118GF シャンベリー攻防戦 その4
ケセドは地面を強く蹴り、爆発を使って白夜との距離を一気に詰めた。走りながら殴る予備動作を行い、白夜を殴ろうとする。だが、それを白夜は簡単に後ろに避けた。ケセドはその動作を見て、咄嗟に自分の右腕を爆発で分裂させ、爆風を利用して白夜の鳩尾に当てた。
(なにそれ……、そんなのあり?)
まさかの攻撃方法に驚いた白夜。そんな白夜は少し体を前に倒してしまった。その際、ケセドから目を離してしまったため、ケセドがどのような動きをするかわからなくなった。
ケセドは、白夜が少し体を前に倒したのを確認すると、瞬時に右腕を再生し、左手を握って拳を作った状態で白夜の鳩尾を殴り、白夜は殴られたことによって体が浮いた。ケセドは更に白夜の頭を、爆風を利用して殴った。
(ゲブラーには少し申し訳ないが、お前に追撃はさせん)
「俺が取る」
その時、ケセドの横を狂気に染ったような顔で高速で通るネツァクがいた。その時にケセドにかけた声は、いつもと同じトーンだった。
一方、白夜は吹き飛ばされていた。ケセドが殴った時に生まれたエネルギーはかなり大きく、500mは地面と平行に吹き飛ばされていた。地面に当たると、回転速度を上げて上に飛んだ。何とか綺麗に着地することに成功した白夜は、目の前で自身を殴ろうとしているネツァクを見上げた。
(もうそろそろ、真面目にやらないといけないかな……)
白夜は炎を纏って殴るネツァクの拳を、殴る最中にほんの一瞬に瞬きをしている間に避けて背後に立つ。その動きを捉えることができなかったネツァクは、地面に強烈な打撃を加えた。
(消えた!?)
ネツァクは咄嗟に背後を見る。その時には既に遅く、顔を握り潰され、回転をかけて上に投げられていた。
ネツァクは回転しながらも、真下に向けて巨大な炎の球を1発放った。だが、それを白夜は簡単に後ろに下がって避けた。
(相手の人造人間の方向をひとつに揃えたい……)
白夜はそう思ったため、自身にかかる重力を弱くし、全力で後ろに跳んだ。それと同時に自身にかかる空気抵抗をほぼゼロにすることで、擬似的な等速運動になっていた。
ある程度移動し、ケセドとゲブラー、ネツァクの3人のいる方向がひとつに揃った。そこで白夜は自身にかかる重力、空気抵抗を元に戻し、地面に着地した。
ネツァクとケセドは白夜の変則的な動きを見て、急いでゲブラーの元に戻った。
(さて、とりあえず私にとって理想的な状況が完成したわけだ)
150m程離れており、向こうは能力発動準備万端で待機している。普通はそれの対処が1番なのだろうが、慧彼とアラミスによる殲滅の手が回っていなかった。そのため、背後には白夜を襲おうとする雑魚兵や遊撃兵達がいた。それを見ずに理解した白夜は、背中にしまってあったアトミックアニーを取り出した。アトミックアニーのトリガーを引き、人造人間達を殲滅した。
「邪魔者はいなくなった。んじゃ、思う存分殺し合おう」
白夜は狂ったように目を大きく開けた。口角は不気味に上がり、視線はケセドに向いていた。ケセドは白夜がこちらを向くと、少し冷や汗をかいていた。
白夜がアトミックアニーを再び背中にしまうと、次の瞬間にはその場にいなかった。ケセドの目の前まで移動し、上から頭を伝って核を破壊しようとした。ケセドはその一瞬の間に対応し、間一髪のところで後ろに避けた。だが、白夜はそれすらも読んでいた。白夜は地面を殴ったと同時に肘を曲げることで運動エネルギーを地面に逃がし、肘を伸ばしながら地面を押し、重心を前に倒すことで綺麗なハンドスプリングを行った。
着地したところは、丁度後ろに避けている最中のケセドの目の前であり、「さっきはよくもやってくれたな」という恨みもあるのか、容赦なく白夜はケセドの鳩尾に蹴りを浴びせた。
吹き飛ばされているケセドは他所に、ネツァクは3発の炎の球を放っていた。ここで白夜は、炎の球に向かって走り出した。避けようとする素振りがなかったが、その代わりに違うことをしようとしていた。
(反撃の剣を掲げる……。ってね)
白夜は背中にしまっていたアトミックアニーを取り出し、双剣に変形させた。それで白夜は、炎の球を全て原型が無くなるまで切り裂いた。斬った炎の球は爆発するように膨張し、白夜の体を前に押しながら空気中に跡形もなく消えていく。目線は3人のいる方向を常に向いており、常に口角が上がった状態で襲ってくる。白夜は今、ゾーンに入っていた。
白夜が着地する場所、瞬間を計算し、ネツァクはその場所に複数の炎の球を放っていた。その横でゲブラーはドイツ軍最高司令本部に白夜の強さを報告していた。
〔こちらゲブラー。現在、断罪者の1人と交戦中。50%の力で交戦してるものの、相手の実力の底が中々掴めない状況にある。だが、これ以上の力を出して戦うと今後の先頭に支障をきたす可能性がある〕
ゲブラーがドイツ軍最高司令本部にそう告げると、マルクトは新たな命令を下した。
〔もう少しだけ65%までなら実力を出していい。それでも無理だったらすぐに撤退しろ。実力を図れた場合は、実力を図れた瞬間に撤退しろ〕
〔了解〕
ゲブラーは通信を切ると、白夜は大量の炎の球を切り裂いていた。ゲブラーは白夜からネツァクに視線を移すと、炎の球を効率よく大量に放っていた。拳を振る動作をなくし、炎の球の威力ではなく炎の球の多さを注力した放ち方だった。
「65%まで解放していいぞ」
ゲブラーはケセドとネツァクに密かにそう伝えると、ケセドとネツァクは自然と口角が上がった。ケセドは自然と気分が高揚していくのを、ゲブラーにロストエネルギーの放出量で伝える。それを見たゲブラーもまた、気分が高揚していた。
白夜は炎の球を全て切り裂いていくと、一発大きな球が飛んできた。それを一太刀で斬り上げると、右のアトミックアニーの刃を3人に向けて腰を落とした。
「これからってところかな……?」
3人の気分が高揚しているのに呼応したのか、白夜もまた、気分が高揚していた。共に目的は「相手の実力を図ること」だけなのに。




