~ラブコメのメインヒロインだった広中さん~
~ラブコメのメインヒロインだった広中さん~
広中「最初は主人公憧れの人って設定のメインヒロインだったはずなのに、中盤に出てきた美少女キャラが私から読者人気ごと主人公の気持ちを奪っていきまして、なんと最終的には誰ともくっつかずモブキャラ同様の扱いとなり、思春期の恋愛に負けてきました」
ライル「あちゃー、ずばり不人気ヒロインだな。ご愁傷様」
ネネ「えー? でも可愛いのに……」
広中「ヒロイン候補はみんな可愛いんだから、可愛いだけじゃ駄目! 見た目以外のプラスアルファがなくちゃ、もう誰にも愛されないのよ!」
ライル「……とか言ってさ、巻数を重ねるごとにネガティブ要素ばかりプラスしちゃうんだろ? いらない属性ばっかり増やしたんじゃないか?」
ネネ「まるで取ってつけたようにね」
広中「うぐっ……!」
ライル「ダメージ入ったな」
ネネ「これ聞くのって結構つらいことかもしれないけど……。実際にはどんな感じだったの?」
広中「……聞いてくれる?」
ライル「もちろん聞くさ。そのために俺たちがいるからな」
ネネ「そうそう(聞くのが面白そうというのは黙っておこう)」
広中「じゃあ……」
ネネ「うん」
広中「まずは薄味の天然キャラ設定! だけど私ってもともとが優等生を前提とした立ち位置だったから、意味不明な失敗ばかりして周囲に迷惑をかけるただの痛い女の子!」
ライル「メインヒロインが度を越した天然だと、さすがに面倒に感じるときはあるかもな。お馬鹿なヒロインに主人公が理不尽に振り回されるから、気の短い読者がイライラしてくる可能性もあるし……」
ネネ「だよね。おい正統派美少女、お前はしっかりしろよって言いたい」
広中「次は料理が出来ない設定! とにかく下手! どうしようもない! 食べたら吐いちゃうレベル! おかげでインパクトはあったみたいだけど、それも出オチだけ! しかも手料理がまずいせいでイメージ最悪! 主人公にお弁当とか作ってあげられなくなくな~い?」
ライル「そりゃ家事は出来たほうがポイント高いよな。出来ないことの利点はないわけだし、料理がうまいキャラと比べたら魅力は減少するだろう」
ネネ「指を絆創膏だらけにして健気さをアピールするしかないよね」
広中「血だらけ……けなげ……」
ライル「それはやめろ」
ネネ「一部には受けそう」
広中「終盤に来て、唐突のスケベ設定! とにかくサービスシーンを増やそうとする作者の思惑が筒抜け! 身売りして主人公と読者に媚を売るも、それまで持っていた清純なイメージ丸つぶれで逆効果のサヨナラ場外ホームラン! 本当にサヨナラで最後はほとんど出番なくなっちゃって思い出にさえ残らない!
誰それ? 私だよ!」
ライル「まぁでも、エッチなのは嫌いじゃない」
ネネ「だけどやっぱり、あざといのって嫌われるよ」
ライル「まぁでも、あざといのは嫌いじゃない」
広中「不人気なエロキャラって、ちょっと痛々しいみたいでね……」
ライル「ふむ……。(そういうキャラって意外と同人誌で輝いたりするけどな)」
ネネ「そっか……。(逆に不人気なほうが独占欲は満たされるけどな)」
広中「でも仕方なかったの……。あんまりいじめないで……」
ライル「メインヒロインは作品の看板だから、どうしても間口の広い無難な可愛さを狙いがちだから大変だと思うぜ。結果たいした特徴がなくて、読者からの印象も薄くなっちゃったりする」
ネネ「あるいは癖が強すぎて受け入れられないとか。ゲテモノヒロイン呼ばわりされないように気をつけなきゃ」
広中「あーん、つきたい! 読者層のど真ん中をつきたい! えーい、ハマレ!」
ライル「仮にもヒロインがそんなこと言うなよ」
ネネ「でも気持ちはわかる。あれだね、いろんな属性や小ネタを出して千本ノックみたいに打ちまくるしかないのかな?」
ライル「積極的な印象付けか……。上手くいくといいけどな」
広中「駄目だよ、それ。よくない感じよ」
ライル「え、そう?」
広中「だって、実際そうだった。印象付けようとするあまり、お呼ばれしてない私が本編に出しゃばりすぎちゃって、顰蹙を買ってしまったものだわ。邪魔するつもりはないのに、他のヒロインが好きな層からは邪魔だ邪魔だの大合唱」
ライル「え……。(それ不人気っていうより嫌われてないか)」
ネネ「かわいそう……。(作者に贔屓されてるとか叩かれたのかな)」
広中「グッズも最後まで売れ残りがちだったし」
ライル「それはほら、売れなかったわけじゃなくてメインヒロインだから在庫がたくさん用意されていただけだって!」
ネネ「そうそう! 売れ粋が抜群だから、つい多めに用意しちゃうだけ!」
広中「人気投票の結果見る?」
ライル「……いや、いい。(最下位だったら反応できないな)」
ネネ「安心して! 人気投票って投票する層が偏っている場合もあるから、本当の人気ランキングじゃない可能性もあるんだよ!」
広中「でもメインヒロインなのに投票する層に人気ないのって悲しくない?」
ライル「ん……」
ネネ「……考えれば考えるほどメインって難しいよね」
ライル「そりゃそうだろう。作品を背負って立つくらいのオーラが要求されてくるからな」
広中「だけど読者のみんなもさ、折角の据え膳なんだから美味しく食べてよ……。あざとさ振りまいて主人公に媚売ってる私の立場がないじゃないのさ……」
ライル「だから仮にもヒロインがそんなこと言うなよ」
広中「でもいいの。主人公より目立ってしまうよりは、もういっそ影が薄いくらいでいいの……」
ライル「健気だなぁ。むしろ負けが続いて卑屈になってないか?」
ネネ「でも今の広中さん、私キュンときた。あざといキャラよりずっと好き」
ライル「……まぁ、ネガティブで幸薄な少女って一定の需要はあるよな」
広中「そんなの一時の流行じゃん。次の作品が出るころには誰も残っていないわ」
ライル「はは、所詮は男性読者なんて浮気性でさ、お気に入りの女性キャラをとっかえひっかえするもんな。……ごめんなさい」
広中「もっと反省して。私たちも笑顔いっぱい振りまくから、もっと深く愛して」
ネネ「そうだよね! だいたい、アホみたいに鈍感で優柔不断な主人公がいけないんだよ。あんたはメインヒロインへの愛を貫きなさいって、説教したくなるもん」
ライル「おお、言うねえ」
ネネ「だって、そうでしょ? あまりにもふらふらしすぎていると読者の一人として文句の一つくらい言いたくなるもの。なにがハーレムよ、馬鹿馬鹿しい。女の子をなんだと思っているのかしら」
ライル「それは、まあな……。(ハーレムが好きだとは言えない雰囲気だ)」
広中「ん……。でもそんな優柔不断な主人公に恋しちゃったのが私……」
ネネ「あ、そっか。恋しちゃったんだ」
ライル「じゃあしょうがない」
広中「そう、しょうがない。恋愛は恋をした方が負け。だけど……」
ネネ「けど?」
広中「好きだとアピールしても鈍感な思考回路で誤解して終わる主人公には伝わらず、やっと両想いかと思ったら他のヒロイン相手に浮気され、それ以降は告白しようとするとやんわり断られてしまう不人気ヒロインの悲しい立場。もう私はどうしたら」
ネネ「くっついたら色々終わっちゃうからね。特にヒロインレースが盛り上がりがちな男性向けのラブコメは厳しいと思うよ」
ライル「いっそ主人公との縁を切っちまったほうが幸せになれるんじゃないか?」
広中「でも私は一途だもん。何度裏切られたって他の人なんて考えられない」
ライル「お、それは可愛いなぁ」
ネネ「でもさ、冷静に考えれば主人公以外の男性にもいいキャラっていたんじゃない? 失恋したときには優しく慰めてくれるかもよ?」
広中「確かに作品中の男性は主人公だけってわけじゃなかった。実を言えば私だって、彼らのことを嫌っていたわけじゃない」
ライル「それじゃ、どうして主人公なんかに固執したんだ? どっか病んでいたのか?」
広中「そういうわけじゃないけど」
ネネ「だったらどうして?」
広中「たとえば主人公以外の男性キャラクターに対して少しでも恋心を抱いたら、すぐにビッチっていう誹謗中傷が来るのよね。もはや泣くしかない私」
ライル「あぁ……」
広中「過去に主人公の他に好きな男がいたかもしれないことを匂わせると、たちまち切り刻まれる私の顔写真。メインという設定の立場上、こういうときだけ作品全体に影響を与えてしまうバッシング、あるいは私のアンチ大量発生。しまいには数少ないファンにも問題児として煙たがられてしまう」
ネネ「ふむ……。(でもそれって逆に考えるとファンがいる証でもあるけど)」
ライル「ふむ……。(実際ヒロインが他の男キャラとくっついたら俺は許せない派だわ)」
広中「いてもいなくても変わらない空気キャラで存在し続けるのと、いっそ目立ってもいいから嫌われてしまうの。果たしてどっちがいいのかな?」
ライル「えっと、それはさすがに極論じゃないか」
ネネ「そうだよね……。(ライルが励ましてあげてよ)」
広中「ふふふ、敵勢力に寝返っちゃうくらい感傷的なくせに大事なところで能天気なヒロインの気持ちが、闇に落ちつつある今の私になら分かる気がするわ」
ライル「待て、待て! メインヒロインのくせに黒くなるな!」
広中「だったら教えてよ! 私にヒロインの素質を伝授してちょうだいよ!」
ライル「そ、それはだなぁ……」
ネネ「ここには男なんてライルしかいないんだから、ちゃんとした意見を言ってあげて! そうでないと広中さんが救われないよ!」
広中「わくわく、どきどき」
ライル「……よし!」
ネネ「おー、何か思いついた?(一応ちゃんと聞いとこ)」
ライル「初恋であり一途で、かつ奥手だがエロに寛容でなければならない」
ネネ「なにそれ?」
ライル「俺が考えた最強のヒロインの条件」
広中「あーもー、これだから男は……」
ネネ「わがままで馬鹿だよね」
ライル「え、そんなに駄目? 結局はキャラクターなんて非実在の創作物なんだからさ、現実の女性がどういう生き物であろうと関係ないじゃん。二次元のヒロインくらい、ずっと純情であってほしいけど。ラブコメに妙なリアリティなんていらないじゃん?」
広中「……つまり処女で?」
ネネ「……理由もなく主人公だけを好きで?」
広中「……浮気の邪魔をしてこないで?」
ネネ「……実はエッチな女の子?」
広中&ネネ「「ばっかじゃないの~?」」
ライル「いやいや、そうは言うけど男なんてみんな馬鹿な生き物なんだってば。ありえないからこそ理想を求めるわけで、でなきゃラブコメなんて読まねーよ!」
広中「それを言われると……」
ネネ「弱いね」
ライル「だろ?」
広中「でもそれ、結局どうしたら……」
ネネ「うーん……。ライルどうにかしてあげて」
ライル「いや俺にも結局わからん。好きになるキャラは理屈じゃなく好きになるからな」
ネネ「あー、考えてみたら私もそうだな。結局はヒロインの魅力って理屈じゃないよね」
広中「それは! 私も!! 知ってる!!!!」
ライル「え、ごめん」
ネネ「私もごめん」
広中「お願いだから私の魅力を掘り下げてよ作者! 安易に新キャラに頼らないでよ展開! 不人気でも私を捨てないで! ねぇ私メインヒロインだよ! どこ行ったの読者さーん!」
ライル「これは悲痛な叫びだな……。けどさ、実はお前はメインのヒロインだという立場に胡坐をかいていたんじゃないか?」
広中「……え?」
ライル「あるいは主人公に対していちいち口出ししてしまったとか。ツンデレもやりすぎると単純にいやな奴でしかないからな、押して駄目なら引いてみろって」
広中「む、ちゃんと引いたよ! だけど引いたら引きすぎてフレームアウトしちゃったよ! なんか出番減っちゃってたよ! お呼ばれされなくなっちゃったよ!」
ネネ「あらら」
ライル「出番が減らされてしまうのは一番辛いよな。大事な挽回のチャンスが失われてしまうし、読者の記憶からも消えていってしまうから」
広中「そして浮かび上がるメインヒロイン不要論」
ライル「素直になれないくせ主人公に嫉妬して、他のサブヒロインとのイベントを邪魔するようになったら余計にな。読者からウザいとか思われたら終わりだぜ?」
ネネ「さじ加減が難しいよね」
広中「あーもー、勝てる気しなぁい! もういっそ堂々と負けて悲しみに浸っているほうが気持ちいいかも! ふーんだ!」
ライル「待て待て、泣きながら膝を抱えるな」
広中「でもだってぇ……」
ネネ「かわいそう……。ライル、どうにかしてあげて」
ライル「……よし! 次からはメインヒロインを後任制にしようぜ」
ネネ「後任制?」
ライル「最初はみんなサブヒロインとして登場するだろ? そして全部の女性キャラが出揃ったところで各自の人気具合を見て、その中からメインヒロインを選抜するのさ」
ネネ「なにその総選挙」
広中「単行本に握手券でもつけるつもり?」
ライル「でもさ、どーなればヒロインの勝利と呼べるんだ? 俺は男だから女性の気持ちはわからんが、主人公と結ばれることだけが幸せってわけでもないだろ?」
広中「この際ハッピーエンドとか別にいいから、とにかく読者の記憶に残りたい。もちろんいい意味で。要するにちゃんと作品のヒロインとして愛されたいの」
ネネ「そうだね。性的に間抜けな主人公はともかく、読者のみんなから愛されていないとメインヒロインは悲しいと思う」
ライン「ふーん、そっかー」
広中「でもそれが難しい」
ネネ「難しいよね……」
ライル「よし! だったら最高の結論が出た! もうラブコメには出ない! これでどうだよ、いい案だろ?」
広中「……えっ?」
ネネ「どういうこと?」
ライル「可愛い女性キャラがたくさん出てくる作品はどうしても競争率が高くなるからな、メインヒロインの負ける確率が他の作品と比べて非常に高い。わざわざ激戦区に足を踏み入れるようなものだ」
広中「それは確かにそうだけど」
ライル「たとえば登場人物が男ばっかりのバトルものとか、スポーツ漫画のマネージャーとかはどうだ。ヒロインが一人だけの作品だったら、勝ちも負けも関係ないだろ。読者の人気なんて気にせず、存分に主人公と上手くやっていけるぜ」
ネネ「なるほどね、なんかそんな気がしてきた(BLだとすごく叩かれそう)」
広中「ちょっと待って! もしもそれでさ、その恵まれた状況でさ、ヒロインの私が他の男キャラに人気投票で負けちゃったりしたらどうするの?」
ライル「そのときはメインヒロインなんて諦めろ。お前には務まらん」
広中「えっ? ひどい、泣いちゃうわ。どうしてそんなこと言うの?」
ライル「わからないのか? ヒロインなんて辞めて、俺の嫁に来いってことさ」
広中「…………」
ネネ「…………」
ライル「えっ? 二人が俺を軽蔑しているだと……? 今度は俺が思春期の恋愛に負けてきました展開か、これ」