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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第6章 仏独戦争
165/206

165GF ルーアン市街地戦 その1



 2018年10月6日、午後6時15分。ルーアン内にて真祖と真祖の姫が接触。だが、真祖の姫は自身の口から支配されていることを真祖に伝え、真祖に後を任せるように支配に体を委ねた。真祖は真祖の姫が支配元の者に弄ばれるところを目の前で見て、憤慨と共に真祖の姫の解放を開始した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 雷風は、約束していたルーアンへ6時丁度に到着した。空は既に黒く、雲が姿を現し始める。何か起こるのではないかと、自身の中で何かを感じた。



 (またか……。起こるはずであろう現象が、頭の中ではっきりと光景として浮かび上がってくる……)



 俺が見た光景は、目の前で楓が胸を抑えて苦しんでいる光景だった。黒い雲が空に立ちこめ、たくさんの雷が地に降り注いでいる。楓からは滲んだ絵の具のような、荒れた土が水で濡れてできた泥のような、そんなドス黒い色のロストエネルギーが溢れている。そこから導き出されることを、俺は何となくわかっていた。だが、それを俺の感情は認めたくなかった。それは俺と楓にとって、最悪の結果だから……。

 10分ほど、雷風はルーアン大聖堂前で待っていた。すると、ビナーがその場に現れた。雷風はその気配を感じてすぐにビナーの方を向くが、いつもの嬉しそうな顔ではなかった。覚悟を決めた、キリッとした顔だった。



 「……雷風」



 雷風を呼びかける声は、とてもか細かった。その声で事の重大さに気づいた雷風は、ビナーの置かれている状況を完全に把握していた。



 「最悪な状況にしちゃった……」


 「わかってる。だからお前は無理すんな」



 支配による影響は大きく、ビナーはかなり疲弊していた。その中で雷風に何としても情報を伝えようと努力した。だが、雷風はそんな姿を見て全て理解していた。労いの言葉をかけ、無理をしないように催促する。



 「……後は任せろ」



 その言葉と共に、雷風はビナーから離れると共に戦闘態勢に入った。ビナーは必死に抵抗していた支配に対抗する力を抜き、体を支配に委ねた。すると、ドス黒いロストエネルギーはビナーの体全体を包み込み、黒い空へ立ち昇っていく。

 雨が降り始めた。コンクリートの床に当たった時の破裂音は、ルーアンだけに留まらずフランス中を包み込む。その中でも確かに聞こえたビナーの苦しむ声は、雷風の心を強く蝕んだ。そして、蝕んだ心の矛先は既に決まっていた。



 「おい。確か……、マルクトだったか?」


 「おおぉ、俺も随分有名になったものだな」



 ビナーの声で喋るマルクト。その違和感と、体からドス黒いロストエネルギーが噴出している光景を目にしている雷風は憤りを感じた。その憤りをそのままマルクトに向けて言う。



 「黙れ。その声で喋るな」


 「酷ぇなぁ。んなこと言うなよ」



 マルクトはジェスチャーを交えながら、雷風を煽るように話す。完全に俺を怒らせるために言っているのであろうが、俺は1度気持ちをリセットする。



 (楓には任せろって言っちまったからな……。かといって、こいつの支配から解放できないってわけでもない。その隙さえ生んでしまえば勝ちだ……)



 マルクトはビナーの能力を使って攻撃しようとする。その仕草で、雷風は気づいたことがあった。



 (……あいつの能力、俺知らねぇんだよな)



 戦闘態勢に入ってから気づいたが、支配されているものの母体はビナーであるため、気が抜けないことには変わりない。しかも、雷風はスロースターターであるため、手を抜いたにしてもただの人造人間相手に手こずった過去もある。その前例から、雷風は最初から出せる限界を出すつもりだった。



 (出せる限界……、20%くらいか……?)



 すると、持っていた大和が反応する。ロストエネルギーによる音波伝導なため、雷風の脳に直接語りかけるシステムだった。



 〔戦力解放数値10%に到達〕



 マルクトはビナーの能力を使ってダイヤモンド製の刀を作り、同時に鞘も作って左腰に納める。刀を右手に持ち、雷風の方に刃を向けて上段の構えをとる。それに合わせて雷風は平青眼の構えをとり、2人は息を飲む。

 次の瞬間、マルクトは大きく1歩踏み込んで刀を振る。雷風は後ろに跳びながら刀を大和を使って受け流すが、ビナーの身体能力があったため、後ろに跳んだ瞬間に刀を振り切って、体を反転させると共に足裏での蹴りを雷風の鳩尾めがけて放つ。雷風は奇天烈な攻撃を防ぐために大和を上に投げ、両腕を鳩尾の前で交差させてなんとか防いだ。



 (速い……!!)



 ボヌティエ通りの先にあった建物の壁に激突した。蹴りの威力が思った以上に強く、受け身を取る時間が攻撃に対応してからの時間内では足りなかった。

 雷風はすぐに立ち上がって戦闘態勢に入り直すが、目の前にはドス黒いロストエネルギーを全身に纏い、ダイヤモンドの透き通っていた刀身が黒く濁った刀を握っているマルクトが、刀を振り下ろそうとしていた。雷風は鞘にあるパネルを触り、振り下ろしている最中の刀を大和で上から抑え込んだ。



 (何っ!?)



 大和の目貫を握り、大和を軸にして体を前進させると共に、雷風はマルクトの顔に向けて横から強烈な蹴りを放つ。



 (嘘だろこいつ……!! ビナーのこと何も考えてねぇのか!?)



 蹴ってから下に強く叩きつけた雷風は、その反動で浮いた体をロストエネルギーを纏った足裏で蹴り飛ばす。ビナーの体はフォンテーヌ・サント=マリーに直撃し、衝撃を全て吸収したため砕け散る。



 (こいつ……、段違いにイカレてやがる……!!)



 こちらを見る雷風の目は、狂気に染まりながらも理性を保っている、そんな目だった。それはまるで、ジャック・ザ・リッパーの再来に近いものだった。



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