134GF パリ臨時急襲戦 その3
ポルトスは歩きながら自身の体を圧縮し、密度を大きくする。ロストエネルギーはオーラのように体から溢れ出し、威圧を出してただでさえ大きい体を更に大きく見せる。それは、自身の気分の高揚をより大きなものにするための高揚剤にしか過ぎず、意味はなかった。
壁を見上げながら、大量に生成した水の球を剣状に変形させ、剣から溢れ出る程のロストエネルギーを自身の体から抽出した。それほどの力を使わない限り、あの大きく頑丈で凶暴な壁を打ち破ることはできない。そう感じたラファエルは、地に足をつけたまま翼をはためかせ、瞬きをする刹那の間の中でポルトスの目の前まで来ていた。ラファエルは強くコンクリートを踏み込み、斬撃を大量に生む。そのひとつひとつがポルトスの四肢の付け根、核、首、肘、膝と、かなり不規則に狙っていた。
(速くなってきている……)
だが、ポルトスはその斬撃たちを全て片手で受け止める。次から次とポルトスを襲う斬撃を、反射神経だけで受け止め、威力をうまく外に逃がして流している。
(……これならうまく隙が作れそう?)
ポルトスが反射神経だけで自分の攻撃を見切っていたことに気づいていたラファエルは、自分の攻撃に夢中になってそれ以上のことを考えられていないはず。
自分の体を使って、ポルトスの見えない自分の背後で水の剣を作るラファエル。その際に、少しずつ振っている剣からロストエネルギーを抜いていく。それは微々たる差であるため、ポルトスは気づくことなく受け流し続ける。
(ここだ!!)
水を完全に背後にある剣に移し、完全な剣の形に変形させるが、あえて先まで剣を持っていた左手はそのまま横に振る。ポルトスはそのフェイクに騙されて片手を出した。微かにだが隙を作ることができたラファエルは、その隙に付け入るかのように右手で剣を取り出し、上から振り下ろす。
(良い作戦だ。だが……)
「甘い!!」
残像が出るほどの速さで振り下ろされた一撃は、ポルトスの一言によって密度が最大にまでなった体に阻まれ、砕けた。自然と前傾姿勢になるラファエルを狙ったポルトスは、顔が来るポイントを予知して先に拳を出す。
(私では勝てないの……? この怪物には……)
目の前にあるのはポルトスの左拳。ロストエネルギーが込められていない純粋な拳なのだが、巨大な岩が迫ってくるような迫力。自分の無力さを痛感したラファエルは、顔に強烈な一撃を浴びた。
ラファエルは壁に叩きつけられ、少しだけだが戦意を喪失していた。戦いが始まった時のように、工夫を重ねてどうにか足掻こうとする姿勢は失われ、ただ使命を全うするだけのロボットのように。ポルトスは遠目でもそれは確認できていた。だから、ポルトスはラファエルの目の前まで移動し、哀れむような顔をした。
「哀れんでるんですか?」
ラファエルの質問を無視し、ただ哀れむように眺めるポルトス。ラファエルは目を瞑って全てを受けいれた。逆にそれが、ポルトスの怒りに火をつけた。
ポルトスは怒った顔をしたと思ったら、突然ラファエルの顔を掴んだ。顔を掴まれた瞬間にラファエルは目を開けた。何がなんだかわからない顔をして、一言。
「は?」
ラファエルの心の底から出た一言に、ポルトスは怒りながら反応する。だが、その一言にラファエルは苛立ちを一切感じなかった。
「は? じゃねぇよ」
ポルトスは右を見て、左足を大きく前に出して踏み込む。掴む手にかかる力が感情の昂りに応じて強くなる。血管が浮かび上がっていたその腕で、ラファエルを投げ飛ばした。
そして、ポルトスは投げ飛ばされているラファエルに向けて心に響くメッセージを力強く飛ばす。
「お前も全力で来いやァァァ!!!!」
その言葉は、ラファエルの心に深く刺さった。本気は出していたはず。なのに、何故この怪物に「全力を出せ」と言われたのか。恐らく、この怪物は無意識にかかっているリミッターを外してきた。それと同じく、私もそれはあり、そのリミッターを外せていない。
何かに気づいたラファエルは、地面に手をつき、受け身をとって着地すると共にロストエネルギーを自身の体に纏い、空気中にある水分を集め、高密度のロストエネルギーで形成した水の球を大量に生成した。その時、ラファエルはロストエネルギーではない、自分の体の中にある何かを掴んだ。
ふと、息を飲んだラファエルは、ポルトスの顔を見る。すると、さっきまで向けられていた哀れみの目は無くなっており、代わりに向けられていたのは歓喜の目だった。その歓喜はどこに向けた歓喜なのかはわからないが、ポルトスはようやくやる気になった。
「……わかりましたよ!! 全力でやりましょう!!」
ラファエルは全身に力を入れ、体内で生成されているロストエネルギーを、出せる限界まで身体の強化に回した。それと共に、水の球を形成しているロストエネルギーを更に高密度にする。ロストエネルギーの原子と原子の間に間がなくなるほどミチミチに、ギュウギュウに詰めたロストエネルギーは、操作できるギリギリの火力にまで上昇していた。
ポルトスはそんなラファエルの姿勢を見て、ふと全身を最高密度から7割の密度にした。それと共に核周辺にある体の密度を最高密度より高い密度に設定することができた。
(流石四大天使。ポテンシャルのレベルが違ぇ)
ラファエルは水の球をポルトスに向けて、自身が出せる最高速度で放つ。ポルトスは咄嗟に顔の前で腕をクロス状にしてガードするのだが、核周辺に向けて飛んだ水の球だけは弾かれ、そこ以外に向けて放たれた水の球は、ポルトスの体を貫通していた。




