192GF マジノ線攻防戦 その13
ゲブラーは覚醒コマンドを使い、アラミスの前に立ちはだかる。
(覚醒コマンド!?)
額から角が2本出ていたことから直ぐに覚醒コマンドを使用していると考えたアラミスは、早速ロストエネルギーの膜で自身を覆い、その膜で能力を発動する。膜を含めた自身の周囲の速度が光の速度にまで上昇し、ゲブラーの背後に一瞬で立つ。
「これで終わり……」
アラミスは容赦なく核に向けて突きを放つが、ゲブラーは先んじて核の周囲はロストエネルギーで硬質化していた。突きを封じられたアラミスは一旦距離をとって、ゲブラーの様子を見る。
(やっぱりダメか……)
ゲブラーは暴れさせていた風を体の中に留め、更にロストエネルギーの生成能力を上昇させる。その上でロストエネルギーを一気に放出すると、放出したロストエネルギーは自信を覆う膜となり、更に体外に放出した瞬間に能力を発動することで、範囲内に入るだけで全てを切り裂く殺風空間が完成した。
アラミスはそんなゲブラーを見て、何か焦っているのではないかと思った。実際、アラミスとゲブラーが交戦するのは3回目であり、1回目と2回目の時は侵攻を防いだ時のついでで戦ったくらいである。そんな相手に向ける殺気とは思えないくらい、ゲブラーの放つ殺気は憎しみに満ちていた。鬼の形相でこちらを睨み、取り巻く風の勢いは更に強くなる。
「まずはお前から……、ぶっ殺してやる!」
アラミスは前回、前々回の戦闘で感じたゲブラーのイメージと、今のゲブラーがあまりにも乖離しているため、動揺していた。
ゲブラーはアラミスの動揺を他所に、攻撃を仕掛けようとする。体に纏う暴風とは別に、更に攻撃用の烈風をアラミスに向けて放つ。烈風は空間を切り裂いて、風を斬る音が届くより速くアラミスの元へ到達する。だが、目の前に来た瞬間に移動しても、アラミスはかすり傷ひとつつかずにゲブラーの背後に移動する。
(前に戦った時はこんな乱暴な戦いはしなかった……。……何かのサインなの?)
背後に回られた瞬間に気づいたのか、ゲブラーは纏っていた殺風を周囲に解き放つ。背後に立ったアラミスは予想外の攻撃に驚いたのか、咄嗟にロストエネルギーを発光させ、光を凝縮させ光線を複数放つ。光線はゲブラーに命中し、四肢を消滅させ、頭の真ん中を貫通する。
ゲブラーは光線を浴びるが、それでも関係なしに再生する。背後にいることには気づいているためか、足を再生した瞬間に振り返り、周囲一帯にロストエネルギーを散布させる。
「俺の邪魔を……、するな!」
(邪魔……? そしてこの怒りよう……)
ゲブラーはどんどんロストエネルギーを散布させ、ついにアラミスが纏う膜の外側の一帯が全てゲブラーのロストエネルギーになるほどであった。その状態でゲブラーは能力を使用し、一帯を暴風で包み込んだ。暴風は一瞬にして膜を破り、アラミスを暴風に乗せて身動きが取れない状況にする。
暴風に乗せられて宙に放り出される中で、何とか体制を整えようとするが、ゲブラーは風を纏った拳でアラミスを殴り、更に暴風を一瞬で解除したため地面に叩きつけられた。
(この威力……っ!)
地面に叩きつけられた瞬間、正面を見ると既にゲブラーが目の前にまで近づいており、移動する準備時間を作ることができなかった。ゲブラーはアラミスの上に馬乗りのような体制になり、風を纏った拳をただただ顔に向けて放ち続ける。
アラミスはゲブラーの攻撃を何とか腕で防ぎながら、反撃の糸口を見つけようとする。だが、そんな隙すら許さないゲブラーは、光線を放とうとした瞬間に全力の殴打を光源に向けて無理矢理破壊する。更に周囲は暴風に囲まれ、逃げ場がなかった。
「殺す! 殺す! 殺す!!」
「何があなたを……!!」
殴られ続ける中でアラミスは、「殺す」と連呼するゲブラーに向けて聞く。だが、ゲブラーはアラミスの声が全く聞こえないのか、ひたすら殴り続ける。
「ゲブラー。止めろ」
その一言でゲブラーの拳が一瞬止まる。だが、誰の声なのかはわかっていなさそうだ。それに対しアラミスは誰の声なのかわかった。
(まず、これから脱出しないと……)
止まった一瞬を突き、膜を張りながらゲブラーの両足を光線でそれぞれ貫く。少し体制を崩したゲブラーの隙をついて立ち上がり、脇腹に光の速さで蹴りを放つ。
吹き飛ばされるゲブラーを、先程の声の主が受け止めて距離を軽減する。そしてまだ暴れようとするゲブラーを、ロストエネルギーを込めた手刀で気絶させた声の主は、アラミスに近づいて話しかけた真意を話す。
「イェソド、何故止めたんですか?」
「真祖が戦闘を止めろって言うからな。詳しいことは後で教えられるんだと」
わざわざパリで待機していた雷風が介入したということは、この戦闘の裏に何かがあるのだろうと思ったアラミスは、イェソドが抱えているゲブラーを見る。
「……にしても戦っている時、ずっと殺すと言っていたんですが……、何か知ってますか?」
「あー。ケルン事変のことを引きずってんだろう」
イェソドはそう言うと、気絶しているゲブラーを地面に仰向けに寝転がせ、額に生えている2本の角を無理矢理引き抜いた。
「……何故抜いたんですか?」
「何故も何も、覚醒コマンドの解除方法の一つがこれだからだ」




