119GF シャンベリー攻防戦 その5
気分が高揚していた白夜だったが、冷静さは欠いてなかった。そのため、これまで戦ってきた中で得られた情報を分析していた。
(分析するのは私らしくないけど、多分この人造人間達は本気じゃない。本気じゃないのに鬱陶しいあの炎の球飛ばしてくるやつ、あいつは今のうちに殺しておかないと面倒。少々無理してでも倒した方がいいか……?)
白夜は狙う相手を1人に絞り、体の力を抜いた。その瞬間、ケセドが白夜との距離を詰めようと地面を蹴り、爆風を起こして走った。さっきとは明らかに速度が違うのがわかった白夜だが、ケセドが攻撃のモーションに完全に入った瞬間に走り出し、ケセドの上を前宙しながら飛び越えた。
ケセドは自分の上を飛び越える白夜を視認することができず、勢いを殺しきれずに白夜のいたところまで移動してしまった。焦って後ろを振り向くと、そこには綺麗に着地し、走り出す白夜の姿があった。
(ボルテージを上げた……? まだ速くなんのかよあの断罪者!!)
ゲブラーは白夜を自分の有利な状況へ誘い込むため、白夜の周囲に上昇気流を発生させた。だが、ゲブラーは知らなかった。白夜の能力の真髄を。白夜の持つアトミックアニーに、上昇気流として発生した風が全て吸収されていく。
(風を吸収していく……!? あの光線は能力によって増強されたものではないのか!?)
ゲブラーは、目の前に迫る白夜の視線を見た。すると、明らかに自分を見ていないことに気づいた。自分の後ろにいる者はネツァク。つまり、白夜はネツァクしか見ていないことになる。それに気づいたゲブラーは、白夜の恐ろしい形相を見た後に息を飲み、一気に上へ飛んだ。
〔ネツァク、何としても意識をお前に向け続けろ〕
無線でネツァクに告げたゲブラーの声は、酷く焦っていた。だが、ネツァクはあえてゲブラーの指示に従うことにした。
ネツァクが前を見ると、恐ろしく速い速度で近づいてくる白夜の姿があった。ネツァクは炎の球を大量に放ち、少しでも減速させようとする。白夜はアトミックアニーを振って炎の球を的確に捌いていくのだが、全然減速しない。
(やるしかないか……)
ネツァクは右手にロストエネルギーを集中させ、能力によってそのロストエネルギーを炎へと変える。その姿に白夜は感化され、アトミックアニーを銃状に変え、背中にしまった。
「最高だなぁ!!」
その声と共に、白夜は右手にロストエネルギーを集中させながら右拳を振りかぶり、ネツァクに放った。それと共にネツァクも右拳を振りかぶり、白夜に放った。拳はぶつかり合い、2人は互いにのけぞりあった。
好機だと悟ったネツァクは白夜に近づき、再度右拳にロストエネルギーを集中させ、振りかぶって右拳を放つ。白夜はその攻撃に驚きながらも対応した。白夜はそれを往なし、無防備となったネツァクの腹を軽く蹴り上げた。その時、白夜の右拳にはロストエネルギーが集中しており、口だけが笑っていた。
「残念」
間髪なく顔面に浴びせられた強烈な一撃は、ネツァクの頭蓋骨を粉砕するほどであり、声も出せず吹き飛ばされた。
(一気にボルテージを上げた……。何%まで上げたんだこれ……)
ネツァクはかなり遠くまで吹き飛ばされたが、諦めなはしなかった。ネツァクは残っているロストエネルギーの大半を右拳に集中させ、能力を使って炎を生み出す。ゆっくりと構え、一気に正拳突きをする。炎は巨大な炎の球となって、とてつもない速さで白夜に向かう。
白夜はネツァクを吹き飛ばすと共に、ネツァクの方へ走っていた。すると、目の前から巨大な炎の球が向かってくる。
(面白いじゃん)
白夜は背中にしまってあったアトミックアニーを取り出し、双剣状に変形させた。そのアトミックアニーをX字にして炎の球を全力で受け止めた。
〔ナイスだ、ネツァク〕
炎の球を受け止めて斬った白夜を、ゲブラーは右脇腹を蹴った。突然の攻撃に対応できなかった白夜は、まんまとやられた。
〔こちらゲブラー、我々は撤退する〕
白夜が受け身を取り、再び戦闘体制に入った時には、既に3人の姿はなかった。およそ1分の戦いであり、シャンベリーに残ったのは慧彼、白夜、アラミスの3人だけであり、他はすべて殲滅されていた。
「……もうちょい戦いたかったんだけどなぁ」
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2時間後、ドイツ軍最高司令本部にて緊急会議が開かれていた。
「断罪者はどうだった」
マルクトは改めてケセド、ゲブラー、ネツァクの3人に聞く。目を合わせあって、ケセドから話すことになった。
「簡潔に言いますと、めちゃくちゃ強かったです。断罪者は本格的な訓練を受けていないはずなのに、なぜあれだけ強いのか……」
「ケセドの言う通り、あの断罪者はかなり強かったです。私の作った上昇気流を、所持していた剣が吸収していました。ですが、その剣は銃に変形し、通常ではありえない威力の光線を放っていました。恐らく能力を応用しているのだと思いのですが、全容は掴めませんでした」
「炎の球をことごとく斬って壊されましたね」
マルクトは、3人の発言を元に改めて作戦を組み直した。
「断罪者はそれまでに強いか……。そして、それを下に置く真祖は果てしなく強いな」
小声で呟きながら考えるマルクト。そして、ひとつの結論を出した。
「断罪者に対して、必ず2人で対処せよ。覚醒コマンドを使ってもいい。兵を吸収してもいい。遭遇したらできるだけ孤立させた上で殺せ。そして、真祖だと思った瞬間、本部に報告しろ」
「了解」
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一方、フランス側の会議室にて。
「これがアトミックアニーが撮ってくれてた映像なんだけど」
白夜はモニターにアトミックアニーで撮った映像を映す。それを見たダルタニャン達は、敵のおおまかな強さを測っていた。
「なるほどな。相手は最初、40%くらいで戦ってる。そして、最後くらいになると全員65%くらいの強さになってる。どうやら、向こうもお前の強さを測っていたようだな」
ダルタニャンは見終わるとそう言う。そしてダルタニャンは白夜の目を向き、質問した。
「何%で戦った?」
「アクセルモードなしの100%だったら80%。アクセルモードありの100%だったら25%」
冷静に返す白夜に、ダルタニャンは納得した。
「よし、それぞれ配置についてこい」
「了解」
現在、10月1日、午後2時17分。




