103GF 『閃光』の脅威
(模擬戦とは言えど、向こうは殺す気で来ている……。なら……、俺はそれなりの覚悟を持たないとなァ!!)
「ウオォォオオオオォォォォオオオォォォ!!」
ポルトスは空中で雄叫びを上げた。ポルトスの発した雄叫びが反響し、ベルシー・アレナ中がそれに包まれていた。その声を聞いたアラミスは、地上でポルトスの方を見ていた雷風の方を向いた。能力を発動し、アラミスの体から光を模したロストエネルギーが放出されており、それにより周囲は発光していた。
(座標演算、完了。速度演算、完了)
アラミスは1歩踏み込み、能力を発動した。走り出すとその場からアラミスは消え、雷風の懐に現れた。時空が歪んだようにも見え、それはこの世の物理法則を完全に無視していた。だがしかし、雷風はありえない移動方法に対応できていた。
(どうやって避けたの!?)
アラミスは、雷風のありえない移動速度に驚いていた。だがそれ以上に、反応速度の速さに驚いていた。極地にたどり着いたものでさえ避けることができなかった速度なのだが、それを避けた。その異常性に、アラミスは少し恐怖を感じていた。
(なんで来るってわかったんだ?)
雷風自身もよく分かっていなかったが、そういうものなのだろうとすぐに飲み込み、アラミスの移動を瞬時に察知し、後方へ避難した。アラミスは察知されるとは全く思っていなかったため、一瞬戸惑ってしまった。
「アラミス!! そこどけ!!」
ポルトスは上からそう言い、アラミスをポルトスの落下予測区域内から出させた。ポルトスは無事落下予測区域内に落下し、アラミスを巻き込むことはなかった。
一方、雷風はアラミスとポルトスから離れたところにいた。
(もしあのまま攻撃されてたら、核に攻撃が届かなかったとしても、再生に時間がかかる程のダメージは食らってた……。後退は正解だったな。だがこの状況、どうする……?)
今は雷風とアラミス、ポルトスが互いに厳戒態勢に入っているため、しばらく動くことはなかった。だが、緊張感だけは伝わってくる。観客席から観戦していたダルタニャンや断罪者達も、ベルシー・アレナ中を包んでいる緊張感を肌に感じていた。
「盾羽だったか? この緊張感、わかるか?」
ダルタニャンは試合を見ながら、横に座っていた盾羽に質問した。ダルタニャン達は雷風達が戦い始める少し前に軽く自己紹介をし合っており、名前は既に把握しあっていた。
「わからない人なんていないレベルにはわかります」
盾羽の言葉を聞き、ダルタニャンは後ろに座っている慧彼達に人差し指を指した。そして呆れた顔で、ダルタニャンは盾羽に質問した。
「じゃあ、あれはなんだ?」
慧彼達はババ抜きをしており、緊張感の欠片もないように笑いあっていた。盾羽はそれを見て、全てを理解したような顔でダルタニャンに言った。
「あれは手遅れなので。気にせず観戦しましょう」
「そ、そうか……」
納得しようにもどうも納得ができなく、もどかしい気持ちになっていたダルタニャンだった。
ポルトスは静かに体が再生するのを待っていた。雷風の動きを観察していたが、何もしようとしない。ポルトスは、雷風から行動を起こそうとはしないと思った。それか情けなのか。雷風が何をしたいのか予想がつかなかった。
(どうすれば奴から行動を起こそうとしてくれる? そう誘導すればいいのか? いや、そんな器用なこと俺にはできる気がしない……。アラミスの閃光も奴に読まれてた。じゃあ、俺から攻撃を仕掛けるしかないじゃねぇか……)
アラミスが攻撃しようとしても、読まれて攻撃することができない。ポルトスは自分から攻撃することしか、雷風に太刀打ちできないのだと思った。だとしたらもう、簡単な話である。猛攻をしかけ、回避できないような体制まで持ち込み、アラミスの閃光で戦闘不能にまで追い込む。それだけである。ひとつ気になるのは、そこまで追い込めるほど雷風が弱いのかというところである。
(そんなこと気にしてる場合じゃねぇ……。とりあえず奴に攻撃を仕掛けるだけだ……)
ポルトスは雄叫びを上げ、雷風に向かって走り出した。雷風はもちろんそれを観測し、ポルトスの懐まで一瞬で移動した。力強く踏み込み、上へジャンプする。そこにはポルトスの顎があった。そこに当たるように拳を置き、それを突き上げた。ポルトスは斜め前へ放物線を描くように吹き飛び、30m程飛ばされた。
(威力は抑えた。核にまで被害がいったら、戦力にならねぇ可能性が出てくるかもしれねぇからな……)
ポルトスはすぐに立ち上がり、戦闘態勢に再び入った。雷風はポルトスの足元まで一瞬で移動し、ポルトスを倒すように横から踝に蹴りを入れた。ポルトスは雷風の想定通りに倒れ、目の前を見ると雷風の顔があった。
「お前はここでリタイアだ。気絶しとけ」
雷風は拳を構え、鳩尾に強烈な一撃を与えた。ポルトスはベルシー・アレナの壁を突き破り、モン・サン=ミシェルまで吹き飛ばされた。
(アトスはもうそろそろ完全に再生するか。じゃあ、完全に再生するまでにアラミスを潰す……)
「かかってこいよ。アラミス」
雷風は手で「かかってこいよ」と表すようなジェスチャーをし、アラミスを挑発した。子供のような挑発だが、アラミスは真正面から受けとってしまうような性格なため、挑発も真正面から受け取ってしまった。
(挑発……。私より弱いのであれば挑発に乗っていましたが……。雷風さんは桁違いに私より強い……。アトスはもうそろそろ再生が終わりますが、それまで雷風さんを対処するのはかなり厳しい……)
「申し訳ありませんが、その挑発には乗れません。この状況、私たちにとって不利過ぎますので」
「いい判断だ」
雷風はアラミスの判断を評価し、アラミスの目の前まで移動した。だが、アラミスは雷風が動き出すを見て座標と速度を即座に演算し、動き出すのと同時にアラミスは、光の速さで雷風のいたところへと移動した。
(やっぱり早いな。これ……、どうやって攻略する……?)
雷風にとって1番の強敵は、アラミスの能力『閃光』であった。




