189GF マジノ線攻防戦 その10
白夜はアラミスがホドに蹴り飛ばされたところを見て、俄然殺る気になった。ホドはそんな白夜を蹴り飛ばした後に見て、自身も殺気を込めて全力で戦わなければと思った。
「やはり、お前には全力を出さないと勝てる気がせん」
「じゃあ出してよ。全力とやら」
すると、ホドはロストエネルギーを核に集めて、それ以外の部分のロストエネルギーを最小限に留める。
「覚醒コマンド、その中でも俺は限界までそれを引き出すことができる」
「覚醒コマンド、18731877」
覚醒コマンドを唱えると、ホドの額には鬼を彷彿とさせる角が2本生える。それと同時に、覚醒コマンドを表すコードの語源である蝗害の正体、バッタが体から漏れ出すロストエネルギーを媒体として大量に生成される。そのバッタを鎧に取り込み、鎧の密度を更に上げる。
ホドが勝手に生み出すバッタを見て、白夜はバッタに対する嫌悪感が前面に出てくる。ホドは自身の覚醒した能力で対等に戦えると思っているのかもしれないが、バッタに対する嫌悪感で戦うことを楽しみに思うことができなかった。それと同時に、何故かホドのことも生かしてはいけないと思った。
(バッタ出すとか……。……とんだクソ能力!!)
空気がピリピリしている。というよりは、白夜の能力が嫌悪感によって空気の分子に反応し、分子レベルの電気が小さな稲妻となって物理的にピリピリしている。
《能力拡張を開始します》
嫌悪感に反応したのか、アトミックアニーは白夜の能力を分析し、その能力の応用の幅を拡張しようとする。アトミックアニーがこれまで白夜が使った事として分析すると、「重力操作」「ロストエネルギー、ラーシエン自体の操作」といった、「白夜の知る限りでのエネルギー」の直接的な制御しかできていなかった。アトミックアニーはこの欠点を回避するため、1つの解決策を白夜の脳内に直接流し込む。
《えっ……、ちょっ……、何これ……》
白夜の脳内に流れてきたのは、ロストエネルギーで操れるギリギリのエネルギーまで、アトミックアニーが知る限りの全てのエネルギーの情報を与える。白夜が理解するのではなく、あくまでそういうものがあるという知識を与えるのみ。白夜自身、重力の仕組みがどのようになっているのかは知らないため、理解する必要は無いとアトミックアニーは考えた。
《戦闘の補助を開始します。当機を絶対に離さないようにお願いします》
《は、はーい……》
するとアトミックアニーは、ホドが纏うバッタの鎧にまだくっついていない個体を、大気中の分子を構成する静電気を動かし、バッタを圧死させる。無数に広がるバッタの群れを一掃してくれたことにより、白夜の嫌悪感は徐々に消えていく。だが、決めたことには変わりない。
「じゃ、私も本気出すよ」
白夜は身体中にロストエネルギーを纏わせると、1度目を閉じる。すると、体に纏わせたロストエネルギーは膨張し、ロストエネルギー自体が増えていく。その増えたロストエネルギーを凝縮して体に留め、更にアトミックアニーにも込める。
開眼した瞬間、白夜の気配が一気に変わる。体に纏わせているロストエネルギーが月明のように光り、ロストエネルギーが凝縮されたことによって周囲の空気の静電気が稲妻となり、白夜の体の周りを縦横無尽に走る。緑色に鋭く光るその黒い瞳は、いつものような無邪気な雰囲気など捨て去るほど、勇ましく強い意志を見せた。
「じゃ、始めようか」
そう言うと、2人は圧倒的な速度での戦いを繰り広げる。剣と拳がぶつかり合うその戦いは、恐ろしいことに金属音が何回も連続して鳴り響く。その中でも覚醒コマンドの行使による身体、能力両方の強化、頑丈な鎧を更に頑丈化、鎧の機能性も向上したことにより、更なる速度上昇。ホドは覚醒コマンドの恩恵を受け、白夜を瞬殺すると考えていたのだが、白夜はホドが見せた大きな差を、自身の能力を見つめ直すだけで埋める。
ホドが拳を振るうが、白夜はさっきまで通じなかったアトミックアニーで易々と腕ごと斬る。そのまま蹴り飛ばすと、傷一つつかない強度を誇り、更に強化した鎧を簡単に部分破壊する。ホドはすぐに鎧を再生し、更に大量のバッタを生み出す。
バッタ達を用いてすぐに自身の鎧を10領生み出すと、その鎧達にそれぞれロストエネルギーを大量に込めて分身のようなものを生み出す。
「潰す」
「じゃあとっととしろ」
ホドは分身達と共に白夜の周りを高速で移動し始める。合計11領の鎧達は全て同じ形ながらも、全てが違う形で移動し合う。入り乱れながら移動していたため、白夜はどの鎧に本体のホドが入っているのかがわからずにいた。
(鎧全部が同じロストエネルギー量なのね……。これじゃ判別する手段があまりにもなさすぎる……)
一瞬どうするべきかわからずにいたが、白夜は強硬手段を執ることにした。準備は既に整っていたため、白夜はアナイアレーション状態になった。周囲の時間が止まったように感じるため、高速で移動していた全ての鎧も例外なく止まっているように感じる。今出せる最大のスピードを用いて、全ての鎧の首を刎ねると、ひとつだけ明らかに手応えのあるものがあった。紛れもなく、それが本体のホドである。白夜はアトミックアニーを力強く握りしめ、首を刎ねた勢いのまま鳩尾を左手で思いっきり殴る。すぐさま体制を変え、背中を蹴って地面に叩きつけると、地面に激突したホドの核に向けて、今出せる最大火力の突きを放った。




