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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第6章 仏独戦争
163/206

163GF 円卓壊滅作戦 その9



 漆黒の球体から脱出した雷風は、漆黒の球体を作ったであろう者を戦闘態勢の位置で把握した。南南東に200m、10m程の大きさの建物の上にいた。ロストエネルギーによる広範囲の探知を行ってそれを把握し、大和にロストエネルギーを込める。するとその方向に向けて、気づかれないくらいの極小魔法円を展開された。



 (戦況を把握している……? 今だ……!!)



 そこに立っていたのはガラハッド。無線でパロミデスに指示を出そうとしたが、逆にパロミデスがガラハッドに無線で警告した。



 〔標的はお前だ!! ガラハッド!!〕


 「はっ……?」



 その言葉の意味を知るため、ガラハッドは雷風を注目して見る。すると、そこにあったのは微細な塵1つ分より小さな魔法円だった。パロミデスはそれをすぐに観測し、破壊しようと能力を使用する。



 「真紅の街、顕現せよ!!」



 パロミデスは真紅の街と呼ばれる守護要塞型防御装置をガラハッドの前に生成する。何重にも強化された真紅の街の奥で、ガラハッドは(コア)を限界まで強化する。モース硬度は優に20を超え、並大抵の攻撃は無効化される硬さで攻撃を防ごうとした。



 (……それは知ってる)



 魔法円からは、範囲を極限まで狭めた威力と照射距離に全振りした光線が一瞬の間に100回照射された。雷風の算段では、探知で把握したロストエネルギーの凝縮具合から、真紅の街含め(コア)を50発目で完全に貫けるように光線の威力を設定した。殺意が籠ったその攻撃は、いとも容易くガラハッドの(コア)を貫いた。ガラハッドの体は光線によって発生した衝撃波と、雷風が少し集弾率を悪くしていたため、体が完全に崩壊し跡形も残らなかった。

 その光景を動くことができずに俯瞰することしかできなかったパーシヴァルは、能力を発動して攻撃を確実に防ぐ透明の盾を4つ生成した。怒りからなのか、全身の血管がくっきり見えるほどに浮かび上がる。



 「……殺す!!」



 溜めて溜めて放たれたその言葉は、ロンドン中に響き渡っていた。だが、それでも雷風の冷静さは欠けることがなかった。



 「そうか」



 無心が籠った声で響く音は、パーシヴァルの怒りを買った。怒りで溜まったエネルギーを足に込め、雷風に向かって走り出す。1歩踏み出すごとに地面は抉れ、瞬く間にその音は目の前まで近づいた。雷風はパーシヴァルが自分の射程に入った瞬間、無から動へと高速で切り替えた。



 (遅いな)



 パーシヴァルの顳顬を正確に狙って大和を振る。だが、雷風の振った大和はカンと何かに当たったような音と共に弾かれた。弾かれた瞬間に雷風は大和を手から離し、鞘にあるパネルに触れて大和を鞘の中に自動で入れる。その際に再びパーシヴァルに向けての攻撃が発生したが、それも防がれて違う軌道で鞘の中に入った。



 (攻撃が何かしらの方法で防がれている。その方法が何にせよ、叩き潰す)



 雷風は大和にロストエネルギーを込め、パーシヴァルの全方位から盾を生成、発射した。パーシヴァルはその状況を見て、手数の多さに驚いていた。



 (どういうことだ……!? なんでこんなに能力を使えるんだ……!!)



 遠くから見ていたユーウェインは、その状況を冷静に観察していた。



 (パーシヴァルを初めとした、俺達の能力は同じ媒体から発生した能力の『効果』に過ぎない。だが、奴に関しては起源が全く違う能力を行使している……)



 雷風は更に上から大量の槍を生成し、500倍の重力を付与した状態でそれらを落下させた。パーシヴァルは盾を防ぐために絶対防御盾を生成し続けたが、盾の数までしか生成が追いつかなかったため、上から放たれた無数の槍を防ぐことはできなかった。



 「雑だが、これも串刺しだ」



 綺麗に(コア)だけを避けて串刺しにし、更にパーシヴァルにかかる重力を強化し、完全に身動きが取れない状況にまで追い込んでいた。



 (次はあいつか)



 雷風はここから1番近い場所にいるパロミデスに殺意を向けた。かなり高所にいたため、雷風は足にロストエネルギーを集めて跳ぶ。跳んでいる最中に大和にロストエネルギーを込め、身動きが取れなくなっているパーシヴァルの(コア)に向けて斬撃を飛ばし、殺した。

 雷風は30m程の高さの建物の屋上に立ち、パロミデスと目を合わす。パロミデスは涙を零しながら、必死に訴えかける。



 「蹂躙される運命(さだめ)だっていうのか……!!」


 「淘汰される。それだけだ」



 雷風は冷酷に、残酷に、非情に徹した。パロミデスは能力を使おうとしたが、雷風は範囲内に入ってきて鳩尾を的確に強く殴る。パロミデスが痛みを感じた瞬間、雷風は上から足を振り下ろし、足の甲で勢いよくパロミデスの体を床に叩きつける。床は崩れ、地面が抉れた。

 パロミデスが立ち上がろうとすると、目の前には目の奥が完全に死んでいる悪魔がいた。その悪魔は不敵な笑みを浮かべることも、脅したりもしない。ただ、そこから見下ろしているだけだ。だが、それが何よりも怖かった。威圧が混じったその視線は、恐怖を与える残酷な目だった。

 パロミデスは雷風に髪を掴まれ、容赦なく壁に投げて叩きつけられる。背中に激痛が走るが、目の前には既に大和を抜いた雷風がいた。視線の先には自身の(コア)があり、真紅の街を出そうにも距離が近すぎて使えなかった。



 「蹂躙される運命(さだめ)なんだよ」



 雷風は建物ごとパロミデスの(コア)を斬った。



 「で、なんでお前は仲間を助けなかった?」



 雷風は後ろを見ると、そこにはユーウェインの姿があった。下半身が虎のような、獅子のような状態、まるでケンタウロスのようになっていた。その状態で、ユーウェインは仲間を助けなかった訳を話した。



 「俺の能力は周りを巻き込むからな」


 「単純に弱いから助けれる間がなかった。とかじゃないのか?」


 「それは今からわかる事だ」



 ユーウェインは正面から走ってくる。ロストエネルギーを全身に纏って身体能力を極限まで高める。その状態の全力疾走は、優に音速を凌駕していた。一方、雷風は「従来の人型と形が違うのであれば、(コア)もまた別の部分に存在しているのでは?」と考え、対象をユーウェインに絞っての探知を始めた。その状態ながらも、雷風はユーウェインの人型部分と獅子のような部分の境目を狙って斬り落とした。すると、上半身が宙に舞いながら獅子のような部分が消滅し、獅子のような部分が人間の足に戻った。



 (ということは、能力によって体を変形させているだけ。つまり、(コア)は人型の人造人間と大して変わらないってことか)



 すると、ユーウェインは手に持っていた剣を捨て、両腕を獅子のような手に変形させる。そのまま鋭利な爪を雷風に向けて、一気に伸ばして攻撃する。それを間一髪で回避した雷風だったが、もう片腕の爪が残っていたため、その爪による攻撃を全て大和を使って斬り落とした。



 (ちゃんと硬いんだな……、この爪……)



 地面に着地したユーウェインは、振り向いて雷風の方を向く。そして、正面から走り出す。雷風はその威勢を評価し、正面から防御することを選んだ。ユーウェインは獅子のような手を巨大化させ、ロストエネルギーを凝縮させ硬くした。それに対抗するように、大和にロストエネルギーを込めて更に大和を強化する雷風。ユーウェインは雷風を殴ろうと拳を振り、雷風はその拳を正面から止めようと剣先を拳に向ける。互いの武器が当たった瞬間、カァン!! という音と共にユーウェインの拳が吹き飛ばされた。



 (押し負けた……!?)



 ユーウェインは強靭な肉体を武器にしていたため、その体を持ってしても押し負けたことに驚きを隠せなかった。そんな驚きを見せている間に、雷風はユーウェインの両腕を根元から斬り落とし、攻撃手段を破壊した。ユーウェインは咄嗟に両腕を人間の腕として剣を持たせた状態で再生させ、攻撃に転じようとしていたが、雷風は居合の体勢に入っていた。



 「死ね」



 居合の体勢から放たれた斬撃は、ユーウェインの(コア)を的確に斬り落としていた。



 「……にしても、敵の本拠地で戦いすぎたか。流石にこれ以上の攻撃は不可能だな……」



 雷風は周囲の状況を判断し、フランスへ即時帰還した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「オリバー様、私以外の円卓の騎士が真祖によって殺されました」


 「そうか。アーサー、お前は向かわなくていい」


 「はっ」



 アーサーはその部屋を出る。すると、オリバーは巨大なモニターに映し出されたプロセスを見ていた。



 「神の意志、フェーズ3到達。後はこの戦争を順調に進めていくだけだが……、何がやりたいんだ。リーレ・スターベンと言う悪魔は……」



 その画面は、ネイソン・ブラッドレールが通じていた各国の作戦会議室の巨大なモニターに、神の意志のフェーズ進行状態が映し出されていた。それは、ネイソン・ブラッドレールのいる釧路の地下深くでも同じであった。



 「俺はただ、奴の指示に従うわけがないだろうが……」



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