178GF 覚悟
2018年10月6日、午後6時20分。ルクセンブルグに進軍していた風月は駐屯していた人造人間を殲滅すると、任務の通りに北にあるベルギー、オランダに向けて進軍し、駐屯していた人造人間を軒並み殲滅した。風月がフランスに帰った頃には、既に次の日が昇っていた。
「ああぁ〜……。本当に疲れた……」
10月7日午前6時、フランス軍最高司令本部作戦会議室に疲労困憊状態で入ってきた風月は、目の前の状況を見て疲労が一気に吹き飛んだ。正確には疲労が吹き飛んだと錯覚するほど、目の前が風月にとって衝撃的な状況になっていたからだった。
「雷風……。やっと……、成し遂げたんだね……」
雷風の横の椅子に座っているのは美澄 楓。風月は雷風の記憶回路を通じて情報を得ていたため、雷風がかなり苦労していたことも全て把握していた。でもあえて手を出さなかったのは、風月にとって「楓を柵から解放することは雷風がすることであって、私が関与してしまってはいけないことであろう」と、心情を大体汲み取っての行動での発言だった。雷風はそんな風月含め全員に感謝の気持ちを伝える。
「また俺の我儘に付き合ってくれてありがとう」
「基本的に雷風の我儘がなかったら私達暇だしね」
感謝の気持ちに応えたのかよく分からない回答をする慧彼に、何故か断罪者は全員賛同する。三銃士はダルタニャンに止められており、その止めたダルタニャンは雷風から一通り事情を聞いていた。ちなみに断罪者達は雷風が何をしていたのか全員知らないため、我儘の内容すらよくわからないまま会話している。
「んじゃ、全員揃ったってことで紹介する」
「えーと、……美澄 楓です」
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雷風と楓がフランス軍最高司令本部作戦会議室に帰ってきた時にまで遡る。
「ダルタニャン。全部、終わったぞ」
一番に発した言葉は、ダルタニャンにしか伝わらないであろう発言。だが、今はダルタニャンにしか伝わらなくても問題はなかった。
「ああ。とりあえず椅子にでも座っとけ。その状態で色々質問するわ」
自分の近くの椅子にそれぞれ座らせると、ダルタニャンは雷風と楓にいくつか質問をし始めた。
「まず……、真祖の姫で合ってるよな?」
「合ってますよ」
「名前は?」
「美澄 楓です。……じゃあ、このまま自己紹介しますね」
楓はそう確認すると多少の無の時間があったため、これは了承の間なのだろうと察して自己紹介を続けた。
「自然のものは基本的に何でも操る能力を持っていて、身体スペックは雷風と同じくらいです。あと、雷風と違ってスロースターターじゃないので、最初から100%で戦えます」
ダルタニャンはその言葉を聞いて、すぐに雷風の方を見る。そして、鋭い言葉を浴びせる。
「お前より優秀じゃん」
「まあな」
雷風は不思議なまでに誇らしげに返答したため、何様なんだと思いながらも質問を続けた。
「これから元味方のドイツ軍と戦うことになる。それでもいいのか?」
(やはりまだ覚悟は決まっていない……、か)
ダルタニャンはしっかりと人の心を持ち合わせている。そのため、昨日まで共に戦ってきた味方と相対することの辛さは理解できる。だからあえての確認である。揺らがない心を持たない半端者に、大切な戦場を任せることはできない。そう思って諦めようとした時だった。
「……私の軍の子を殺すのは流石に苦だけど、これは私が選んだ道だから」
楓の言葉にダルタニャンは何かを感じた。
「私のことを温かく送り出してくれた軍の子に失礼だし、何せあの子たちの気持ちにも応えたい。私はもちろん雷風に感謝してるし、あの子にも感謝してる」
楓は自身の覚悟を正面からぶつける。その覚悟はダルタニャンにしっかりと伝わっており、横で聞いている雷風も楓の本心を初めて聞き、感銘を受けていた。
楓は立ち上がってダルタニャンの方に体を向ける。下に向けていた視線をダルタニャンの目にピッタリ合わせ、覚悟を決めたようにキリッとした顔で覚悟の言葉を伝える。
「人の未来を背負う覚悟くらい、もうとっくにできてます」
「……わかった。だが、一つだけ条件がある」
ダルタニャンは楓の覚悟をしっかりと汲み取り、最前線で戦うことを認めた。だが、ダルタニャンは元敵をそこまで信用するほど懐が広いわけではない。そのため、戦闘する際の制限を設けた。
「条件……、ですか?」
「基本的には雷風と共に行動してもらうことになる。仮に敵に寝返った時、倒せる可能性があるのは現状雷風だけだからな」
「俺は信用しきってるけどな」
「身内に甘すぎるんだよお前は」
雷風は座れという合図からサムズアップを楓に向けて行い、「座っても良い」と言葉を使わずに伝えた。それを見ていた楓は椅子に座り、雷風はダルタニャンに次の話を行う準備を整えさせた。
「で、これを見てほしい」
ダルタニャンはモニターに注目させ、モニターにパソコンの画面を映し出した。そこには断罪者、三銃士の顔写真とステータスが表示されていた。すると、楓はそのうちの1人を知っているようだった。
「あ、この子知ってるよ」
楓が最初に指したのは、黒髪ロングにオレンジのインナーカラーが入ったアンバーの瞳を持つ美女だった。
「確か裁断 慧彼ちゃん……、だった気がする」
「なんで知ってんだよ」
「文化祭の最終日に慧彼ちゃんが空から降ってきたからね、それを助けたら名前を教えてくれたの」
「相変わらずだな……、あいつ」
雷風は少し呆れ気味で返答した。
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「……あ!! 裁断 慧彼です!!」
慧彼は文化祭の時を思い出してすぐに挨拶をする。顔を見た瞬間に文化祭の時の記憶が頭の中を過ぎったが、まだその時点では確証はなく憶測に過ぎなかった。だが今、名前を聞いた瞬間に確信に変わった。目の前に命の恩人がいるということを。
「覚えてるよ。印象深かったし、何せまだ2週間も経ってないしね」
慧彼が重苦しい雰囲気をぶち壊したことによって全員が喋りやすい雰囲気に変わり、断罪者と三銃士と一瞬で仲良くなった楓であった。




