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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第6章 仏独戦争
172/206

172GF パリ大空襲 その1



 2018年10月6日、午後6時20分。イギリス軍のミカエル部隊とガブリエル部隊がパリ上空に進軍。空から大量の人造人間が落ちたところを、パリ防衛の任務にあたっていた白夜と霞が発見した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 雷風とマルクトが激しい攻防を繰り広げていた時、ミカエルとガブリエルは大量の軍を率いてパリ近郊の上空にいた。引き連れている人造人間約50万の全てに2枚の翼がついており、茜に染まった空を翼で埋めつくす光景は異様なものだった。

 エッフェル塔の頂上で目にロストエネルギーを集中させ、人造人間が来ないか見張りをしていた。この役目はパリにいる断罪者、三銃士のいずれか1人がやることになっており、今は雫が担当する時間だった。



 (あの時、人造人間に完敗した……)



 4日前のカーン強行戦でミカエルに惨敗したことを、雫はまだ引き摺っていた。手も足も出ずに負けたこと、パリにまで進軍を許してしまったこと。あの時から雫は、自分が強くなったとは思っていない。



 (けど……、負けたから知り得た情報もあった……)



 カーン強行戦で敗北した際、かつての戦友であり、神月の元から離れる時に手助けしてくれた恩人である火天が生きているという情報を、ミカエルから手にした雫。その時は疑いもしなかったが、翌日のベルンに向かう直前にふと思ってから、今まで嘘ではないかと疑っている。



 (私を油断させる嘘だって言う可能性も捨てきれないけど、あの状態で私の戦意を奮い立たせるようなことを言うかな……?)



 油断させるための発言だという可能性はもちろんある。だが、色々考えていくと余計にミカエルの思考が読めない雫は、その沼に嵌っていた。



 「火天……、生きてるといいな……」



 儚い顔で呟く雫の願望は、エッフェル塔の上で誰にも聞こえずに消えていく。無情と消えゆく弱々しい声は今の雫を表すようであり、心の扉を塞ぐようだった。

 そんな雫の視界に、空に浮かぶ桃色と黄緑色の何かが規則的に上下に動き、その背後に無数の白い何かが蠢いているものが現れた。雲かと思ったが、あの色味の桃色は見た事があった雫。



 〔霞。エッフェル塔登って〕


 〔時間まだだけど……?〕


 〔いいから〕


 〔わかったよ〕



 雫は霞を半ば強引にエッフェル塔の上に登らせ、自身はエッフェル塔の頂上から直接地面まで降下し、着地すると共に前傾姿勢を作り、見覚えのある桃色の何かがある場所へ走って向かった。

 一方、ミカエルとガブリエルは大量の人造人間をパリ近郊の地上へ降下させる命令を手で下し、一気に進軍を開始させた。



 「いいの? こんなに人造人間使って」



 疑問に思ったガブリエルは、ミカエルに聞いてみる。



 「いいの。イギリスの高度能力兵生産能力は世界一だから。それ以上に、50万くらい使わないと断罪者達を混乱させることはできない。……この量でも全部処理されそうだけどね」


 「この量でも……」



 イギリスが所持している人造人間は、雑魚兵や偵察兵、遊撃兵こそほとんど生成していないが、その代わりにロストエネルギーのコストがかかる高度能力兵を大量に生産している。しかもロストエネルギーの源泉がブリテン半島には大量にあり、それを利用して大量生産しているのだ。それが頭の中にあったミカエルは、前回戦った雫、慧彼、盾羽の殲滅能力を見て、50万の高度能力兵を連れて進軍したのだ。

 ガブリエルは降下していく地面を埋め尽くすほど大量の高度能力兵を見て、これでも足りないかもしれないと思うと少し冷や汗をかいていた。



 「四大天使No.2の実力者が冷や汗かいてる」


 「この量は倒せそうにないなぁ……、って」


 「倒せるでしょ」


 「まあ、できるけどさ……」



 ミカエルはガブリエルの気持ちを解しながら鼓舞していた。ガブリエルもミカエルの言葉を聞き、少し自信を持った。

 雫はパリの18区にあるポワソニエ スポーツ センターの近くにある環状道路まで辿り着くと、降下している大量の人造人間を鮮明な姿で発見した。



 (……多くない?)



 そう思い冷や汗をかきながらも、しっかりと赤色の魔法円、青色の魔法円、緑色の魔法円、薄黄色の魔法円のいつも形成している4種類のエレメント属性が刻まれている魔法円を形成する。雫の近くにある順番から薄黄色、緑色、青色、赤色の順番で並ぶ魔法円は、魔法円の模様だけが回転するだけであり、その場から動いたりはしない。それを大量に生成した雫は、火力と射程距離、光線効果範囲の全てを強化するため、自身の中にある6割のロストエネルギーを全ての魔法円に割いた。全ての魔法円がひとつに重なった瞬間に光線は放たれ、降下している人造人間達は翼を盾のように構えながら急降下するが、それすらもカバーする光線効果範囲の広さで、大量の人造人間を一度に殲滅することに成功した。

 雫が走ってその場に向かっている間に、ミカエルとガブリエルはパリの市街地の上空に着いていた。ミカエルは大量の火の球を生成し、ガブリエルはパリから近郊までの広大な範囲に及び、大気圏ギリギリの高度100km地点から下降気流を発生させた。それによるエネルギーで、生成した火の球は下降気流によってとてつもない速度で地面に向かって落ちていく。更に風による酸素の供給によって炎は、火の球が地に落ちた瞬間、大火事は必至な程に気高く燃え盛っていた。

 霞はエッフェル塔の頂上まで跳んだ直後、上空から燃え盛った火の球が落ちていることに気づいた。



 (水で消火しようにも、あれを消火するには大量の水が必要になる。更に、あのレベルで燃えてるところに水で消火しようとしたら逆効果……)


 〔雫。すぐに戻って火の球を光線で消して〕


 〔あ、うん……〕



 自分の能力では消せない。同様に、慧彼や盾羽のような金属を飛ばして遠距離攻撃を行う能力でも火の球を破壊することはできない。雷風と白夜、風月はパリにいない。アトスとアラミス、ポルトスに関しては遠距離攻撃を持ち合わせていない。つまり、今の状況でこれを片付けることができるのは雫のみ。それを瞬間的に判断した霞は、雫にすぐ戻ってくるように言った。

 雫は人造人間を殲滅すると、霞から「すぐに戻ってこい」という命令が下ったため、振り返って全速力で火の球の落下予測地点まで走った。落下予測地点は1区のオーステルリッツ記念柱周辺である。直線距離でおよそ5kmを建物の屋上を走り、10秒もかからずにオーステルリッツ記念柱に到着した。見上げると大量の火の球があり、今にでも落ちそうな雰囲気だった。雫は落下予測地点を埋め尽くすほど巨大な魔法円を生成し、火力と持続時間だけを考えて光線を放った。

 全ての火の球を存在ごと消滅させた雫は、魔法円を消して光線も消す。すると、上を見ていた雫の視界に入ったのは、遥か上空にいた桃色の翼、灼眼を持った赤髪のショートヘアの女、ミカエルだった。



 (あの人造人間……)


 (あの時の……)



 雫とミカエルはかなり距離が離れているはずなのに、目が合ったように感じた。



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