139GF パリ臨時急襲戦 その8
すぐ横に来た剣を取って、そのまま横に振る盾羽。その攻撃を止めようと上から炎の剣を振り下ろすミカエルだが、逆の方向から風月が接近していることに気づいていた。
風月は、ミカエルの意識が一瞬盾羽に向いた瞬間に前傾姿勢になり、地面を強く蹴って走り距離を詰める。ミカエルは視線をこちらに向けるが、迷うことなく至近距離で虚数斬撃を放つ。
(この至近距離でそれを撃つか!?)
ミカエルは音と瞬間的に行ったロストエネルギーの探知によって、虚数斬撃を生成し、自身の周囲から自身に向けて放とうとしていることがわかった。もう1本の炎の剣を使って、自身に当たる直前の虚数斬撃を全て弾いていく。
(私の攻撃を弾きながら風月さんの能力を弾いている……。雷風君の時もそうなんですけど、多方向からの攻撃を同時に処理するのが、戦場では当たり前みたいになってるのでしょうか……?)
化け物との戦闘を重ね、「多方向同時攻撃並列処理能力を持つ者が普通なのか」と疑問に思う盾羽だったが、「並列する処理能力をパンクさせるほどの攻撃を重ねればいい」と考え、構わず攻撃を続けた。意外と盾羽は脳筋である。
風月はミカエルが上からの虚数斬撃を弾いた瞬間、下から斬り上げるような形で刀を振り上げてミカエルに直接攻撃した。ミカエルは炎の剣を横にして刀を防いだ。
(ここで終わる気なんて……、ない!!)
風月が横に振ろうと予備動作を行っている最中に、盾羽は左手に槍を持ってミカエルを突こうとしていた。ミカエルは意識を2人に向け、完全に防戦体制に入った。
風月は虚数斬撃を放ちながら刀で攻撃し、ミカエルを防戦一方にさせていた。盾羽も同じく生成した13本の近接武器を持ち替えながら攻撃し、1回の攻撃の対処法を毎回変えさせていた。そんな中、ミカエルはこの不利な状況からの脱出を考えていた。
(武器を変えてくる方は隙がありそうで全くない。あるならまだ刀の方……?)
ミカエルは1度風月の顔に向けて、炎の剣を横に振って攻撃する。それを上半身を反らして避けた風月は、バック転をして少し距離を取る。そこが好機だとミカエルは踏み、炎の斬撃を風月の着地予定地点に向けて飛ばす。だが、風月にとってはそれが決定打になる一撃になるとは全く思っていなかった。それを裏付ける決定的証拠を今、風月は生み出していた。着地予定地点に虚数斬撃を生成し、風月の体を上に押し上げる。
(斬撃で体を押し上げれるのなら、斬撃の派生系である虚数斬撃でも体は押し上げれる)
5mほど押し上げられた風月は、20発の斬撃を瞬時に放った。その斬撃のほとんどはミカエルに向けて飛ばし、4発はミカエルのいる地点の上に向けて飛ばした。
ミカエルは16発の斬撃を1回で避けるために、盾羽の攻撃を弾いた瞬間に翼をはためかし、上に飛んだ。その時、風月の方を向きながら炎の剣を振り上げるようにしながら飛翔し、飛んでくる斬撃を炎の剣で持ち上げ、そのまま振り上げて上に飛ばすような形で斬撃を弾き飛ばした。
(着地したな……。いや、まだ高さは足りないか)
ミカエルは500m地点まで飛翔し、大量の炎の球を生成して一斉に落下させた。その中には地面に着弾した瞬間爆発しそうな程巨大な炎の球も数発あり、盾羽は盾を大量に生成、風月は大量の虚数斬撃を生成し、それを一斉に空中で撃ち抜いた。巨大な炎の球は風月がそれぞれ斬撃を放って一刀両断した。炎の球は空中で見事に大きな爆発を起こし、空が一時的に見えなくなった。
(目眩し!?)
2人は同時にそう思い、急いでビルの屋上にまで飛んだ。
一方、ミカエルはラファエルと合流していた。
「そっちはどう? こっちは断罪者2人相手したけど、そこそこ強かった。連携もしてきたしかなり結束力は高いように見れた。結構楽しめたよ」
「私はあの巨人に殴られたり蹴られたりのオンパレードでしたね。相性もありますが、ボコボコにされました」
2人は情報共有をして、盾羽、風月、ポルトスから追撃が来る前にパリを後にした。
煙が晴れると、そこにミカエルの姿はなかった。盾羽と風月はミカエルを退けさせたことで戦った中で生まれた疲労感に一気に襲われ、その場に座り込んだ。
「あー、疲れた」
風月は疲れた声で盾羽にそう話しかける。
「流石にこれは疲れますよ。雷風君と戦うくらいしんどかったです」
「いや、雷風の場合はもっとやばいでしょ。6人がかりでも圧倒されたし」
「確かにそうですね」
疲労感で脳が回っていないのか、空の一点をただ眺めるだけの2人。その空に浮かぶ雲は薄暗く、パリ一帯を包んでいた。
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2018年10月2日、午前11時6分34秒。フランス、ノルマンディー地域上空にて。
パリを離れることに成功した2人は、空をそこそこの速さで飛びながらイギリスに帰っていた。疲れたのか、それとも気が抜けていたからなのか、気配探知はしていなく、体の回復にロストエネルギーを回していた。
「すんごく疲れた……」
「話してる内に2人共、防戦一方でしたし」
2人は空を飛びながらそう語る。ミカエルはふと地面を見るが、そこに人はいない。いるのは植物と多少の動物、そして無機物。
「どうしたんですか?」
「いや、何もないよ」
そう何気ない会話をする2人。左を向いて喋るラファエルは、ミカエルを心配している様子だったが、ミカエルは前を向きながら「気にしないでくれ」という顔をしながらそう言う。
(気にしろよ)
ラファエルの核は唐突に両断された。綺麗な断面をしており、それはまさに剣の達人が斬ったような、そんな断面だった。ミカエルは一瞬、自分の体の下を何かが通ったような、そんな風を感じた。すぐさま右を見てラファエルを見るが、そこにいたのは胸より下がない、瞳から光を失ったラファエルだった。手先は既に灰となり始めていた。
(何が起こった……!?)
すぐにロストエネルギーによる探知を行った。するとそこにはさっきまでいなかった、人型の形をした、ロストエネルギーを体内に持った1人の男がいた。さっきまで戦っていた盾羽、風月、雫よりも圧倒的にロストエネルギー量が多く、それを体内に留めて完全に制御している。そんな者は、ミカエルの思い浮かぶ中で1人しかいなかった。その呼称を、ミカエルは大きな声で叫ぶ。
「真祖がァァァァ!!」
雷風は着地すると、ミカエルの方を見た。ミカエルはその場で留まっており、雷風はミカエルのいる高さがかなり高いことから、2回も跳ぶのはできないと判断した。
ミカエルは雷風を殺そうと考えたが、戦っても今は確実に勝てないと考えて帰ることを最優先に考えた。
(次会った時は必ず殺す……。真祖!!)




