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2 私(まぬけ)と進学


 担任の先生から

花蓮(かれん)さんなら、(あま)(ひがし)高校を狙うべきです。」

と言われてその気になった母親(ばか)(まぬけ)を、三者面談のあの日に戻ってどうにかしてやりたい。


 私は、担任の言葉を信じて、そして親の『私立に行かせるお金がない』という言葉を真に受けて、私立を一切受けずに受験したことを猛烈に後悔していた。


 両親と担任がリアルで万歳する姿を見て、余計にそう思った。


 受験は一応合格した。

 大が付くほどの合格だ。


 失敗した。本当に失敗した。

 わき目も振らずに受験勉強していた時を思い出しながら、なぜこんな簡単なことを一瞬でも考えなかったのだろうと、県内一の公立難関校に合格したはずの自分の馬鹿さ加減にあきれ返る。



 てっきり、担任が勧めるのだから、合格すれば通学できるだろう的に考えていた。

 母親が盛んと勧めるものだから、通学に協力してくれるものだとばかり思っていた。

 優秀な高校で、誰もが行ける学校ではないのだから、誰もが通学に協力してくれるものだとばかり漠然と思っていた。



 担任は良い。

 教え子が難関校に合格して自分に箔が付いた。

 通うか通わないかは自分の責任ではない。


 母親は良い。

 自分が苦労もせずに、通え、と一言言うだけなのだから。


 私はどうなの?

 どうやって通うの?

 父親だって協力してくれないんだよ。

 今から、家に近い高校へ編入できるの?


 別の高校への編入は、どういう手続きをすればいいの?

 そもそも編入は可能なの?

 きっと、無理でしょ。

 絶対無理でしょ。

 一浪する?

 無理でしょ。

 今から私立行く?

 お金がないと言われたよ。

 今思えば、遠くの公立行くよりも私立の特進コースで授業料免除の方が絶対に良かった。



 詰んだ。

 藤井聡太三冠の対戦相手だってここまで人生に絶望を感じてはいないでしょう。

 そこは棋士じゃないから分からないけど。


 私が合格した(あま)(ひがし)高校は、自宅から直線で約四十キロメートル離れている(そうだ)。

 車で通学するのなら片道一時間プラスα、という微妙な距離。


 もし公共交通機関を使うのなら、自宅から駅まで約十五キロメートル。

 高校の最寄り駅まで電車で約五十分。

 そこから高校まで約三キロメートル。バスは出ている。


 しかし、朝の忙しい時間帯、私の家では誰も私を送ってくれそうな人はいない。

 高校どころか駅までも。父の職場は駅と反対方向だし。


 それだけじゃない。

 電車代だって馬鹿にならない。

 半年で七万円。

 このほかにバス代が掛かる。

 バス代の代わりに自転車二台持ち?

 片道三キロメートルはギリ自転車で行けるかも知れないけど、片道十五キロメートルは無理。

 それならと、バスを考えるも自宅からどうすれば駅までバスで行けるか、ルートの想像ができない。

 田舎ってヤーネー。


 詰んだ。

 私が頑張って難関校に合格しても、通学することまで考えてくれた人は誰もいなかったっていうこと。

 私の周りは馬鹿と間抜けの集まりだったよ。

 本当笑える。笑えないけど。

 

 更にその先を親と話したら、もっと重大なことが判明した。

 大学行けない。


 国公立でさえ、私を大学に行かせるお金がないと言われた。

 合格してからだよ。そんなの騙し討ちじゃん。

 つまり、遠距離通学を頑張って卒業しても、大学に行かずに就職するか、奨学金という不良債権を背負いこんで社会に出るかの二択しか選択肢がないのだ。


 こんなことになるのなら、商業高校あたりにでも行って、青春を謳歌して就職したほうがどれだけ楽しい人生だったのか。

 もう私の人生過去形だ。


 あ~あ、本当に失敗した。



★★★



 本当の失敗と後悔は、その後にあった。



(にい)(にい)伯父さんの家に下宿する!?」

 両親の突拍子もない考えを聞かせられた私は絶望した。

 誰がそんなこと考えたのか。

 なんでほぼ知らない人の家に寝泊まりしなきゃならないのか。


 (にい)(にい)伯父さんの家から尼東高校は結構近い。

 それは知っていた。

 駅と尼東高校の間にあるのだから。


「みどりおばあちゃんも説得してくれるって?」

 私は亜音(あのん)と目を合わせた。

 家に来てくれ、と書かれた手紙を、黙って隠し持っていたみどりおばあちゃんが役に立つのか?



 それに親戚と言っても、ただの一度も会ったことのないオジサンと同居するなんて考えられない。

 百歩譲って面識のある(いち)(にい)伯父さんと二人っきりで同居するのだって嫌だよ。

 だってちょっとキモいもん。

 一兄伯父さんは、みどりおばあちゃんの旦那である勝男(かつお)おじいさんと一緒で、頭が寂しいのに、ちょっと顔がいいところがミスマッチで余計キモイ。


 それに下宿の話だって、今まで家族の話題に一度も乗ってないんだよ。

 誰が(にい)(にい)伯父さんを説得するの?

 親戚付き合いのない二兄伯父さんが、手紙の存在を黙っているみどりおばあちゃん如きに説得できるの?

 あの手紙のことを母親に話そうかと一瞬だけ思った。

 あの手紙のことを知っていれば、みどりおばあちゃんが説得するという話に信憑性も可能性もないことが分かるでしょう。


 通学するのに親の協力が得られないどころか、会ったこともない親戚に預けようとするその考え。

 そういう考えに至る花畑を見てみたいわ。

 頭をカチ割って。


 そもそもそんな人にお願いしてまで私が高校に通わなきゃいけないの?

 頭痛い。

 アタシの頭が割れそう。


 親が馬鹿で金がないとホント苦労する。

 私の気持ちを無視しているんだもん。

 私だけじゃなくて、何らかの事情で親戚づきあいをしていない伯父さんまで巻き込んで。


 正月に伯父さんの奥さんが亡くなっても、葬式に呼ばれていないんだよ。

 葬式自体やっていないらしいけど。

 拝みにも行っていないし、当然香典だって出してやいない。


 お母さん言っていたもん。

 『アノオンナ』のために香典出さずに済んで良かったって。


 そんな関係の薄い親戚に住まわせてくれって誰が言うの?

 誰が頼むの?


 マジ信じらんない。


「とりあえず、明日二(にい)(にい)伯父さんの所に行くから、伯父さんにお願いする言葉をきちんと考えておいてね」

 母親が私に言った。


 誰も二兄伯父さんの家に住みたいなんて言っていないのに。

 通学に協力してくれるだけでいいのに、なんで関係のない人を巻き込むの。

 通学が難しいなら、他の公立に転入する方法を考えるとか、私立に入れるとか、もっと現実的な方法があるでしょ。

 私立へ通うお金が足りないのなら、アルバイトくらいするのに。


 地球なんか爆発すればいいのに。

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