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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第6章 仏独戦争
131/206

131GF ロンドン偵察作戦



 カーン強行戦が行われていたと同時に、イギリスに単独で潜入する霞の姿があった。ドーバー海峡から海面を歩いて潜入する霞の姿は、忍者を彷彿とさせるものだった。

 周りを見渡しながら、霞は呟きながら現状の確認をする。



 「周りには船もないし、能力でソナー発生させて調べてるけど、潜水艦の姿もない。まあ、人造人間に現代兵器は到底叶わないってのは敵もわかってるだろうし……。一応警戒はしてみたけど、予想通りか」



 霞はそう呟きながら、自分が今何をしているのか再確認をし、客観的に自分を見る。目を動かし、周りの景色を再び見て、自分がどんな状況になっているのか想像する。すると、霞の口からはこんな言葉が自然と零れた。



 「……忍者だ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ホワイト・クリフス・オブ・ドーヴァー。イギリスのケント州にあるドーバー海峡に面した白亜の崖のことであり、崖の上や近くの海には多くの観光客がその圧巻の崖を目に焼き付けたいために訪れる、有名な観光地となっている。

 イギリスのホワイト・クリフス・オブ・ドーヴァーが見えてきた。霞は走り出し、一気に110m程ある崖の上まで一気に跳んだ。



 (潜入成功)



 華麗に着地した霞は、何食わぬ顔でイギリスの都市部へと向かった。

 最初に向かった場所は、ホワイト・クリフス・オブ・ドーヴァーから1番近い都市、ドーヴァー。フランスと34kmしか距離がないため、イギリスの中で最も忙しい港とされている。また、海に面している町であるため、一般家屋の窓から顔をのぞかせると海が見え、海風を感じることができる観光に特化したロケーションである。

 キャリーケースを引き、ドーヴァーの景色を眺めながら街を歩く霞。元々霞はドーヴァーに来てみたかったため、サングラスをかけて「外国に観光に来た、海外にめちゃくちゃ慣れてる感」を出していた。



 (ドーヴァーのこの空気感、なんか好きだわぁ)



 海の風を直に浴びながら歩く霞は、坂道から海を見た。海は綺麗な青色に光っており、日本の住宅街では味わうことができない珍しい光景だった。

 霞はドーヴァーのレンタカー屋に向かった。それは霞が1度やってみたかった夢である、「オープンカーで海外の公道、高速道路を走ってみたい」というものを叶えるためだった。



 (意外に簡単に借りれるんだ……)



 霞は日本製の車とは違う左ハンドルには慣れているため、オープンカーの操作は楽勝だった。7月のネイソン絡みの時に買った車は左ハンドルであり、静かにあの後回収していた。

 霞はM20の高速道路に乗り、M57まで向かう。スマートフォンに入れていた曲をかけ、制限速度である時速70マイルギリギリのスピードで運転していた。ちなみに霞の好きな曲は1990〜2000年代のユーロビート曲である。どうやらその中でもラップが入り乱れている曲が良いらしく、疾走感を感じやすいのだとか。



 (海外独特の雰囲気があっていいね)



 そう思いながら、体全体で曲にノリながら高速道路を運転していた。オープンカーであるため、霞のひとつに縛っている長い髪を風が靡かせていた。

 M57の途中で、霞は高速道路を降りた。そこはマージーサイド州の中心都市、リヴァプールだった。ちなみに、リヴァプールは、雷風がケセドとコクマーを殺した場所であるケルンと姉妹都市である。

 リヴァプールにつくと、真っ先に霞はリヴァプール大聖堂に向かった。



 (確かリヴァプールには2つの大聖堂があったはず。ルーツは違うけど)



 そう、リヴァプールにはリヴァプール大聖堂とリヴァプールメトロポリタン大聖堂の2つの大聖堂が存在する。リヴァプール大聖堂はイングランド国教会の大聖堂であり、リヴァプールメトロポリタン大聖堂はローマ・カトリック教会のリヴァプール大司教区の大聖堂である。簡単に言うと「短い方の大聖堂がイギリス式のキリスト教の大聖堂、長い方の大聖堂がローマ式のキリスト教の大聖堂」というわけだ。

 何故霞はリヴァプール大聖堂に来たのか。何故先にリヴァプールメトロポリタン大聖堂に行かなかったのか。それは霞曰く「イギリスに来たんだったら、そりゃもうイギリス式でしょ」ということらしい。

 霞はリヴァプール大聖堂には入らず、リヴァプール大聖堂の前で通行した人造人間に写真を撮ってもらうだけであった。その理由は霞曰く「私の唯我論がそれを拒否するから」らしい。ペットか。

 現在、霞はリヴァプールの至って普通のレストランにいる。英語で注文し、店員はそれに応じて品物を出す。霞の注文したものはサンデーローストであり、口に入れるとこれまでのイギリス料理のイメージを一変させるほどに美味しかった。



 (美味っ)



 噛んで飲み込みながらも、顎が落ちるような感動を感じた霞は、美しいイギリスの文化が人造人間によって破壊されると思うと、心の底に怒りが生まれた。

 サンデーローストを食べ終えると、霞はお金を払って外に出る。近くの駐車場に停めていたオープンカーを出すと、今回の任務の再重要地点であるロンドンへ向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ロンドン。イギリスの首都であり、ヨーロッパ域内で最大の都市圏を形成している。本初子午線が引かれていたり、オリンピックが過去3度も行われたりなど、世界の中心として栄えた街である。

 霞はM25の高速道路で降り、ロンドンに入る。ロンドンのビッグ・ベンがあるウェストミンスター宮殿。そこに霞は目をつけていた。ウェストミンスター宮殿はテムズ川沿いに建てられている宮殿であり、英国議会が議事堂として使用している世界遺産である。だが、人造人間による統治によって議会が不要となった今、これまで立法の中心として稼働していた議事堂が本拠地となっているのではと、霞は考えていた。



 (車は……、ちゃんと置いてくか)



 駐車場に停めた霞は、本職としての目をしていた。一般家屋の屋根の上に跳び乗り、ウェストミンスター宮殿の場所を改めて把握した。近くにロンドン独特の赤いバスがあったため、その上に跳び移り、そのままウェストミンスター宮殿の屋根まで跳んだ。



 (ロストエネルギー使った探知しても、向こうが探知してなかったらこっちの存在はバレない)



 霞はロストエネルギーを使った探知を行い、ウェストミンスター宮殿の中にいる人造人間の数を把握した。正面玄関に数体、各部屋に3体ずつ、そして、廊下を巡回している人造人間が合計で30体。そして、ウェストミンスター宮殿の地下深くに17体の人造人間がいた。



 (そこが怪しいな)



 霞は自身の体を液状化させ、地下に続く水道へ入った。すると、霞の耳に衝撃的な言葉が聞こえてきた。



 「オリバー様。我らの存在に気づくのはそう遠くないと思われます」


 「ああ。それはわかっている。だからお前ら暗部には、イギリスに上陸する敵軍の殲滅を命令する。アーサー、お前は私につけ」


 「はっ」



 その言葉を聞いた瞬間、霞は屋根の上まで移動した。これ以上そこにいれば気づかれる可能性があったからだ。



 (オリバー……。オリバーでイギリス……。思いつくのはオリバー・クロムウェルしかいない。そしてアーサー……。オリバーが司令塔なのだとしたら、それ以外の16体は円卓の騎士か。けど、円卓の騎士は常に12人だったはず。歴代の円卓の騎士を全ているのだとしたら、16体なのは納得いく……)



 円卓の騎士。アーサー王伝説に出てくる、アーサーの近臣として強い忠誠と騎士道精神を持ち合わせた12人の騎士達のことである。

 霞は暗部、司令塔であるオリバーの存在、イギリス軍の本拠地がウェストミンスター宮殿であることを報告するため、フランスへ急いで帰国した。



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