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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第6章 仏独戦争
188/206

188GF マジノ線攻防戦 その9



 雷風がポルトスの元へ駆けつけた時、楓はロストエネルギーによる探知を使って1番近い人造人間の反応の元へ向かっている途中だった。



 (あれかな……?)



 すると、激しくぶつかり合う2つの反応が急に現れる。1つは文化祭の時に月天を撃ち落とした時に、一瞬現れた時のロストエネルギーの反応、雫のものであり、もう1つは楓がよく知るセフィロトのうちの1体、ネツァクのものだった。



 (試運転の時しか使ってるところ見たことない……。覚醒コマンド……)



 その場に到着すると、ネツァクは額から2本の角を生やしており、楓が知るネツァクとは比べ物にならないほどのロストエネルギーが放出されていた。もちろん戦闘力も何倍にも上昇している。楓はそう思っていた。だが、現実はそう思えない光景だった。



 (覚醒コマンドを使ってるのに……、押されてる……?)



 激しい殴り合いを高速移動の中で繰り返しており、その中でネツァクは雫にいくつもの攻撃を喰らっていた。雫は周囲に殺意をばら撒きながら戦っており、ネツァクに親でも殺されたのかと言うくらいの憎悪がネツァクに込められている。その拳は地面を割り、空間を裂き、森を壊す。楓はそんな状況を見て、このままではネツァクが殺されてしまうと思った。



 (もうネツァクは敵なんだけど……、雷風が言うなら……っ!!)



 楓は憎悪をそのまま込めて殴る雫の拳を止めに、ネツァクを殺すのを止めに戦いに介入しに向かった。

 ネツァクは雫に押され気味だった。多少攻撃が入りはしたものの、それでも雫から受ける攻撃はひとつひとつが重く、それに手数が多い。一切の慈悲がなく、的確に急所だけを狙ってくる攻撃だった。隙を作ろうにも、隙を作ろうとするだけでその時に生まれる隙を拳が突く。



 「こうなったら……!!」



 ネツァクは更にムドゲアリムス機関の回転率を良くするため、より多くロストエネルギーを体に纏わせ、更に能力を使って全身に炎を纏う。炎によって体は焦げ、その焦げを回復するために更にロストエネルギーを使い、使用量を増やす。ムドゲアリムス機関にもロストエネルギーを回すことで、無理矢理効率を上げる。

 身体能力を上げたネツァクは、雫に強烈な一撃を顔に浴びせる。そのまま地面に叩きつけると、雫はすぐに体を回復させながら追撃を回避しようと光線を大量に発射する。ネツァクは能力で炎を物質化させ、光線を防ぐ盾にするが、その炎を作っている間に雫はいつの間にか背後に回っており、ネツァクは雫による強烈な蹴りを背中に浴びる。そのまま雫は光線を追撃として放ちながら、吹き飛ばされるネツァクの正面に立って顔面を思いっきり殴る。

 ネツァクは顔面に拳をもろに喰らい、更に拳についていた小型の魔法円によって光線が顔面を包み込み、視界が消える。それによって生まれた、一瞬の間の大きな隙。雫はそんな隙を見逃す訳もなく、(コア)に向けて光線を放つ。



 「死ね」



 ドスの効いた声で恨みの一言を放つと、ネツァクの(コア)を鋭い光線が貫いた。ように見えた。光線は急に動きを止めた。というより、光線はなにかによって進行が止められたというべきか。雫が光線の奥をよく見ると、そこにあったのは魔法円。



 「使い方、よくわかんないんだよなぁ……」



 雫の目の前に現れたのは、昨日フランス軍最高司令本部作戦会議室で雷風の横に居た女性である。雫はその正体が誰か、脳が憎悪に塗れた状態であるため思い出すことができずに敵と認識する。だが、今殺したいのはその奥にいるネツァクのみ。



 「そこを退け」


 「なんで?」



 楓は雫に聞くが、これには精神状態を確かめる意味もあった。



 「奥にいるそいつを殺さないと……。退け」


 「こりゃダメだ」



 理由をまともに答えた場合、この場合でもしっかり話せるということ。殺そうとしているが自我をしっかり保てている場合、事情を話せばこの状況を理解してくれるということ。そして、自我が保てず憎悪と殺意に飲まれ、回答をまともにせずに自分の意見だけを押し通された場合、武力行使を行わなければならないと何も解決しないということ。雫の場合3つ目が該当したため、武力行使を行わなければならないということ。



 (ネツァク……。何したんだろ……? この子の親でも殺した……?)



 「君達2人に私は用がある。だから殺すのはやめてくれないかな……?」



 一応話に応じる可能性があるため、楓は念の為話しかける。が、そんな簡単に憎悪と殺意に飲まれた者が話しかけに応じるわけもなく、殺されるのを止められると感じた雫は改めて戦闘体制に入る。



 「ネツァクは……」



 ロストエネルギーによる探知でネツァクはどこら辺にいるのか、どんな状態なのか大体把握した楓は、ロストエネルギーをそれなりの量纏う。ネツァクは後ろの方でこの戦いを見守るようだ。

 雫は光線で牽制しながら正面から走ってくる。先に楓の元に来る光線を全て拳で適当にいなすと、正面から来る拳を左手で軽く弾き落として、すかさず体を左に逸らし、右手で首に手刀を素早く入れる。右手にはロストエネルギーを体より少し多く纏わせており、その威力で雫は気絶した。



 「気絶したら、ある程度憎悪は軽くなるでしょ……」



 楓は雫をおぶると振り返って、覚醒コマンドを解除した状態で座り込んでいるネツァクを見る。



 「……何があったの?」


 「知らねぇよ。勝手に殺意向けてきて勝手に攻撃してきた。それだけだ」


 「過去に何かした?」


 「してるわけねぇだろ。初対面だわ」


 「じゃあなんでだろ……?」



 すると、ネツァクは目の前にいる楓がビナーでなくなっていることに気づいた。



 「……てかお前! なんでドイツ軍から離れてんだよ!」


 「えー……。話すと面倒だから後でいい?」


 「ま、まあ。いいけど……」



 それよりも、今すぐ話さなければならないことがある楓は、ネツァクにここに来た理由を話す。



 「とりあえず、今すぐこの戦いを止めないといけない」


 「なんでだよ。俺らとお前ら、戦争してるんだから止めちゃいかんだろ。俺が死んだらお前ら得だろ」


 「まあそうなんだけど……」



 楓は少し大きく咳払いをして真剣な眼差しになると、ネツァクは何かを感じとったのか真剣な表情になって話を聞く。



 「今からドイツのベルリンにイギリス、イタリア、ロシアの3ヵ国が同時に侵略する。私の愛人はこれを止めたいらしくて、ベルリンに全戦力を戻した方がいいって」


 「なるほどな。んで、『私の愛人』って回りくどく言わんでもいいだろ。真祖って言え」


 「はいはい」


 「事情はなんとなくわかった。俺らは用済みってわけだ」



 すると、最前線の上空から爆発音が聞こえてきた。何も無いところから爆発するものが見えているため、そこら辺が最前線なのだろうと自然に予想できる。



 「とりあえず、この子おぶって行くから着いてきて」


 「わ、わかった……」


 「後、できるだけ戦闘をしっかり止めること」


 「了解。今の間だけは仲間ってことか」


 「そういうこと」



 楓とネツァクは、最前線に向かって走り始めた。



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