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とある冒険者の日常  作者: レムウェル
ある見習い冒険者の日常
3/87

第3話 ある見習い冒険者の鍛練の始まり

冒険者を目指して取り敢えず見習い身分で活動を始めようとしたクロウだったが………


「うぉーりゃぁぁぁっうにゃっ………にゃにゃにゃにゃにゃぁぁぁぁぁ………」


 ブンと袈裟懸けに振り下ろした安物の剣は、打ち込み用の立木に食い込んだが、断ち切ることは出来ずにそのまま手から離れ、喜劇のように腕だけが振り切られその勢いのまま壁際までゴロゴロと転がった。


 因みに立木と言っても堅い木製の立ち木ではなく、竹を芯に藁を巻き付けた所謂巻藁だ。要するに断ち切る事を前提に切り口から力量を測ろうとする時に使う代物という訳だ。


「………」


「そ、そんな目で見ないで………」


 受付嬢件判定員のリリーヌの憐憫に満ちた表情から、俺はツツーっと視線を外す。見物人からはクスクスクスと笑い声が聞こえるが、そっちは無視だ無視。


 それより、刃筋を立てる才能が全くと言ってよいほど無い俺には、長物は荷が重いという事実の方が重要だ。


「ゴホン………クロウ様、剣術の適性無し。これで槍に弓、片手剣に両手持ちの大剣、それと杖術や盾術………いずれにも適性は有りません」


「………しくしくしく………」


「辛うじて体術と短剣には適性が有りますが………対人戦闘ならともかく、モンスター相手では相当な努力が必要となる事は間違いないでしょう。目付きも悪く悪人顔ですし」


「悪人顔は関係無いよね!! ………ないよね?」


 間合いの短い短剣や、よほど熟達しなければダメージを与えるのが難しい体術は、俺みたいな武芸初心者じゃ、モンスターを狩るためのスキルとしては不適当だ。それは分かっている。そして悪人顔は関係ないはずだ……はずだ。


 その上………


「問題は魔力量の少なさです。基本中の基本である魔力の矢(マジックアロー)を一発放っただけで気絶してしまうようでは、本番では危なくて使えません」


 この問題だ。俺の魔力量では少な過ぎて、仮に洞窟(ダンジョン)等で依頼をこなそうとしても、直ぐに魔力切れを起こして探索中にぶっ倒れる可能性が高いのだ。そしたらあっという間に腹を空かせたモンスターの餌食だ。


 分かってる。分かってるよ。俺に荒事の才能が無い事は。


「それでも冒険者を目指しますか?」


 そう問いを投げかけてくるリリーヌの表情は、この上もなく真剣そのものだ。


「当然だ」


 だから俺は間髪入れずにそう答えた。するとリリーヌは大きくため息を吐き、苦笑を浮かべながら頷いた。


「分かりました。それではクロウ様が冒険者として登録する為に必要となる条件についてお話しましょう。我々としても、こちらで登録した冒険者を幾ら悪人顔だからといって「悪人顔関係無いよね?」あっさり死なせてしまう訳には行きません。登録する以上、ある程度の強さは必須です」


 そう言ったリリーヌは、俺に三つの条件を提示してきた。



 ひとつ。魔力の矢(マジックアロー)十発分の魔力量の確保。

 ふたつ。ギルド特製モンスターの骨製の立ち木の切断。

 みっつ。上記二つをこなせるようになるまで、ポーションの材料となる薬草を規定量卸し続けること。



 以上、みっつを冒険者登録の条件として提示された。


 魔力量にしても、立ち木の切断にしても、初級冒険者としては出来て当たり前の事だ。


 みっつ目の薬草採取に関しては、冒険者として大成できなかった時に備えたスキルを身に付けさせようとするギルドの親心だろう。


 これを一年という期間内で達成し、最終試験をクリア出来れば、目出度く冒険者登録と相成る訳だ。


 魔力の矢(マジックアロー)を一回発動させただけでぶっ倒れる俺に、果たして十発分を確保できるほど魔力を増やす事が出来るだろうか………。


 長物の刃を使いこなせそうにない俺が、鉄製の立ち木を切断するだなんて事、可能だろうか………。


 これらをクリア出来るように、ギルドに規定された量の薬草採取をこなしながら修行しなければならないけど、たった一年でそれが可能だろうか………。


「分かっていると思いますが、これは初級冒険者としての最低ラインに過ぎません。ですが、このラインを越えない限り、冒険者ライセンスの発行は無いと思って下さい」


「分かってる………分かってるよ」


「期限を区切ったのも………」


「分かってる。あまり時間が掛かり過ぎるようだと、成長の見込み無しとみなされるんだろ?」


「その通りです。ご理解頂けたようで何よりです」


 そう言って、ニッコリと笑みを浮かべるリリーヌは、正に受付嬢の鑑だろう。


「分かってる。分かってるから………期限二年になんない?」


「悪人顔で凄まれてもなりませんね」


 そう言って、全く嫌味のない爽やかな笑みを浮かべるリリーヌは、正真正銘の受付嬢の鑑なんだろう。


「凄んでないですぅ………」


 そう呟き返したこの俺に、リリーヌ嬢は何故か驚愕の表情を返してきたのだった。


 いや、ホントに俺、凄んでなんていないからね?


 まぁ、なにはともかく、この日から俺の修行の日々が始まったのだった。




まだまだ行くよー

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