107GF アナイアレーション
(基本的には反撃戦をイメージすればいい。あいつらがどう出るか、ちょっと楽しみだな)
雷風は慧彼達の動きを見て、次の攻撃を予測しようとした。だが、もう既に行動が始まっていた。
(あの時からどれほど成長したか、見せてあげる)
雷風の頭上と背後に無数の魔法円を展開した雫は、そこから光線を放った。頭上と背後と言うことは、最終的には上と下、後ろと前に光線が行くようになる。つまり、左右に避けるのが1番得策なのだ。雷風は左右に避けることが出来たのだが、あえて前進した。
(戦場で勝てる相手だとわかった時、俺は躊躇なく攻撃するだろう。その時、相手に与えれるプレッシャーがどれほどなのかっていうのがさっきわかった。俺の強さを知らない者に対してあそこまで与えれたということは、俺のことを知っている者には更にプレッシャーを与えられるということ。つまり、あいつらはよっぽどの作戦を考えていない限り不可能。だが、盾羽はそれを見越した上で作戦を練っているはず。……作戦には乗ってやる。だが、それによって起こる結果だけは変わっていることを忘れるな)
走っている最中に軽く跳びながら180度回転、後ろから迫ってくる光線を刀を振って上方向へ逸らした。そして空中でまた180度回転し、着地すると同時に再び走り出した。
(前に交戦した時より出力が上がってるな。これが成長ってやつか)
「ちょっとは成長してるみたいだな」
雷風が雫の目の前まで近づいた時、雫は雷風との間にある僅かな隙間に魔法円を何重にも展開し、雫の動きを一時的にだが見えないようにした。
(この至近距離で生成するってことは、撃つつもりはない。ってことは、視界を封じるつもりか)
何重にも展開された魔法円を刀で斬ると、その奥にはアトミックアニーを剣状に変形させて、スタンディングスタートに似た体勢をしている白夜がいた。どうやら雫は、あの一瞬の間に移動したようだ。
「狂気に満ち溢れてんじゃん。雷風」
「お前が言うか」
すると、2人は同時に言葉を放った。
「アクセルモード、突入」
「大和、駆動」
2人はアクセルモードに入り、アナイアレーション状態となった。白夜のアトミックアニーは剣状になっていたため、全力で走って雷風との距離を詰めた。だが、それを無に返すように雷風は上に跳んだ。
「ちょこまか逃げないでよ」
白夜は上へ跳んだ雷風の方を見て言う。それに対し、雷風は白夜の方を見ずに言い返した。
「すまんな。これが俺の戦闘スタイルだ」
(ムカつく……)
白夜は少しイラついた。だが、この状況で感情に任せて行動するほど馬鹿ではない。イラつきを押し殺し、平静を保った。
白夜は雷風を追うように上へ跳んだが、そのタイミングを見計らったように、雷風が自分の体が回転するように天井を蹴り、白夜の左脇腹を右足で蹴った。
(何その動き……)
白夜は雷風の動きの原理を理解する間もなく、地面に叩きつけられた。叩きつけられた後にその動きの原理を理解し、身体能力の高さに驚いた。
(してやられた……。判断力もすごいけど、それを実現できる身体能力が一番ヤバイ……。初めて会った時に思った「化け物」っていう感想は間違ってなかった……)
影で雷風を表す表現を、白夜は幾つも考えていた。怪物、畏怖の結晶体、平和の脅威、近代兵器など、人につけるべきではない呼び名を色々と考えたのだが、結局は「化け物」としか表せなかった。
白夜は立ち上がって雷風の方を見ると、何事も無かったかのような顔をして立っていた。蔑んでいる顔でもなく、戦いへの渇望に満ち溢れている顔でもない。まさに、それは無表情というものである。
「早く来いよ」
「言われなくてもする……」
白夜は剣を強く持ち、言葉を強くすると同時に地面を強く蹴った。
「よ!!」
白夜の射程圏内に雷風が入ると、白夜は雷風の核めがけて、左から右へ剣を思いっきり振った。だが、それは雷風によって簡単に止められた。
(多少は成長してることがわかった。だが、これじゃ俺に勝つことどころか、ドイツ軍の最高戦力であるセフィロトとまともに戦うことはできなさそうだな。こっちの方が数が少ない上に、戦力が1人も相手できない程度では負けが確定してしまう。残り僅かな時間で急成長させるしかないか……)
雷風は受け止めていた刀を、90度回転させた状態から白夜の体ごと少し上へ押し上げた。急に押し上げられた白夜は対処する間もなく、雷風の蹴りを腹に直接喰らった。それによって白夜は壁に叩きつけられ、立ち上がるとそこには既に雷風がいた。雷風の持っている刀の先端が、白夜の核に触れるギリギリのところで止まっていた。
「お前は間違いなく成長してると思う。それに、アトミックアニーに頼ってないところも評価する。アトミックアニーが暴走する場合も考慮した場合、もっと強さが欲しいと思ったところだ。ちなみに、今回の戦争ではお前は戦力外通告を受けるだろう。このままだったらお前ら全員だ。そのための訓練は後で言うが、覚悟はしておけ」
雷風は白夜に警告を行った。それに対して白夜は、何が何だかわからない状態だった。とりあえず返事はしようと思った白夜は、その精神状態を表したような返事をした。
「あ、うん……」
「観客席に戻ってろ」
雷風は刀を白夜から離し、アナイアレーションを解除した。
「さて、どうする?」
雷風は首を傾げて、慧彼達に向けて言った。その1つの動作だけで、桁違いの威圧感、恐怖感、そして何よりも、言語化不可能の異質感を放った。所謂、ゾッとさせたということだ。もちろん慧彼達にもそれはあてはまっており、雷風に対してゾッとした。




