167GF ルーアン市街地戦 その3
マルクトは立ち上がると、体からドス黒いロストエネルギーを放出させる。放出させたロストエネルギーは空中で幾つもの球体となって、その場で留まる。次の瞬間、幾つもの球体となったロストエネルギーは一気に爆発四散し、ルーアン周辺全体へ幅広く飛び散らせた。
「真祖よ、死ね」
「殺すならとっとと殺せよ」
すると、マルクトはビナーの能力である自然を使い、地面の奥底にある太い根を能力を使い、硬度を上げた状態で伸ばした。地表にまで現れた太い根の先は、軽く触れただけで指が裂けそうな程に鋭利だった。
雷風はマルクトが4本の根を地面から伸ばしたのを確認すると、大和を地面から抜くとそのまま自然体の状態になり、根での攻撃に備えた。
マルクトは4本の根を雷風に向けて、自身の姿が見えないように放った。だが、雷風はどうせそうするだろうとわかっており、射程範囲内に入った瞬間に4本の根の先端を斬って走り出す。4本の根の残った部分を走りながら切り刻み、マルクトを視界内に入れる。
(捉えれはしたが、ここからが模様の核を探す手がかりになる……)
雷風はビナーの体を切り刻もうと横から大和を振るが、マルクトもそれに対応して足を大きく前へ踏み出し、刀を振って大和の勢いを殺し、衝撃を受け止める。それに加えてマルクトは能力を使用し、硬度が上がった根を雷風の四方八方から浴びせる。能力を使った直後に大和を受け流し、雷風の横を走ってルイ・リカール通りをまっすぐ100m程抜けていく。
雷風は四方八方を硬度が上がった根で囲まれた。根の尖端は雷風の核を狙っているのではなく、四肢や関節といった動く際に必須となる部位だった。雷風は大和にロストエネルギーを流し、前方から向かってくる全ての根を斬撃で切り刻む。そして空いた前方を利用して、フォンテーヌ・サント=マリーの残骸を躱すように前宙する。前宙の予備動作として少ししゃがんだ際に大和を鞘に入れ、ロストエネルギーとラーシエンを流しながら腰から鞘ごと抜いた。鞘と鍔が連結して鞘からトリガーが現れると、鞘の先にある銃口を残った根に向ける。頭と足が綺麗に逆転した状態で、雷風はトリガーを引く。
範囲を15mに限定したため高出力で放たれた光線は、硬度が上がった根など、その場になかったかのように溶かしてマルクトに向かって放たれる。マルクトは地面を局地的に隆起させて、隆起させた壁から火山を生成、噴火させる。ものすごい爆音と共に噴火した火山の炎は光線を打ち消した。
雷風は着地すると共に鞘を腰に入れて振り向き、次の瞬間にはマルクトを大和の射程圏内に入れていた。足を前に力強く踏み込み、ロストエネルギーを込めた大和を上から勢いよく振り下ろす。振り向いた時には雷風がその体制だったため、マルクトは振り向きざまにロストエネルギーを込めて遠心力を使って受け止める。受け止めたビナーの足は何層もある硬いコンクリートを容易く砕き、震動がルーアン中を包み込んだ。
(真祖の力はこの程度か……)
雷風は支配核の場所を探し当てるために、マルクトに向けて大量の斬撃を浴びせる。だが、マルクトも刀を使って全て防ぎ、反撃を行う。大和と刀がぶつかる音は甲高く、次第に音源が増えていくため音量が増幅する。増幅した音はルーアン中に響き渡るが、そこには誰もいなく、雷風とマルクトの耳に強く残るだけだった。
更に黒い雲が現れ、近くで雷が鳴り始めた。その音を聞いた瞬間、マルクトは雷風の背後から忍ばせていた硬度を上げた根を伸ばして攻撃した。雷風は常に発動しているロストエネルギーによる感知で攻撃を感知し、横にした体を軸にして回転しながら跳躍した。マルクトは跳躍する雷風に合わせて下から根を放ち、より高く誘導するように攻撃する。
(誘導か……。なるほどな)
マルクトが攻撃パターンを変えてきた理由がわかった雷風は、大和にロストエネルギーを込めて魔法円を1つ、自分より高い場所へ配置した。その魔法円の色は薄黄色であり、光線を発射する様子はなかった。
羅刹天、もとい鬼頭 雫の能力は光線を放つ能力ではなく、「魔法円を顕現し、顕現した魔法円の能力を行使する」というものだ。……と俺は予想している。雫は初めて使用した際に光線が発射したため、光線を放つ能力であると勘違いしていると俺は考えている。だが、俺は何故予想しかできないのか? と思っていた。雫とは記憶回路、思考回路共に共有している。それは姉さんも同じだ。けど、俺と姉さんが最後に雫と記憶回路、思考回路を通じて思念会話を行ったのは6月のこと。それ以降、記憶を覗くことすらできていない。何かしら精神的に異常をきたしているからっていう可能性もあるが、姉さんは俺が精神不安定な時も介入していた……。どういうことなんだ……? とりあえず、これは賭けだ。俺の予想が合っていれば、恐らくこの戦いは勝てる。
黒い雲から突如、雷鳴が鳴り響く。それは雷風の真上であり、鳴り響く前に雷撃は魔法円に当たった。魔法円は同系統である電気を全て吸収し、ロストエネルギーへと変換する。
(この記憶は……、なんだ……?)
雷風の中に突如流れた、非科学的現象が当たり前とする街並みの記憶。手から炎が出る者、翼もないのに空を飛ぶ者、前触れもなく移動する者。そんな者達が溢れかえっていた。だが、一瞬にして記憶は消える。その一瞬の記憶の中で、雷風は見た。そして今、それができると確信した。
『闇から出る光、音と共に墜ちる。』
魔法円から出てくるはずの光線が雷に変換され、その雷は光線よりも強い火力で雷風の体を押す。想像もしない速度で着地した雷風は、受け身を取るタイミングが少し遅れたため地面に激突した。
(油断したな!!)
マルクトはそのタイミングを図り、刀を核めがけて振る。だが、雷風は咄嗟に大和にロストエネルギーを込めて盾を複数生成し、無理矢理変形させることで反動エネルギーを生み出し、そのエネルギーで自身の体を吹き飛ばした。
(まだ足りないか……)
〔戦力解放数値20%に到着〕
雷風は徐々に力を増し始めていた。




