106GF 交戦終了
2人は地面を強く踏み込み、走った。だが、圧倒的に速さが違った。アラミスが一方を踏み出そうとしている間には既に、雷風はアラミスのすぐ横にまで移動していた。
「すまん、リミッター外しすぎた」
「え……」
「よっ」
雷風はアラミスの腹部を殴り、ダルタニャン達のいる観客席の壁に叩きつけた。壁にはいかにも壊れそうな程ヒビが入り、小さい瓦礫が宙を舞っていた。アラミスは立ち上がると、刀に似た片刃の剣を雷風の顔を向けて言った。
「何故、この戦争に参加しようと思ったんですか?」
アラミスの質問に対して、雷風は即答した。
「ネイソンが掲げた理想っていうのを、俺は真っ向からぶっ壊す。真祖が人造人間の王に立って、人造人間を束ねるとか柄じゃねぇ。それに、奴らは俺を殺そうとしているっぽいしな。そんな奴らを従えれるかってな。だから俺は、奴らを殺す。ってことだ。わかったか?」
「つまり、ネイソンという者の思っていた未来とは違う未来を作るため。それと、ドイツ側はあなたを殺そうとしている。だから参加した。ということですか」
「要約したらそういうことになる。わかってくれたか?」
「まあ……、理由付けにしては十分ですね。わかりました」
「で、それを聞いて何がしたい」
「時間稼ぎです」
アラミスは雷風の話を聞き、それをまとめている間に罠を張り巡らしていた。ベルシー・アレナ中にはロストエネルギーで形成された無数の光の筒。雷風はそれを見た時、不敵な笑みを浮かべた。
(それくらいしてもらわねぇとな)
アラミスは光の筒の上に乗り、超高速移動を開始した。雷風の周囲を超高速で移動することにより、どこから攻撃するのかわからなくさせていた。
「これくらい、あなたにとってはハンデのうちに入るのでしょう? その圧倒的な反応速度。避けられるはずです」
「ああ、そうだろうな。俺もこれはよくわかってないが、お前らの能力よりかは優先して発動するはずだ」
雷風は、アラミスの動きを捕捉できていた。どれだけ速いと言っても、光の速度には既に到達しているため、3桁程の速度しか足せない。対抗する術はいくらでもある。
アラミスは、雷風が自分の動きを捕捉していることがわかっていた。だが、自分にできることは最大限しようと決めている。つまり、アラミスにそれを止める気などなかった。
(移動しながら斬撃を大量に浴びせる……。……それだ)
アラミスは雷風と急接近するタイミングで、雷風に向けて剣を振った。それを雷風は顔色一つ変えずに全て刀で止め、余裕を見せていた。
「んじゃ、茶番も終わりにするか」
アラミスが雷風の正面に来た時、とてつもない速さでアラミスの腹を蹴った。そのインパクトは体内の中心部にまで響き、光の筒から離れたアラミスは、能力を維持する力を解いてしまった。
(やばっ……)
壁に叩きつけられたアラミスは、目の前に雷風がいたことで負けを確信した。いや、負けが決定したと表した方がいいのだろうか。それに、気がつくと通常速度に戻っていた。
「……降」
アラミスが何か言いかけた時、ベルシー・アレナの天井を突き破られた。そして、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「待て、鬼頭 雷風。まだ終わったわけではない。蹴り飛ばされた借りは、ちゃんと返してもらう」
「そうか……」
振り向くと、そこにはポルトスがいた。直線距離でおよそ380km。その距離をおよそ1から2分程度で走ってきたのだ。その脚力には驚いたが、自分には勝てないとはもうわかっているため、強気に出た。
「もう1回ぶっ飛ばしてやるよ」
「そうか」
「手短に終わらせそうか」
ポルトスは地面を踏み、巨大な瓦礫を大量に生成した。踏んだところには巨大なクレーターが生まれ、雷風を驚かせた。
(踏んだだけでこのでかさのクレーター……。結構強化したな)
後ろに下がって様子を見るのが鉄則だが、あえて雷風は前進してみた。ポルトスは対峙する時、ポルトスは自分から予想外の動きを見せることで、相手のペースを乱すという戦闘スタイルを取っているのだが、相手が自分のペースを乱した場合、本来の戦闘能力を発揮できないのではと雷風は考えた。
(前に来た!? ……だが、その程度は予測できている!!)
ポルトスはお構い無しに雷風に向けて拳を放った。だが、雷風は近くにあった瓦礫に隠れた。ポルトスは思った。「避ける必要があったのだろうか」と。それとも、「何かしら改めて戦略を立てているのか」と。
雷風は瓦礫の後ろからポルトスの様子を見ていた。俺の動きを予測している? そうだったら俺にとっては好都合。雷風は隠れていた瓦礫を、ポルトスの顔に向けて蹴り飛ばした。
(なるほど。視界を奪って攻撃してくる……。なら下か!!)
「正面だ」
ポルトスが拳で壊した瓦礫の後ろから、雷風が現れた。予期せぬところから急接近されたポルトスは、一瞬体が止まった。
「それがお前の弱みか」
ポルトスの顔に直接蹴りを入れた雷風は、仰向けに転倒させた。その間は一瞬よりも短い刹那の時であり、何が起こったのか見ることすらできなかった。
「これで終わりだな」
雷風はポルトスの腹の上で立ち、目を見て言った。
「……降参する」
ポルトスは素直に負けを認め、決着がついた。
だが、雷風がこの戦闘だけでは満足できなかった。雷風の視線が客席にいる慧彼達に向く。それを既にわかっていたかのようにポーカーをやめて、トランプも綺麗に直して戦闘準備に入っていた。無論、盾羽も同じである。
「準備が早いな」
「まあね。先に言われてたし」
「じゃ、お前らがどれくらい成長したか、試してやるよ」
三銃士の3人をダルタニャンの側まで運ぶと、全員が戦闘態勢に入った。




