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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第6章 仏独戦争
174/206

174GF パリ大空襲 その3



 拳で相殺したガブリエルは、放った拳を利用して霞を前へ押し出す。その際にかかったロストエネルギー量は、相殺に使ったロストエネルギー量を凌駕しており、空間が歪んだように見えた。霞の視界が歪むと、次の瞬間にはガブリエルが200mほど離れていた。



 (えっ……!?)



 咄嗟の反応で綺麗に着地できたのだが、ガブリエルと霞の一直線上には火の球の対処をしていた雫がいた。ガブリエルとの戦いは霞に全て任せていた雫は、膨大な量の、膨大な範囲に落とされる火の球を空中で全て消滅させることに全神経を集中させていたため、ガブリエルの攻撃に対処させることは不可能に近かった。



 (マジか……っ!!)



 水の滑走路と翼を一瞬で生成した霞は、拳を前に押し出したことによって生まれた後隙を利用して、ガブリエルが次の攻撃動作に入ろうとした瞬間に下から斬り上げる。

 目の前に水の剣が迫ったガブリエルは、咄嗟に左足を軸にしてギリギリで回避する。顔の目の前を通ったことを風圧で感じたため、微かに感じた風を利用して上昇気流を発生させる。



 「本気で殴ってあげる」



 霞に向かって宣告するガブリエルは、発生させた上昇気流の風力を腕と足に集束させる。宣告したことで霞に距離を取られ、水の盾を複数枚生成される。

 上昇気流の風力を一気に集束させたことで、パリ一帯の気流は下降気流となり、雲がどんどん黒く染まっていく。天気がどんどん悪くなっていく気配がするが、それでもガブリエルは集束をやめる気はなかった。



 「……よし」



 その言葉と共に、第一宇宙速度に到達するほどの速度でガブリエルの拳が飛んだ。拳は生成していた水の盾を全て蒸発させ、大量のロストエネルギーを込めて構えていた霞の持つ水の剣に激突する。激しいエネルギーとエネルギーのぶつかり合いは周囲に強い衝撃波を放ち、空間を歪ませて、轟音を鳴り響かせる。



 (強い……!!)



 全身にロストエネルギーを込めて更に身体能力を向上させた霞は、全身全霊で拳を弾き返そうと更に水の剣にロストエネルギーを込める。負けじとガブリエルも更にロストエネルギーを込めるのだが、ロストエネルギーの瞬間的発動率が少しだけ低かったため、ガブリエルは上へ吹き飛ばされる。

 ガブリエルが吹き飛ばされたことによって下降気流は消え、大気は無風状態となった。下降気流がなくなったためにガブリエルは予想していた高度よりも高く上昇してしまった。翼を広げて過度な高度上昇は防いだが、それでも今すぐの戦線復帰は厳しかった。



 (復帰しようとしても最低でも1秒はかかる。なら、こっちもしっかり磐石な体制を整えてから行くべきか……)



 その瞬間、真後ろから超高速で迫る人造人間を感知した。後ろを振り返ろうとするが、その人造人間が何者なのか知る間もなく蹴り飛ばされる。気づくと既にビルを20棟程貫通しており、受け身は取れたものの地面に足が触れていた。



 (ん……!?)


 「さて、準備運動でもしましょうか」



 その声を聞いた瞬間に、ガブリエルは自身を蹴り飛ばした者の存在を理解する。見ずともわかるその声の正体は……。



 「真祖の姫……」


 「万全な状態じゃないから、準備運動くらいになっちゃうけど。今はそれで満足して」



 50mほど離れた楓を見て、ガブリエルは戦闘態勢に入る。入らないと死ぬと、直感がそう言う。ロストエネルギーを全身に込めようとするが、そんな間もなく楓に距離を詰められる。戦闘態勢に入っただけで、まだ攻撃すら放っていないガブリエルの鳩尾に下から右アッパーを入れると、体制をすぐに入れ替えて上からガブリエルの背中を右足で蹴り落とす。

 楓に全力で蹴られたガブリエルは、吐血しながら地面に叩きつけられる。地面に激突した反動で体が浮いたのだが、それを楓は見逃すわけもなく能力を使用する。ガブリエルは強い下降気流を発生させようと能力を使おうとするが、下から強化された根が6本現れ、(コア)以外の部分を貫いて上空へ道連れにする。ガブリエルは強力な下降気流を発生させるが、それでも根は止まることなく上昇し続ける。



 「……っぁぁぁあああ!!」



 全身にロストエネルギーを込めることでなんとか体を貫いた根を全て折れたのだが、天気が悪いことを利用した楓はガブリエルの体に雷を命中させた。雷にロストエネルギーを纏わせた状態で落としたため、ガブリエルの体を地面に叩きつける形となった。



 (これが真祖の姫……。出鱈目でしょ……!!)



 地面に激突する直前のガブリエルの視界の端には、右手に刀を持つ楓がいた。このタイミングで殺されるのかと思ったガブリエルは、目を閉じた。

 次の瞬間、ガブリエルが目を開けると上空にいた。腰周りには腕の感触があり、空を飛んでいる。



 「真祖の姫……。上から見てたけど、あれはやばいわ……」



 ミカエルの声が聞こえる。その瞬間にガブリエルは作戦が失敗したのだと確信した。目を開けたことをミカエルが確認すると、ガブリエルを離して飛翔させる。



 「どうだった……?」



 ミカエルはガブリエルにそう聞く。



 「……世界が違った」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 霞と雫は一足先に合流していた。



 「上通ったの、誰なんだろう……」


 「さぁ……? 戦ってた私が一番わかんないってどういうことよ」



 2人はフランス側に付いた楓の存在に気づくことなく、エッフェル塔に向かって歩き始めた。






 30分後、雷風がパリに到着する直前に楓が戻ってきた。



 「逃げられちゃった」



 少ししょぼんとしている楓を、雷風は軽くだが労う。



 「ドンマイ。……敵はイギリスか」


 「うん。四大天使が2体も」


 「前も2体来てたんだよな」


 「イギリスもフランスのことは危険視してるんだね」


 「前のフランスなら軍事介入なんてしなくても全然大丈夫だっただろうからな」



 雷風はパリの街中に入ると、地味に壊されている街並みを眺めながら歩く。



 「にしても、あの猛攻をこの被害で済ませたのか。成長したもんだな」


 「遠目でもわかるもん。あの量は私でも全部捌くのは難しいもん」



 火の球が落ちるあの光景を思い出すと、顬に冷や汗が流れる。ひとたび思い出すと、その光景が脳裏に焼き付いて止まらない。



 「まあ、とりあえず……。……本部行くか」



 2人はひとまず、パリにあるフランス軍最高司令本部へ向かった。



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