168GF ルーアン市街地戦 その4
マルクトは雷風が射程外に吹き飛んだ瞬間、刀を上に掲げた。すると、いちばん高い場所などには関係なく刀に直接雷が落ちる。雷風は着地した瞬間にそれを見たため、魔法円を生成した場所がたまたま雷の落下地点の途中にあったのかと心の中でビックリした。
ダイヤモンドで作られている刀に強烈な電気が帯びた。刀からは稲妻が走り、それはビナーの体へと侵食していく。その状態でマルクトは足を1歩後ろへ下げ、前傾姿勢になる。雷風は立ち上がってマルクトの攻撃に備えて大和を構える。次の瞬間、マルクトは電気か推進剤としてより強い遠心力がかかった刀を、走った先にいる雷風へ放った。雷風は目の前に物凄い速さで迫る刀を、大和を縦に振って勢いを完全に殺す。そのまま雷風は刀ごと大和を地面に叩きつけ、攻撃の手段をひとつ消滅させる。
(何っ……!?)
刀は地面に深く突き刺さり、すぐに抜くことは難しかった。それに比べて大和はほとんど地表に出ており、雷風はすぐに引き抜いた。無尽蔵のロストエネルギーを足に纏わせ、前傾姿勢のマルクトに一瞬で近づき、頭を足裏で蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたマルクトはソニックブームを起こしていた。
マルクトは蹴り飛ばされる直前に自身の背中に向けて硬度が上がった根を放っていた。蹴り飛ばされた瞬間に根の進行方向を誘導し、根の上で綺麗に受け身を取りながら四肢を駆使して着地した。根の進行は止めることなく、体にかかっていた後ろ向きの力は逆に前向きの力となり、それに合わせて前傾姿勢となる。マルクトは足にロストエネルギーを集中させ、根の進行を急停止させると共に根を蹴って雷風に向かって跳んだ。
(取った……)
マルクトが刀を構え、一閃する。だがその時、既に雷風は異常なまでの体幹を駆使して体を反らし、地面から60cmの高さで放った一閃を回避した。マルクトはその避け方に驚きながらも冷静に着地した。
一方、雷風は自身の上にマルクトが通った瞬間、大量のロストエネルギーを集中させてビナーの体内にある支配核を一気に探した。すると、左腕の上腕二頭筋、長頭部分の中腹部分に直径1nmほどの大きさで存在していることがわかった。マルクトが上を通った瞬間に体を起こした雷風は、マルクトが着地した瞬間にアクセルモードに入った。
「大和、駆動」
着地した瞬間という無防備な状態で止まったような状態になっているマルクトに歩いて近づく雷風。大和を上に掲げ、左腕にある支配核に向けて正確に斬る。だが、雷風はそれだけでは足りないような気がしたのか、左腕を丸ごと斬り、残った左腕を全て細切れにした。しっかり斬れたことを確認した雷風は、マルクトから離れてからアクセルモードを解除し、様子を見る。
ビナーはその場で少し体制を崩してドス黒いロストエネルギーを放出するのをやめるが、5秒経つとまたドス黒いロストエネルギーが滝のように溢れ出る。支配が弱まったのだろうか、それは俺にはわからないが、少なくとも楓の精神がこちらに帰ってきたのだろうか。
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鎖で縛られていたビナーは、マルクトがビナーの体に仕込んでいた支配核を斬られた瞬間、縛っていた鎖が連動するように斬られた。
「あんたの支配が緩んだようだけど?」
そう言い、自慢げな顔をして精神世界内で能力を発動し、自身の周辺にある酸素の濃度を3倍まで濃くした。ウルツァイト窒化ホウ素を原料とする超高硬度の刀を生成し、右手に持ってマルクトに向かって走り出す。すると、マルクトは左手に持っていたダイヤモンド製の刀を使って応戦する。精神世界といってもビナーは精神を掴まれている状況。ロストエネルギーもラーシエンもマルクトの支配下に置かれているため、精神体内に残ったロストエネルギーだけで戦闘するのは無謀だった。
ビナーは左から大きく刀を振るが、マルクトの刀にすんなり受け止められて弾き飛ばされる。マルクトは体を回転させながらビナーとの距離を詰め、腹に強烈な左足裏での蹴りを浴びせた。精神体だと言っても、ビナーは一瞬だが呼吸困難になって見えない壁に叩きつけられる。マルクトはビナーに近づき、ロストエネルギーを右拳に込めた。ビナーの頭頂部を地面に叩きつけるように右拳で殴ったマルクトは、再び鎖でビナーの四肢を縛り付けた。だが、縛り付ける鎖の量が2倍になっており、体を動かすことすら困難となっていた。その状態のビナーの頭を足裏で地面に押し付けたマルクトは、その状態で会話を求めた。
「この際だから話してやる」
「何を……?」
地面に額をつけている状態で、ビナーはマルクトに質問した。
「俺がドイツ大統領代理になってまでしようとしていることだ」
すると、マルクトは語りだした。
「ネイソンが作った長々としたプロジェクトをぶっ壊すためだよ。まず、ネイソンは誰かしらと共同して真祖化計画っつうものを計画し、実行、成功した。それがお前らだ。その真祖で何をしようとしていたと思う?」
唐突の質問に対し、ビナーはネイソンの考えそうなことを言った。
「真祖を使った人類淘汰……?」
「違うが惜しい。ネイソンのやりたかったことは『真祖よりも強い生命体に自身が進化すること』だ。どうも、自分の作った最高傑作の生命体を自分が超越することで、自身の完全性が見えるんだと」
「そんなのして何になるの……?」
「知るか。あのジジイのことなんか知ってるわけねぇだろ。お前も昔からの付き合いなんだろ?」
足にかける体重を徐々に強くしていくと共に、ビナーが徐々に痛がる姿を他所に、マルクトは語りかけるように話す。すると、マルクトは感情に任せて一気に足へ体重をかけて話した。
「あんな気持っち悪ぃやつの思考回路なんて読めるかっつーの!!」
マルクトはビナーから離れると、ビナーの持っていた刀を鎖で拘束し、自分の手元に持ってきて破壊する。
「お前の愛人さんはどうやら、俺の支配を解放できたと思ってんだろうな」
マルクトは大きく言葉を溜めると、煽るように言う。
「んなわけねぇだろ」
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ビナーの体からドス黒いロストエネルギーが滝のように溢れ出る。それと共に立ち上がり、こちらを向きながら煽るように言う。
「んなわけねぇだろ」
精神世界では言わなかった言葉を、マルクトは雷風に追加で放った。
「支配核は簡単には壊れない。そうできてるんだよ」
「そうか。その支配核だったか? 完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」
雷風の体からは、漆黒のような真っ黒なロストエネルギーが静かに、まるで1本の糸のように天に昇り始めた。




