124GF 四大天使と暗部
翌日、マルクトはイギリス首相であるオリバー・クロムウェルと対談していた。マルクトはかなり苛立っていたが、それを「全く知りませんよ」と言うかのようなスタンスで堂々と座るオリバー・クロムウェル。そんな一触即発の状態で、対談は進んでいた。
「昨日のケルンでの騒動ですが、あそこにいたのはあなたの国が作った人造人間です。そちらが何かしら動かしていたとすれば、それはこれまでの嫌がらせとは訳が違います」
「嫌がらせ? 酷いこと言うな。私達は元から君たちに協力してるじゃないか。実際、そうだろう? 君達に100万という大量の人造人間を渡し、それを実用ができるようにまでしてやったのに、それに対するものがこれかね? 音を仇で返さないでくれ」
煽るかのように言うオリバー。だが、マルクトは攻撃することができなかった。攻撃しようとすると、オリバーの近くにいる2人の人造人間が阻む。その上、その人造人間はセフィロトに匹敵する実力を持っており、マルクトが覚醒してようやく1体と互角に戦える、というぐらいだった。明らかに分が悪いため、マルクトは武力的介入はできなかった。
オリバーは更に、マルクトに言う。
「だいたい、私達は君達に世界最強の名を渡している。君達の軍が最強になれたのも私達が内政に関与したからじゃないか。そのおかげで軍部が成長し、半年も経たずして世界最強にのしあがれたんじゃないか」
「ですが、同盟関係にある関係上、人造人間の不具合だとしてもこれは甚大な被害です。これは深刻な問題です」
「まあ、気持ちはわかる。だが、私達の設計に問題があったという証拠はあるのか?」
証拠はなかった。だが、自分たちがそう起こすわけがない。マルクトはそう言いかけたが、言うと更にめんどくさい事になると思ったため、言葉にすることをやめた。
オリバーは、そんなマルクトを見て不敵な笑みを浮かべていた。その顔から見える目は、マルクトを嘲笑うかのような目だった。
その後ろで、めんどくさそうに立つ2人の人造人間。公表されているイギリスの軍である四大天使とは違い、背中に翼がない。だが、マルクトが見る限りセフィロトに匹敵するほど強い。だから、マルクトはその人造人間が何者なのかわからなかった。
(なんなんだこの人造人間は……? 俺達には姿を見せずに、ここまで実力をつけている……。イギリス側の隠し玉なのか? じゃあ、一応同盟国っていう認識はあるのか……)
この状況から色々考えると、マルクトはイギリスの立ち位置がどこなのか全くわからなかった。
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対談が終わり、マルクトがドイツ軍最高司令本部に帰ると、オリバーはイギリス軍最高司令本部にイギリス軍最高戦力である四大天使を集めていた。会議室に1人座るオリバー、机を挟んで机から5m程離れたところに4体の翼の生えた人造人間がいた。
「さっき、ドイツ軍のマルクトと対談してきた」
オリバーがそう口にすると、赤髪ショートヘア、背中にピンクの翼を生やした灼眼の女がオリバーに質問する。
「え? あの僭越とですか?」
マルクトのことを僭越と呼ぶその女は、イギリス軍第1実働部隊総隊長であるミカエルであった。少し驚きながら言うミカエルに、横にいる緑髪ロングヘアーでハーフアップ、背中に黄緑色の翼を生やした翠眼の女が呆れた顔で言う。
「ミカエル……。それさ、昨日言ってたよ」
「え、マジ?」
ミカエルがそう聞く相手の名は、イギリス軍第3実働部隊総隊長であるガブリエルであった。ガブリエルはミカエルの目を見つめ、頷きながら言う。
「マジ」
「話を戻す。あいつはケルンで起こった、通称「ケルン事変」のことを言っていた。作戦通りだったが、あの作戦で向こうはセフィロトを2体も失ったらしい」
その報告を聞いた時、青髪ボブヘアー、背中に水色の翼を生やした蒼眼の女が顎に手を置いた。そして下を向いて黙り込んで考え出す。その女の名は、イギリス軍第2実働部隊総隊長であるラファエルでだった。ケルンにいた人造人間の設計、そしてケルン事変の作戦実行者はラファエルであり、セフィロトを2人も倒せるほどの戦闘力が、暴走した人造人間にはないと思っていた。
「……それは本当の情報ですよね?」
「ああ。あの言い方的にマジだ」
すると、ラファエルの中でひとつの可能性が浮かび上がってきた。
「第三者による関与……。それが一番大きいかもしれません……」
「詳しく説明しろ」
オリバーはラファエルの推測をより明確なものにしたかったため、ラファエルにその推測を具体的に説明させた。ラファエルは冷静にそれを語る。
「暴走した人造人間の強さを、私とウリエルで何回か確認したんですよ。異常は特になかったですし、あってもセフィロトを倒せるほどの強さを手に入れられるほどではありません。しかも、セフィロトは覚醒コマンドを使って更に強化できるはずです。数が多かったにせよ、セフィロトがその程度でやられる訳がないんですよ」
実体験を元に話すラファエルの発言は、具体的かつ説得力のある発言だった。念の為に、オリバーはラファエルの発言の中に出てきたウリエルに事実がどうなのか聞く。
「ウリエル。それは本当か?」
すると、金髪肩甲骨くらいの髪の長さ、背中に黄色の翼を生やした、淡黄眼の女が答えた。その女の名は、イギリス軍実働第4部隊総隊長であるウリエルであった。
「はい」
頷きながら答えるウリエルを見て、オリバーは納得した。そして、オリバーは話題を変える。
「ミカエル、ラファエル。2人はフランスのパリに進軍してくれ。もし、道中で断罪者や三銃士と遭遇した場合は戦闘不能にしろ。絶対に殺すな」
「了解」
「了解」
ミカエルとラファエルはすぐにその場を離れ、フランスのパリへと向かった。
残ったガブリエルとウリエルは、ミカエルとラファエルに伝えた命令の意図を聞こうとその場に残った。
「なんで殺させないんですか?」
そう聞くガブリエルに、オリバーは悪そうな顔をして話し始める。その顔を見た瞬間、ガブリエルとウリエルはなんとなく察した。
「ドイツに対抗する勢力は少しでも残しておいた方がいい」
「相変わらず性格悪いですね」
ウリエルのその発言に対し、オリバーは笑った顔で「だろ?」と言う。その言葉を聞いた瞬間、全員がその場で笑っていた。
会議室の外で待つ2体の人造人間は、剣を1本ずつ持っていた。その剣は2つとも豪華な見た目をしており、両手剣と疑うほど大きかった。
「そのアロンダイト、調子はどうだ?」
「こっちはとても調子がいい。そっちのエクスカリバーはどうだ?」
「こっちか? とてもいいよ」
静かに談笑していた。




