面目な子のために、昨日ちょっとだけ時間を使って、大まかな敵の能力一覧を作っておいたよ」



 楓は懐から、端の一角をホッチキスで留めた紙の束を4人に配る。



 「その中のイタリアの欄だね。今から私達が戦おうとしている、12体の兵隊と、1体の人造人間。そいつらの総称を『十二星座』って、イギリスは呼んでるみたい」


 「では、十二星座とそれを総べる人造人間を殺すのが、私達の目的ということですね」


 「そういうことになるね。まあ、極論を言ってしまえば、イタリア軍の人造人間を殲滅するのが目的」


 「殲滅だったら得意分野だけど」


 「なら、白夜ちゃんに雑魚の殲滅は任せようかな。もちろん、十二星座の撃破は全員が死力を尽くしてしてもらうけど」



 すると、雫が渡された資料を目にして、あることに気づく。



 「……黄道十二星座じゃん」


 「そう。それが十二星座と呼ばれる所以。そして、黄道十二星座の元になったギリシャ神話、ギリシャは今、イタリアの統治下にあるの。……一時期ドイツのものになってはいたけど」


 「じゃあ、このヘラクレスっていうのは……」


 「そう。十二星座を総べる、一人の人造人間のこと。能力の詳細まではわからなかったんだけど、ここまでの情報はわかったの」



 いったい楓は、何時何処でこの情報を手に入れたのか。それは、God (神の)willing(意志)についてオリバーから聞いている時である。楓はアメリカの秘匿回線に入り込み、独自に集めていた情報を盗み取っていた。だが、アメリカは能力の詳細までは調べていなかったため、これまでの情報しか取ることができなかった。



 「とりあえず、私が到着するまではゆっくりでいいから進軍しておいてほしい」


 「それはまた、何故ですか?」



 盾羽は楓の意図を聞く。



 「まず、ヘラクレスは万全の状態じゃないと恐らく殺せない。だって、それじゃあ名前負けしそうだから」


 「そこは適当なんだね」



 慧彼はすかさずツッコミを入れる。が、そんなことはお構いなしに楓は話し続ける。



 「だから、万全の状態にできるだけ近い状態の5人で戦わないと、恐らく勝つことはできない。大英雄ヘラクレスの名前を使っているんだから、それほどに壮大な能力なことには違いないと思うの」


 「あの、名前と能力って、そんなに関係あることなんですか?」



 雫は敬語で聞く。



 「関係あることが多いね。今敵対してる人造人間の世代は、能力を決めてから名前を決めるパターンが多いから」



 楓は話を続ける。



 「話を戻すね。進軍スピードは、そこまで速くなくてもいい。戦闘もしなくてもいい。逆に、できるだけしないでほしい」


 「さっきの万全の状態ってこと……?」


 「そういうこと。流石白夜ちゃん。でもね、ひとつ大きな不安要素があるの」


 「不安要素ですか……?」



 盾羽は聞く。



 「うん。結構大きな不安要素だよ。それはね、十二星座がどれだけ連携できるかなの」



 1度聞いただけでは、そこまで大きな問題ではないと思ってしまう。が、楓からすれば大きな問題だった。



 「もし、2つの能力で無限ループを作ることができたら、その中では何もできずに、ただ朽ちていくだけ。それだけは避けたいの。無駄な犠牲は起こしたくない」



 戦力をできるだけ残しておきたいと考える楓は、その上で作戦を立てる。



 「……最初はミラノに向かって。蛇行しながら進んでもいいし、直線で進んでもいいし。とりあえず、ミラノまで進んだらそこで待機。占拠して防衛体制に入って。いい?」


 「わかった」



 一方、イギリス組は……。



 「姉さんと霞は、できるだけ潜伏しながらロンドンに向かってくれ。まあ、隠密任務だな。姉さんは霞に色々指示してもらってくれ」


 「わかった」


 「で、霞。基本的に戦闘はするな。戦闘を始めたら、その場所からは後退はできるだけしないでくれ」


 「なるほどね。つまりは特攻ってことだ」


 「なんか違うけどな……。まあ、いいか。とりあえず、俺が来たらすぐに合流しに向かう。会話には基本、思考回路で会話するから、姉さんは霞に情報の共有を」


 「おっけー」


 「合流してからは、天使とアーサーの撃破。そして、オリバー・クロムウェルの殺害だ。恐らく、舞台はロンドン全土。長期戦になるかもしれないから、気をつけてくれ」


 「了解」


 「じゃあ、ひとまずはこれで終了。作戦開始までの残り時間は好きなように使ってほしい」



 雷風はそう言い残すと、一人作業室へ向かった。



 「雷風、何しに行ったんだろうか? ずっと篭もりっぱなしだが……」


 「なんか作ってるのかな……? もしくは改修……?」



 記憶回路の共有は行っているものの、膨大な量の情報を一気に捌ききることはできず、必要最低限以外の情報はシャットアウトしている風月。それゆえ、何を作っているのかよくわからなかった。


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