ラオ・シン死す
2話 ラオ・シン死す
あたしの倍はありそうなラオ・シンは、頭には毛がないがもみあげから剛毛のヒゲが顔半分をおおう。大きな目の上の太い眉。丸太のような太い腕に衣類を着ててもわかる筋肉、昔の読み物に出てくる好漢だ。ただ者じゃないのは誰でもわかる豪傑だ。
また、バッと大扇子を一気にひろげてラオ・シンが。
「あんた、俺を知らぬようだな。俺は玄武拳のラオだ。何処から来た?」
「当流江の向こうひと山越えたトコにある村から。玄武拳のって、ラオさん武術家なんだね」
「ラオでいい。なるほど北からか。名前は?」
「リンです。お爺ちゃんに会いに山を越えて」
「そうか、ジイさんな。親は?」
「いないんだ。それでお爺ちゃんを頼って」
「親は死んだのか?」
「あ、父ちゃんは酒で酔ってケンカして、その時のケガが原因で死んじゃた。で、母ちゃんは、そのケンカ相手と、どっか行っちゃたんだ」
「なんだそりゃ」
「ケンカは一方的に父ちゃんが悪かったのに、ケガした父ちゃんの代わりに色々してくれてた色男に母ちゃんメロメロで」
「そりゃ困った親だなぁ」
グゥググ〜
「こりゃ失礼昨日の昼から何も食ってなくて」
えっ夜と朝ぬいただけ大げさだな。あたしも同じくらい食べてない。
朝は軽くお茶だけだった、昨日の昼食べた残りがあったけど。
「昨日の昼の残りだけど、よかったら。大丈夫かな? 少し臭うかなぁ」
「おお、これはうまそうな饅頭だ。ちょっとくらいイタんでても俺の胃は大丈夫だ。いただいていいかな」
「こんなんでよかったら」
ラオは、あたしの食べ残しの山菜饅頭をぺろりと全部食べてしまった。
「よかったら今夜はウチに泊まれ」
川を少し下った川沿いに家が、想像していた山小屋よりずっとマシな家だ。庭もあって竹で作られた囲いもある。
「お帰り、遅かったね」
女の人、娘さんかしら?
「妻のユイともうします」
奥さんだった。若いしあたしより背が低い。さすがに十代のあたしよりは上だろう。
笑顔のたえないカワイイ奥さんだ。
ラオと月とスッポンだ。
棚の扇子用の台にラオは扇子をひろげて乗せた。よく見ると扇子には絵が描かれている。玄武だとラオが言った。玄武とは亀の体に龍の頭をもったような生き物だと。あたしは、こんなヤツ見たことない。
「こいつは神獣だからな、そう見られない」
あたしは奥さんが用意してくれた夕食を食べ。ラオが庭の材木で作った寝台で寝た。
「ウオッオオオ」
翌朝ラオのもの凄い声で目が覚めた。
なに?
「おおっ腹が痛てぇ。うっげろげろげろ」
ラオが嘔吐した。まさか、昨日の饅頭が。
「ウッリン、リン、リンは」
なんで、あたし呼んでんの。呼ぶなら奥さんを。
あれぇ奥さん居ないよ。
「リン……げ、玄武扇を」
あたしは棚の玄武扇を取りラオに。
「こいつは、お、おまえに……誰にも、誰にも渡すな……」
えっなんでコレをあたしに。ガタッと顔が床に落ちた。目を開けたままラオが。
今度は山菜を入れた籠が落ちた。
「ラオ・シン!」
奥さんが山から戻った時には。