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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第6章 仏独戦争
183/206

183GF マジノ線攻防戦 その4



 マルクトがゆっくりと戦闘態勢に入ると、さっきとは段違いの圧を感じる。だが、それで止まってはいけないと3人はわかっている。慧彼はアンバーの瞳をマルーンの瞳に変化させ、空中には弾幕用の槍を大量に、そして手にも1本ずつ槍を生成する。盾羽は右手に刀、左手に薙刀を生成し、風月は改めてマルクト一点を見つめて、居合の形をとる。



 「GO」



 慧彼の合図に合わせて、慧彼と盾羽は一気に走り出す。マルクトはダアトの能力で隕石製の剣を作り、ゲブラーの能力で剣に風を纏って斬った時の破壊力を向上させる。更にネツァクの能力を使って火を纏い、更に破壊力を向上する。

 慧彼は左手に持っている槍を、走った時に生まれた運動エネルギーを乗せた状態でマルクトに突きを放つ。だが、鈍い金属音と共に慧彼の槍は剣で押し上げられる。慧彼はストラスブールでの戦いから、そう簡単にダメージを与えられる敵ではないと認識している。だから、左の槍での攻撃の時に、右手の槍での攻撃の予備動作を終わらせておいた。マルクトは咄嗟に後ろへ下がると、そこには盾羽が待ち構えていた。盾羽は大量の盾を構えた状態で、更に視界を奪うために首を右の刀で掻き切るために、既に首が来るところに刀を置いていた。

 マルクトは首を限界まで捻って背後を見て、盾羽がどのような体制でいるのかを確認した上で、先に目を瞑った。盾羽は疑問に思う前に首を刎ね飛ばし、左の薙刀で防御力が落ちた(コア)を突き刺そうと勢いよく前へ突き出した。



 (恐らく、こいつは薙刀を(コア)に突き刺そうとする。それが一番善い選択だからな)



 マルクトは一瞬見ただけで盾羽の動きを察して、剣を上へ振り上げた時に生まれた上向きのエネルギーと、首を限界まで後ろへ回した時に生まれた僅かな遠心力を用いて、体を捻って薙刀をギリギリのところで抑えた。そのまま剣を使って薙刀ごと地面に突き刺し、一瞬だけ盾羽の動きを封じた。

 マルクトにとって、一瞬の隙さえ生まれれば、この危機的状況を簡単に打破できる。盾羽からの攻撃がなくなると、次来るのは正面から来る慧彼の攻撃と、その後ろで構えている風月の斬撃。マルクトは首から上を再生して状況を確認する。すると、かなり近くまで慧彼の槍が来ていることに気づいた。そして、その後ろには大量の槍が。そんな時、マルクトはひとつの策を思いついた。

 慧彼はマルクトの(コア)に向けて強烈な突きを放とうとした。だが、それはマルクトの左手に阻まれた。掌から腕の中に入っていき、肩を突き抜けるようにマルクトは高速且つ繊細な動きで槍の動きを支配する。そしてホドの能力でバッタの鎧を腕の内部に作り、動かないように槍を固定した。そのまま手を引き、慧彼の手から槍を離させる。体の正面を慧彼に向けたマルクトは、左足を軸に回転していたエネルギーを右足で殺し、左足の足裏で前傾姿勢になっている慧彼の顔を蹴り飛ばす。そのついでに右の剣で左腕を肩ごと切り落とし、瞬時に再生する。



 「その程度か?」



 マルクトは慧彼と盾羽を煽りながら、正面から来る大量の槍の自分に当たるであろうものだけ捌く。すると、全く見えない斬撃が飛んできた。空気の変化だけでそれを察して跳ね飛ばすマルクトは、風月との距離を一気に詰めて(コア)を狙った一振を放つ。風月は咄嗟に剣を刀で止めるが、焦ったような顔はしていなかった。なぜなら、背後に既に時限式の斬撃を5つ設置していたからだ。それを発動した風月は、マルクトと距離を取りながら頭の右半分を切断することができた。

 マルクトは後ろへ跳んで距離を取ったが、それでも頭の右半分を斬られた。だが、左半分は残っている。再生を行いながら背後をロストエネルギーでの探知で警戒すると、大量の盾による追撃があった。もう一度ホドの能力を使い、バッタで盾を作って背後を守る。



 (4日前とは桁違いに強くなっている……。本気にならないとキツいか……?)



 セフィロト特有の覚醒コマンド。まだマルクトは使っていないが、使えばこの状況など簡単に打破できるであろう。だが、こんな所では使いたくないのがマルクトの心情。使えば劇的な強さを手にすることができるが、その分ロストエネルギーの消耗も大きい上、ロストエネルギー生成機関であるムドゲアリムス機構にもダメージが入る。



 「使わないの? 噂に聞く『覚醒コマンド』とやら」



 風月はマルクトが着地すると、考えていることを手に取るように聞く。



 「ここで使っては、アメリカと対峙する時に支障をきたすからな」


 「ふーん……」



 適当な理由をつけて使わない選択を取ったマルクトだったが、風月はそんな選択に対する核心を突かれる。



 「じゃあさ、『使わずに死ぬ』のと『使って先に備える』の、どっちの方がいいと思う?」


 「馬鹿か。使わずに勝つという選択肢がないぞ」


 「これは一本取られた。でも、できるかな?」


 「なに……っ?」



 風月は少し口角を上げると、マルクトがギリギリ視認できる程の超高速度の剣舞を見せた。その舞を見たことで、風月の能力がなんなのかだいたいわかった。そして、その舞がどれだけ自分に対して脅威なのか理解した。



 (空間に関与して斬撃を直接そこへ与える能力……。ならあれ、やばすぎる……)



 マルクトが予想していた能力の通り、風月はマルクトに対して大量の斬撃を放った。ホドの能力を使ってバッタの盾を何重にも生成し、斬撃を間一髪で防ぐ。それでも斬撃は同じところを何回も通り、バッタの鎧が徐々に突破されていく。



 「痛かったー……」



 マルクトの背後には、いつの間にか盾羽ではなく慧彼がいた。槍を大量に生成し、更に前傾姿勢で両手にも槍が備わっている。マルクトはそんな状況下で、盾羽の位置把握が完全に狂ったことで探すことに集中せざるを得なくなった。



 (……いない?)



 瞬間的に発動した半径20mの探知では慧彼と風月しか探知されず、盾羽の姿は全くない。能力の形跡すら見当たらなかった。



 「探知してる暇、ある?」



 慧彼は攻撃を行う直前に、マルクトに挑発がてら聞く。



 「さあな」



 毅然と返すほど、マルクトに余裕はなかった。



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