148GF ストラスブール侵略作戦 その5
ダアトが全ての槍を防ぎきった時、慧彼は槍を防いでいるのに精一杯なダアトの左足に、密かに足元に生成していた槍を射出して突き刺した。それと同時に慧彼は槍を刀のように振り、鍔迫り合いの状況にした。
(マジかよ……!!)
ダアトはあの量の槍を生成、射出をしながらタイミングを見計らい、完全に油断したところに確実な一撃を放ったことに驚いていた。だが、弾いている内に自身の体に何かしらの害が時間差で攻撃するものではないと確信し、何かが変わるということはないため機動力が必要になるまでそのままにしておくことにした。
慧彼は鍔迫り合いになると、槍の柄の下の部分を斜め右前に振り上げて、更にそのまま槍を上へ押し上げることで、ダアトの持つ刀に強烈な衝撃を与えながら弾くことに成功した。
(この調子……)
慧彼はその場から斜め後ろに跳躍すると、自身の背後にワープホールのような黒の円形の空間を大量に生成し、そこから大量の槍を生成してダアトに向けて放つ。慧彼はその間に別の岩に着地した。
ダアトは目の前から襲ってくる大量の槍を、さっきと同じく全て弾いていく。何故なら、飛んでくる方向が全てダアトの体に命中するからだ。そんなもの1つでも当たれば、スピードから予測するに衝撃の影響を受け、体が後ろへ吹き飛ばされる。その間の無の時間に大量の攻撃を浴び、身体中串刺し状態にされて核周辺の防御力が低下して貫かれて殺される。その未来が予測できているため、当たるような真似は絶対にしない。だが、それでロストエネルギーが削られているのは事実。そして、隙を生む可能性が増えていることもまた事実。絶対に当たるわけにはいかないと、ダアトはこの槍の雨を受ける時には決めていた。
(当たるかよっ……!!)
慧彼は持っていた槍を投げ、射出している槍と同化させる。そして新たな槍を生成し、持つとすぐに戦闘態勢に入る。
(私がする1番のことは、攻撃しようとする隙を与えないこと。常に防戦一方にさせること)
槍の弾幕を貼ることでダアトの視界から自分の姿を消す慧彼。槍を飛ばしながらもクラウチングスタートの体勢に入り、体に残っているロストエネルギーを使用して足に集中させる。
(まあまあ残ってんじゃん)
ロストエネルギーを集中させた足で岩を蹴り、着地した岩を全て抉りながら走る。瞬きを許さない刹那の間に槍の射出をやめ、もう一度槍を投げる。ダアトは飛んできた全ての槍を捌き切り、最後に慧彼が投げた槍も一振で叩き落とした。
「やると思ったよ」
慧彼は刀を振り下ろした体勢になっているダアトの目の前まで近づき、下から鼻を膝で蹴った。膝をそのまま上げることでダアトの体が顔から持ち上がり、直立している時の顔の高さまで顔を持っていくことができた。
ダアトは慧彼に蹴られて無防備な状態になっていた。能力の性質上、ここから反撃することはできないため、慧彼の追撃をただ浴びるしかなかった。
(さっきの女より確実に強い……)
ダアトはそう思っているが、実際は慧彼より盾羽の方が総合値で言えば強い。雷風の中で慧彼は「手数で押す戦法なら勝てる確率がかなり高い。だが、能力的に後方支援に回ることが多く、近接戦の実戦を多くできていない」と評価しており、一方の盾羽は「近接戦も遠距離戦も火力勝負も手数で押す戦いもある程度できるため、全ての戦いでそこそこの活躍ができる。だが、どれかに特化していないため、トドメの一撃を与えれるほどの強さはない」と評価している。だが、ダアトにとって盾羽より慧彼の方が強く感じたのは、相性の問題である。手数で攻めることでダアトに攻撃の隙を与えない、ということができる。それに盾羽は気づき、慧彼にバトンタッチをした。
慧彼は逆立ちをして、肘と膝を曲げた状態で体からロストエネルギーを放出させた。放出させたロストエネルギーは体全体に纏わりつき、体を強化する。その状態で地面を押すように肘を、ダアトのみぞおちを蹴るように膝を伸ばした。同じタイミングだった。
ダアトは次の攻撃に備えようと体にロストエネルギーを纏って、隕石を10m程上に生成しようとした時には、慧彼が既にダアトの頭上にいた。足の甲でダアトの背中を蹴り、地面に叩きつけた。
(速い……!?)
ダアトは地面に叩きつけられると、その反動で体は宙に浮く。気づけばそこには慧彼が立っており、そこそこの威力でダアトの胸を蹴って体を慧彼の顔くらいの高さまで上げる。慧彼はダアトの顔に飛びながら回し蹴りを行い、大量にあったダアトの生成した岩に叩きつけられた。
「……痛ぇなぁ」
ダアトは地面に両足をつけると、刺さっていた槍を片足ごと切り落として体から切り離した。そして足を瞬時に再生し、慧彼を挑発する。
「それで攻撃は終わりか?」
慧彼はダアトの挑発を受け、前傾姿勢になったと共に槍を2本生成して、両手に1本ずつ持った。慧彼は槍を大量に生成し、ダアトに向けて発射しながら突撃する。
ダアトはこれまでの慧彼の攻撃を見てきて、ある程度慧彼の攻撃パターンを予測することができた。まず、槍を大量に生成して自分に向けて発射する。これは慧彼が離れると絶対に起こり、慧彼自身が攻撃できない際に使うことが多い。生成して発射しているということは、生成するにあたって槍の方向、槍の発射速度も調整できるため、移動しても対応される。よって、攻撃を防ぐ方法は槍の猛攻をひたすら防ぐ。次に、槍を使った攻撃。これはダアト自身の攻撃を防ぐことと、隙を作ったりする時に用いられる。そして、最後に打撃。恐らく核付近の防御力を低下させるために、強烈な一撃を各部に放っているのだろう。
ダアトは大量に迫る槍を刀で防ぎながら、真正面から攻撃してくる慧彼を見て口だけで笑った。慧彼が攻撃してこようとしていたため、先にダアトは刀を横に振り、1つ目の槍を防御に使用させることに成功した。
(威力強っ……!!)
慧彼が驚く暇はなく、ダアトは既に刀を振り上げていた。下から核を直接突こうとしていた槍を叩き落とし、一時的だが無防備な状態になった。慧彼は急いで槍を生成しようとするが、ダアトはその時既に地面を蹴って足裏で慧彼の胸を蹴り、岩に叩きつけようとしていた。
「吹っ飛べやァ!!」
ダアトは慧彼を岩に叩きつけようと蹴ると、慧彼の体は4つほど岩を貫通していた。5つ目の岩に叩きつけられた慧彼は岩から抜けようとするが、目と鼻の先には岩を突き破ってできた穴の縁を足場に、跳んで近づいてきたダアトがいた。慧彼の脇と腰の横に足をつけ、刀を慧彼の核めがけて突こうとしていた。慧彼は咄嗟にダアトの核を貫くように槍を生成し、それに気づいたダアトはすぐにその場を離れて地面に着地した。
(速い……。ちょっと侮ってたかな……)
慧彼も地面に着地すると、人差し指の先にロストエネルギーを集中させ、能力を発動したことでロストエネルギーを集中させてできたマルーン色の球が人差し指の先に生まれた。人差し指をダアトに向け、マルーン色の球をダアトに向けて発射する。
(何だ……!?)
ダアトは刀を振ってマルーン色の球を切断した。すると、マルーン色の球の残骸は消滅すると同時にダアトは1000℃を超える鉄の籠の中に閉じ込められた。その籠には所々に穴が空いており、巨大な鐘のような形をしていた。いや、金というよりかはドレスを着た女の人に近い。
「かつて、ヨーロッパには最低最悪の拷問器具が存在した。それは処刑道具にも使われたほどに。それは想像を絶する痛みと、炙られて苦しむ姿を隠すように、聖母マリアをイメージした外見としてデザインされた。その名は鉄の処女」
その籠に向けて巨大な槍を大量に生成し、一気に発射する。
「又の名を、『アイアン・メイデン』」
慧彼は下から灼熱の炎でダアトを炙った。
ダアトは、中で巨大な槍を紙一重で避けていた。そして、下からの炎を防ぐために隕石を足元に生成していた。
(熱すぎんだろおい……。とりあえず、ここから出ねぇと……)
ダアトは大きな隕石でアイアン・メイデンを突き破り、脱出することに成功した。慧彼はそれに気づき、脱出しようとしたダアトに向けて隕石ごと貫く程巨大な槍と、ダアトを貫く大量の槍を生成し、一斉に発射した。
(本気出したか……)
ダアトは隕石を足場にして跳び、持っていた刀で飛んでくる槍をひとつひとつ丁寧に叩き落としていく。
(……いない?)
アイアン・メイデンを発動した場所から、慧彼は離れていた。ダアトは着地し、アイアン・メイデンを見ていた。アイアン・メイデンは巨大な槍で串刺し状態になっており、その槍ごと灼熱の炎で燃えていた。
慧彼はそんなダアトの背後から、槍を振り下ろすように攻撃した。ダアトは攻撃される瞬間に察知し、刀を振って何とか止めた。
(時間か……)
ダアトは下から来る槍を、刀を振り下ろすことで防ぐと残ったロストエネルギーを全て使い、振り向いて逃げた。どうやら、マルクトからかけてもらった強化洗脳の効果が切れそうなのだとか。慧彼は消費したロストエネルギーが回復するロストエネルギー量より遥かに大きいため、追うことはしなかった。
「……にしても、新技当たんなかった。カッコつけたのに」




