137GF パリ臨時急襲戦 その6
風月は冷淡な目から発する静かな殺意を、ミカエルに向けて放つ。刀を自分の前で横にして持ち、刃をミカエルに向ける。体からはロストエネルギーが激しく噴出し、長い金髪がそれに伴って靡いていた。
『暴風斬撃』
風月はそう口に発すると、体から噴出させたロストエネルギーに能力を込め、ロストエネルギーは風月が刀を使用することで生み出していた斬撃を媒体とすることなく、何も無いところから斬撃を形成していた。
無の斬撃から生み出したその斬撃を、風月は能力を込めたロストエネルギーを使用することによって生み出す。その斬撃は任意の方向に、任意のタイミング、任意の速度で発射することができ、変速までつけることができる、これまで飛ばしていた斬撃とは一線を画していた。その分、1発の斬撃に消費するロストエネルギー量が多くなっており、通常の斬撃とは違って、風月が放出するロストエネルギーの色である黄緑色になっている。それを風月は『虚数斬撃』と呼ぶ。『暴風斬撃』は風月がノリと適当で名付けた1つの技名に過ぎない。
虚数斬撃を放たれたミカエルは、それを即座に「避けなければならない危険なもの」と判断して初撃を避けた。
一瞬だけ後ろを見て、虚数斬撃が当たったところを確認する。コンクリートは一瞬にして抉れ、破片が20mまで上に飛ぶ。
(この色つきの斬撃……、破壊力やばいな……)
ミカエルは風月の体が降下していることに気づき、着地部分を狙おうと前傾姿勢になり、地面を強く蹴った。その時も目を逸らさずに風月を見て、狂気的な殺意を向け続けた。風月は虚数斬撃を放つことで、ミカエルの進路を変更させて時間を稼いだ。
ミカエルの予測した、風月の体が地面に着くまでの時間はおよそ2秒。それまでの間に、風月の着地予測地点にたどり着くことは余裕であった。だが、風月の発する虚数斬撃がノータイムかつ斬撃の動きが全然読めないため、中々近づくことができなかった。初めて見た時は発射した瞬間から、予め設定した動きから変更できないものだと思っていたが、ミカエルが急旋回したときも、虚数斬撃を攻撃しようとしたりすると、斬撃の動きが変化したりする。そのため、ミカエルは虚数斬撃を風月がリアルタイムで軌道を設定して飛ばしていると結論付けた。そうすると、風月の発生させている膨大な数の虚数斬撃をまとめて操作していることになるが、それは脳の並列処理能力に長けているかどうかの問題なため、ミカエルはそこについて考えなかった。
風月は地面に着地すると正面に50m程、離れているところにミカエルがいた。風月は刀を鞘にしまい、居合の体勢で着地していたためそのまま即座に、斜めに斬り上げるような形で抜刀した。能力を使って抜刀したことで、通常の斬撃をミカエルに向けて放った。その斬撃は前傾姿勢となっているミカエルの核に向けて飛ばしたものであったため、一時的に100%以上になっている状態の速度を失いたくないと考えたミカエルは、前傾姿勢のまま少し飛び、核より低めの腰に斬撃が飛ぶようにした。
(100%以上の速度を失いたくないとはいえ、100%以上の脚力を手放すのは少し痛いか……。まあ、一時的に襲うデメリットを無効化するんだから全然いいか……)
(隙を最小限に……!?)
風月は驚いていた。斬撃は見事に腰を斬ったが、前傾姿勢のまま飛んでいたため、地面との距離が短く、瞬時に再生したことにより再生した足は地面に着き、次の1歩を最速で踏めた。
「そのまま焼けろ!!」
「焼けるか!!」
ミカエルは拳に能力を発動したロストエネルギーを込め、風月に向けて振るう。炎の球は風月に向かって爆速で進む。それに対抗するように風月も縦に振り下ろすように能力を発動して空気を斬る。斬撃は炎の球に向かって飛び、炎の球と斬撃は衝突する。斬撃は炎の球を構成する核を斬り、炎の球が崩壊して爆発する。斬撃はそれに巻き込まれて消滅した。
空中で降下している盾羽は、ミカエルの頭上にいた。槍を生成した盾羽はそれを構えて下へ突き出す。ミカエルはそれに間一髪のところで気づき、炎の剣を生成して槍の剣先に炎の剣の剣先を当てて攻撃を無効化する。だが、盾羽にとってそれはフェイクでしかなかった。
(安全に着地し、場面を安定した状況に戻す方法は恐らくこれがベスト……)
槍を押した反発で自分が上に飛び、自分の前方に盾を生成して攻撃が来た時に防ぐ。盾羽が考えた「場面を安定した状況」とは、「ミカエルと十分な距離を取っている状況かつ風月と自分が無線無しでもちゃんと会話ができる距離にいる場面」であった。
「これからどうします?」
盾羽は風月に聞く。「風月さんは何かしらの策を隠している可能性がある。それを堂々と私の前で話せば向こうにも聞こえる可能性がある。だから言えない。なら、風月さんの策を軸とした作戦を練ることができる。そのためには風月さんがどう動くか……」と盾羽は考える。これにはしっかりとした理由がある。今回の戦闘で解禁した虚数斬撃に、通常の斬撃、この2つを駆使して連携して攻撃する連動攻撃があるのではと。前までのワンパターンの攻撃では限界があったが、2種類になったことで攻撃手段が格段に増えるのだ。
「じゃあさ、近接戦できる?」
風月は、「盾羽が近接戦闘をする武器を生成できるのなら、虚数斬撃と斬撃を入り組ませた不規則攻撃ができる」と考える。理由は説明する必要もなく、そのままである。
盾羽は風月が質問してきたことに、信頼しているため純粋に返答した。疑問を持つことなく、ただただ普通に。
「はい」
「じゃあ、私はちょこちょこ前入るかもだけど援護をするよ」
「わかりました。では、私軸の攻撃パターンでいいんですね?」
「そういうこと」
盾羽と風月はミカエルの方を見る。
「お話は終わり?」
ミカエルは2人にそう聞く。どうやら、話終わるまで待ってくれていたようだ。それでも数秒なため、2人がいるところに向かって普通に攻撃するのも少し躊躇うところだろう。
「ええ、終わりましたよ」
盾羽は話し終わったことをミカエルに告げる。すると、ミカエルは口角を上げながら質問をする。
「君達、名前は?」
風月は、盾羽と目を合わせて「言った方がいいのか?」と目で確認をする。盾羽は風月が目で訴える内容を察し、それを理解して頷く。
「鬼頭 風月」
「護神 盾羽」
ミカエルは口角を上げ、まるで興奮しているかのように声を高らかにして語りかける。
「私はミカエル。雫は風月の姉か? それとも妹か? どっち?」
「それ、言う必要ある?」
「聞かせてくれよ」
「はぁ……、妹」
風月はため息をつくほどに呆れながらも構えて戦闘態勢に入る。盾羽は風月を見て即座に構えて戦闘態勢に入る。ミカエルは首の骨を鳴らしながら、戦闘態勢に入る。
「じゃ、もっと楽しませてくれよ?」
「楽しんでくれたら嬉しいんですけどね……。死んでも知りませんよ?」
盾羽は軽くミカエルを煽る。だが、ミカエルには全く通じなかった。
「死ぬわけないでしょ。普通に考えて」




