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とある冒険者の日常  作者: レムウェル
ある見習い冒険者の日常
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第7話 ある見習い冒険者の初戦闘

初心者の冒険者が初めての戦闘を経験するお話


「ギャギャァァァ!!」


 袈裟懸けに剣を振り下ろすゴブリン。俺はそれをバックステップで躱………あ。


「ちょちょちょちょちょっと待ったァァァァァ!」


 一撃目は躱しつつも、石に躓きそのまま無様にもお見事な尻もちをつく俺。その俺の頭上に、ゴブリンがニヤケ面を晒しながら再び剣を振り上げる。


「ギシャァァァァァ!」

「なろっ………」

「グギャ!」


 振り下ろされた剣は、俺がゴブリンの腹部に蹴りを入れたことで軌道が変わって地面に叩きつけられ、その衝撃を押さえ込むことが出来なかったようで、ゴブリンの手から離れていった。


「ギグギギギッ!」

「させるか!」


 ゴブリンは慌てて落ちた剣を拾いに駆け出し、俺はそれをさせじと足を出して、ゴブリンの足を引っ掛け転ばせる。


「グギャッ!」


 ゴブリンはバタンと顔から地面に落下し、鼻血を出して痛がっているがそれに同情してる余裕はない。


 俺は痛みで転がり回るゴブリンの首目掛け、逆手に持ったナイフを振り下ろすが、ゴブリンは間一髪それに気付いて左腕を突き出してくる。


 ナイフの切っ先はその左の前腕で受け止められ、角度が悪かったようで骨を断つことは叶わずその表面を傷付けただけで終わった。


「チッ………んおっ!」

「ギャァァァ!!」


 俺は舌打ちをしながらその場から飛び退こうと試みるが、怒り狂ったゴブリンに足をガシリと掴まれそれを阻まれる。


 俺は再び尻もちをつき、その痛みに顔を顰めているとゴブリンがその俺の上にのし掛かってきた。俺は即座に持っていたナイフを振り回すが、体勢が悪く上手く力が乗っていない。


 ゴスンッと打撃音が鳴り響くが、ダメージらしいダメージに至っていないのは明らかだ。俺の振るったナイフの刃はゴブリンがかぶる革製のヘルムの表面を舐めたに過ぎない。


「ングッ………」

「ギシャァァァァァ!」


 ゴブリンの左手に顔面をワシリと掴まれ、無理矢理地面に抑えつけられると、その指の隙間から振り下ろされてくる拳が目に映る。次の瞬間、左頬に衝撃が走り、瞼の裏でチカチカと火花が散っている。涙に滲んだ視界の先ではゴブリンが、嗜虐心がこんもり篭った嘲笑を浮かべて更にもう一撃を食らわせようと拳を振り上げていた。


(ざけんな!!)


 その嘲笑を見て俺の頭は瞬時に怒りに埋め尽くされ、反射的に右手のナイフをゴブリンの脇腹へと刺し込んでいた。


「ンギャァァァァァ!!」

「ザマァ見やがれ!」


 痛みで仰け反り、俺の上から転がるように地面へと逃げ出したゴブリンを尻目に、俺も転がりながら距離を取り立ち上がる。


 そして、転がりながら偶々手にした拳大の石を握り締め、ゴブリンに走り寄りながら投げ付けた。


「グギャッ………」


 石は、ドスッと鈍い音を立ててゴブリンの眉間に突き刺さり、ゴブリンの意識が飛びかかっているのが見て取れた。俺はその隙を逃さず、今度こそゴブリンにのし掛かりつつ、その首元に逆手に持ったナイフの切っ先を突き入れた。突き刺したナイフの柄尻に左手を添えて額を当て、目を瞑って祈りを捧げるような姿勢で体重をかけて抑え込む。


「ガガガ………」


 切っ先から伝わる感触が、全身に寒気をもたらすが、それを無理矢理心の奥に押し込んで、今はナイフを持つ手を離さない事だけに意識を向ける。


 ゴブリンは手足をバタつかせて抵抗を試みているようだが、既に満身創痍でその手足の動きに力は無い。


 やがてその動きも緩慢になり、少しすると四肢がパタッと地面に投げ出され、そしてピクリピクリと痙攣し始める。俺が、そこでようやくナイフの柄から額を離して目を開けると、その瞬間、バッタリ、ゴブリンと目が合った。


 口元から血液混じりの唾液が流れ落ち、首元や脇腹、傷付いた左手から血が溢れ出ている。何より、憎悪と哀願と恐怖が入り混じったその瞳から命の灯火が滑り落ちてゆくのが見て取れた。徐々に焦点の合わなくなっていく瞳から急激に光が消えていき、同時にその全身から生命が持っているはずの『熱』が、海辺の波が引くようにスーッと引いて行く。


 やがてその瞳から完全に光が失われたが、俺はナイフを引き抜くことかはできず、暫くそのまま様子を見ていた。手を離した瞬間に、ゴブリンがムクリと起き上がっていま一度襲い掛かってくるのではないかとの恐怖があったからだ。


 どれくらいそうしていたのか分からないが、完全に『熱』が抜け、ピクリとも動かないゴブリンの様子にようやく俺の理性が起動を始め、自然とナイフを引き抜く事が出来た。


 立ち上がろうと試みるが、膝が震えてなかなかそれが叶わない。ナイフに付いたゴブリンの血を拭き取り鞘にしまおうとするが、柄を握ったままの右手の指が上手く動かず難儀する。


 大きく息を吐きながら心を落ち着け何とか鞘にナイフを納めるが、今度は指先から震えが始まり、それは次第に全身へと移行する。


 更に、下腹部からせり上がる吐き気に抗うことが出来ず、その場で激しく嘔吐を繰り返す事になった。


 殺らなければ殺られていた………その事実を踏まえて理性でそれを理解していたにも関わらず、震えと吐き気が止まる迄には暫く時間を必要としたのだった。



まだまだぁー

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