104GF 『太陽』の真骨頂
(これ……、どうやって攻略する……?)
雷風は考えた。アラミスの閃光、1番の脅威はその圧倒的なスピードである。雷風はそのスピードしか把握していないものの、まだ見せていない能力がまだ残っているかもしれないと思うと、雷風に対してよっぽどの脅威となっている。
アトスはほとんど再生を終えていた。アラミスに対して明らかに警戒している雷風を見て、好機だと思った。だが、まだ左手が再生を終えていない。アトスは再生途中の左手を見た。
(くそ……、すぐに再生しねぇか……?)
アトスは左手に力を入れ、ロストエネルギーを左手に多く回した。すると、左手がみるみるうちに再生していく。すぐに再生し終わったアトスは、影を潜めるように端の方へ静かに向かい、策を練ることにした。
(鬼頭 雷風……、だったか……。奴の剣筋は見ることができなかった……。頭を先に再生させたからわかるが、奴はアラミスの初見殺しに対応していた……。普通なら確実に対応できない攻撃なはずだ……。まさか、直線移動しかできないという弱点を一瞬で見破った? いや、初見でそんなことはできないはずだ。じゃあ、どうやったら避けられるんだ? そうか……。もし、それが真祖の力なのだとしたら納得がいく……。危機察知能力……、それが真祖の能力?)
アトスは、どうすればアラミスの攻撃を雷風が避けたのかを考えていた。真祖の力のひとつだということは確信していたものの、それがあの強さと結びつくわけではない。真祖は何か、隠された別の能力を持っているのではないかと思った。
(別の能力があるとするならば、ポルトスの上位互換的なものか。それともロストエネルギーの上位互換的なものが搭載されて、それが体内で自動生成されるように設定されているか……。そういうことだよな……)
アトスは考えていくうちに、幾千もの考え方があることに気づいた。それに気づいたアトスは、一旦考えることをやめた。
(後で奴に追求すればいいだけだ……。今は俺の出せる全力を出すだけだ……)
だが、アトスには剣が無かった。雷風の斬撃は刀ごと斬っていたため、戦闘を続行することができない状態に陥っていた。自身の能力である太陽は、ベルシー・アレナを一瞬で溶かすほどの超高温を常時発する小型の恒星、超新星を出現させる能力なのだが、それを近接戦闘でどう活かせばいいのかわからなかった。
(太陽の特徴……、太陽の特徴……)
太陽の特徴であれば超新星で再現できるのだが、太陽の特徴、または恒星の特徴が当てはまらなければ超新星に組み込むことはできない。そのため、太陽や恒星の正しい知識を頭に詰め込んでおかなければならない。
アトスは考えた。膠着状態となっている今の間に、どうにか思い浮かばないかと頭をフル回転させた。すると、頭にひとつの言葉が朧気に浮かんできた。
(プロミネンス……)
プロミネンス。太陽コロナの低部に浮かぶ雲のようなガス体。別名は紅炎。皆既日食時に太陽を隠す黒い月の周囲に現れる、赤い炎のような光のことでもある。炎の主成分である水素原子が、波長656.3nmの輝線を強く反射しているため、プロミネンスは赤く見える。数週間同じ形を保つ静穏型と、数時間で形を変える活動型とに大別されている。太陽の表面を、ある波長の赤い色だけを通す特殊なフィルターで見なければ、直接プロミネンスを見ることはできない。
アトスはこれに注目した。幸い、自身の能力で体が消滅することはない。そのため、体内に超新星を生成し、そこから静穏型のプロミネンスを出していればいい。だが、それにも問題はあった。それは、実体がないということだ。火天の場合、炎そのものを操れるため、炎を形あるものとして温度を下げることで固体にし、剣に代用できていた。だがアトスの場合、炎を操るわけではない。あくまで、プロミネンスを発することができる超新星を生成できるだけだ。アトスはそれに悩んでいたのだ。
(実体がなければ、俺の剣術は用を成さない。じゃあどうすればいい? 恒星は全てガス体の集合体だから実体は無い……。……そうか。核融合反応を応用すればいい……)
核融合反応。軽い原子核同士が融合し、より重い原子核となることを言う。それを繰り返し行っていくことで、水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウムと、元素番号の順番で変化していくことが理論的は行える。それがもし本当に行えるとするならば、現在判明している最後の元素記号であるオガネゾンまで理論上は可能なのだ。普通ならとても歳月がかかる作業なのだ。だが、アトスの超新星は過程を全てスキップする事ができる。
アトスは早速、ロストエネルギーを大量に帯びさせた超新星を生成し、架空の元素であるフォルティス(Fo)を生成した。その元素を組み合わせ、アトスはフォルティスを材料にした両刃の片手剣を2本生成した。
(自身には能力が効かない……。……ってことは、自分が出したこの剣にプロミネンスを付与大丈夫……、なはず……)
アトスは両方の剣にプロミネンスを付与し、見た目は普通なのに超高温になっているとても頑丈な剣が完成した。
(これである程度戦えるはず……。まあ、初見殺しだが……)
アトスは少し自信がつき、雷風に向かって歩き出した。その顔は自信で満ち溢れており、歴戦の猛者のような歩き方をしていた。
「おい、鬼頭 雷風」
アトスの呼び声に、雷風は反応した。
「どうした」
雷風がアトスの方を向くと、アトスは雷風に向かって走り出した。容赦なく襲いかかる姿は、それほど雷風を強敵だと見なしていた証拠でもあった。それを受け取った雷風は、誠心誠意戦うことにした。
(まあ、1割5分くらいは出してやるか)
雷風は、少しだがリミッターを解除した。その瞬間、体からロストエネルギーが少し溢れ出た。
観客席から見ていた盾羽は、雷風の体からロストエネルギーが少し溢れ出たことに違和感を持っていた。
(今の……)
盾羽はダルタニャンの顔を見ると、気づいていないかのように観戦していた。アトスが動き出したことに対してかなりの喜びを感じており、周りに目を配る暇がなかった。
「あの……、ダルタニャンさん?」
「あ、おう。どうした?」
ダルタニャンは盾羽の呼びかけが聞こえた気がしたため、適当に返事してみた。盾羽は聞いていないだろうと察しながらも、話を続けてみた。
「雷風君の体から、ロストエネルギーが少し溢れ出ていたんですよ」
「……は?」
「は?」の声と同時に盾羽の方を見たダルタニャンは、とても困惑していた。そして、何か知っているかのような感じだった。
「まさか、あれでまだ実力を抑えてるのか……。……で、どのくらい溢れ出ていた?」
「とても少量です。そして、少し溢れすぎたロストエネルギーを体内に戻しています」
盾羽の発言を聞いた時、ダルタニャンの顔は徐々に青ざめていった。ポルトスを殴り飛ばした時でさえ、全然力を解放していないのかと。真祖の力を改めて思い知らされたダルタニャンは、この戦況がかなり不利なことに気づいた。
(待て、まだまだ余力を残している状態でアトスを瞬殺し、ポルトスを吹き飛ばし、アラミスの初見殺し攻撃を躱した……。しかもあの顔、鬼頭 雷風はまだ何か奥の手があるような顔をしている……。勝機が見えない……)
だが、ダルタニャンは諦めることはしなかった。現時点で直接雷風には何もすることができないが、間接的に影響を与えることはできる。
「アトス!! アラミス!! 諦めるな!!」
そして、ダルタニャンは立ち上がり、上へ向いて大声で叫んだ。
「ポルトス!! 戻ってこい!!」
その声はアトスやアラミスにだけ届いたのではなく、観戦していた盾羽、トランプで遊んでいた慧彼達、そして敵である雷風にも届いていた。
「残念だが、その応援は意味を成さないものとなるだろうな」
雷風は大きな声で、ダルタニャンに向かって言い放った。雷風は既にもう、三銃士を全滅させる作戦は立てていた。




