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断罪せし暗殺者  作者: ひょうすい
第6章 仏独戦争
105/206

105GF 核融合反応



 雷風は視界の正面に、両手に剣を携えて全力で走ってくるアトスの姿があった。その顔は自信に満ち溢れていながらも、緊張感がまだ残っているような顔だった。俺に対して全力で立ち向かう覚悟ができた顔に見える。だが、覚悟だけでは全て解決できることはない。全てわかっている。だから雷風は、アトスの心を込めた全力の攻撃には全力で返そうとした。だが、本当に全力で返してしまえば、アトスを殺してしまうかもしれない。気の毒だったが、雷風は1割5分で留めた。

 アトスは顔の前にX字を描くように刀身を配置し、雷風に接近すると同時に剣を振った。雷風はそれを刀で受け止めた。その瞬間、アトスの持っている剣に違和感を感じた。



 (この感触……、何かおかしい)



 アトスの持っている剣から、とてつもない程の熱波が放たれていた。それの正体が何かわからずにいたが、熱波がまるで炎のようだったために、アトスが突進した勢いを殺さずに左へ受け流した。雷風は受け流している最中も、アトスに背中を向けないようにした。



 (剣に熱を纏わせている。というよりかは見えない炎だな。見えない炎は結構熱かった。多分楓でも溶けるくらいには。けど、あの剣は溶けるどころか硬度を維持していた。……ってことは、あれは奴によって生み出されたもの。そして、見えない炎も奴によって生み出されたもの。つまり、奴は剣と見えない炎を同時に生成できる能力を持っている……。……そんな能力あんのかよ……)



 雷風はとても気になってしまったため、戦闘中だが聞くことにした。



 「おい。アトスだったか?」


 「そうだ。それがなんだ」



 アトスは警戒しながらも、雷風の質問に対して正直に答えた。だが、アトスは内心驚いていた。急に質問が来たため、少し戸惑ってしまっていた。

 アトスが返答したことで、会話する気があるのだと思った。そのため、雷風はすぐに本題に入った。



 「お前は複数能力者か?」



 複数能力者。文字通りで、複数の能力を所持している人造人間のことを、雷風が雑に決めた仮称である。アトスは雷風の言っていることを瞬時に理解し、即座に否定した。



 「違う。俺は1つしか能力を持っていない」


 「そ、そうか……」



 あまりにもきっぱり言い切られたため、雷風はこれ以上質問をするのに少し抵抗を持った。そして、少し心に傷が負った気がした。所謂、精神的ダメージというやつだ。

 一方、アラミスは攻撃する隙を伺っていた。雷風は隙を見せているようで、意図してそこを隙として見せているだけなのである。つまりは罠だ。それが罠だと知っておきながら、わざわざそれに引っかかるほど私はお人好しじゃない。だから、それ以外の隙をアトスが作ってくれるはず。……作ってくれないと負ける。

 雷風は、アトスが1つしか能力を持っていないことを知った時、どういう理論で剣を生成し、見えない炎を纏わせているのか疑問を持った。どんな能力を持っていたら、性質の全く違う2つのものを同時に生成することができるのか。そこで雷風は、2つの能力を候補として挙げた。

 1つ目は想像の能力だ。創造の能力ならば、剣と見えない炎を同時に生成することができる。しかし、創造の能力だとしても、それに見合うだけのロストエネルギーを消費するはずだ。生成するのにも、付与(エンチャント)しているため見えない炎を維持するのにも。それは膨大なロストエネルギー量を使用することが推察され、通常の人造人間では10秒も持たない。だが、アトスは余裕そうに見えない炎を維持している。それがいったい何なのかによるが、創造の能力ではないことがわかる。

 2つ目は錬金の能力だ。錬金の能力ならば、別の形に変えることで剣を模造し、錬金の際に熱が出るのであれば、見えない炎の能力の正体が余熱ということがわかる。だが、それも違う。錬金というものは、形を変えるだけなのである。元素レベルで干渉など、核融合反応を起こさない限り不可能なことであり、何かを使っている形跡もない。更に、見えない炎は余熱というものとは少し違っており、見えない炎が直接剣に付与(エンチャント)されているのである。これらにより、錬金の能力ではないことがわかる。



 (……じゃあいったい、なんなんだ?)



 そこで雷風は、もし元素レベルで干渉できる。つまりは核融合反応ができる系統の能力だったら? と思った。核融合反応と言われて最初に思い浮かぶものは、そう、太陽である。



 (……そうか!! そういうことか!! 見えない炎の正体はプロミネンスだっていうことか。そして元素レベルの干渉を行うことで水素から剣を生成できる元素まで一気に核融合反応。足りない熱は太陽自身で補えばいいってことか……)


 「……なるほどな。だいたいわかった」



 急に雷風が発言したため、アトスは「頭おかしくなったか?」と思った。それもそのはず。アトスからすれば、即座に返答した2秒後に「なるほどな。だいたいわかった」と、意味がわからないことを言っているのだ。仕方のないことだろう。



 (よくわからんが、奴は俺たちの何かが分かったらしい。全てがバレてるって思って戦うしかないか……。……無理だろそんなもん)


 「気分が晴れた。今、俺は肩が軽いんだ。だから今、すんごい調子がいい。そっちから来ねぇなら、こっちから行くぞ」



 雷風は今、気分が高揚していた。気分が高揚するにつれてリミッターがどんどん外されていき、5割にまで上昇していた。その状態で、正面からアトスの目の前まで一瞬で走った。



 (あ、やべっ……。これ死ぬやつだ……)



 雷風が目の前に現れた瞬間に、下から上へ斬り上げるように右の剣を振ったのだが、雷風に届くことはなく、目の前からすぐに姿を消した。そして、アトスの持っていた剣が2本とも、雑に折られていた。アトスは右の剣を確認した後、左の剣を確認した。だが、もう遅かった。



 「遅ぇんだよ」



 雷風の声が聞こえたと思ったその時、既にアトスは壁に叩きつけられていた。壁に叩きつけられたと感じた瞬間に「ドォォォォォン!!」という轟音が鳴り響き、アトスは理解する時間なく気絶した。

 雷風は空中で、アトスの左脇腹に回し蹴りを容赦なく喰らわせていた。回転の勢いを利用し、アラミスのいる方向を向いて着地した雷風は、アラミスの対抗策を起動した。昨日、刀に取り付けていた「ある装置」を。



 「大和、駆動」



 すると、刀身にエメラルドグリーンのロストエネルギーの線が模様のように走り、奇妙な模様を形成するとそのロストエネルギーは停滞し、一気に刀に機械色がついた。



 「第2段階、アナイアレーション、突入」



 アラミスは危機を感じたのか、自身にロストエネルギーで作った膜を覆い、その膜に能力を発動することで、アラミスの体内にある全てのロストエネルギーと共鳴して能力が発動し、自分の体全体に光の速さを導入させた。つまり、思考時間までが光の速さにまで達しているため、擬似的にだがアナイアレーションと同じような状態になるのだ。



 「何故、この状況になるまでその能力を隠匿していたんですか?」



 アラミスは、目の前で雷風が普通に動いていることに驚きながらも、物怖じすることなく質問をしてみた。正直、アラミスは答えてくれないと思っていた。ここまでこの能力を隠匿したということは、誰にも話したくない秘密というものに該当しているかもしれないと思ったからだ。だが、予想とは違い、雷風は質問に答えてくれた。



 「こんな圧倒的な能力でお前らを蹂躙したら、戦闘を楽しめねぇだろ? それに俺は、ギリギリで戦いたい。まあさっき、結構リミッター外してしまったけどな」



 実に簡単な答えだった。だが、理由にしては十分すぎた。アラミスは納得し、戦闘態勢に入った。



 「お前からしたら残念かもしれんが、俺は今気分がいい。ぶっ飛ばされる覚悟はしとけよ?」


 「元からその覚悟ですよ」



 互いに足を踏み出した時、雷風とアラミスしか知ることができない、虚無の戦いが始まった。



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