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01

「なあ、ノーザン、うちのパーティーから抜けてくれないか?」


 依頼をこなし、ギルド近くの酒場で食事をとっていた夜。冒険者パーティーのリーダーであるシャルドに言われ、僕はフォークを取りこぼした。


「え、何……なにゆえ……?」


「邪魔だからさっさと抜けろって言ってんのよ、そんなことも分からないの、このグズ」


 先ほどのシャルドより、何倍もキツイ言い方で、同じくパーティーメンバーである、女シーフのルネイルが言った。シャルドが「言いすぎだ」と彼女をたしなめる、どうにもそれが表面上の、形だけとりあえず、という風にしか見えない。


「魔術師を名乗ってるくせに、たいした魔術が使えないし、貧弱だから荷物持ちもろくに出来ない。絵にかいたような役立たずじゃない! アンタもそう思うでしょ、エリシア」


「い、言いすぎだよぉ、ルネちゃん……」


 そうは言うものの、否定はしない、回復魔術師のエリシア。

 待て待て待て、どうしてこんな流れになった? ついさっきの依頼まで、普通に冒険者としてやってきたはずだ。


「じょ、冗談じゃろ……?」


「……オレたち、もっと上のランクに行きたいんだ。冒険者パーティーは四人まで。なら……分かるだろ?」


 足手まといを切り捨てて、有力なメンバーを入れたい。そう言うことだろう。

 上手くやれていると思っていたのは、僕だけだったのか。


「ていうか、あと、アンタ古語なまりキモイんだよ。ろくに魔術使えないのに、口だけは達者って? ウッザ」


「おい、ルネイル!」


 仕方ないだろ、と言いたかったが、仕方ない理由を僕は話せない。

 ずっと憧れていた、冒険者パーティー。それなのに、こんな形で夢の生活が壊れてしまうなんて……。


「わ、分かった……。脱退、する……」


 泣きわめきたい気持ちを抑えながら、僕はそう言い、首から下げた冒険者タグの三枚の内、一枚のプレートを外して渡した。

 冒険者タグは、冒険者ギルドに登録してある情報と照会できるプレートと、冒険者ランクを現すプレートの二対で構成されており、どこかのパーティーに加入すると、パーティー構成員である証に一枚のプレートが追加される。

 このパーティーに招待されて、初めて貰ったパーティープレートは、嬉しくて貰った日にずっと眺めていたものだ。

 それが今、無慈悲にも、シャルドの手によって、真っ二つに割られた。


「……これは、オレがギルドに出しておくから。悪いな、ノーザン」


「いや、こっちこそ……ウン……たいして、役にたてなくて……ウン……すまんかったな……。これ、僕の飯代」


 テーブルの上に銅貨を数枚置き、まだ残っている夕食をそのままに、僕は席を立つ。


「それじゃあ、達者でな……」


 ふらふらと僕は店を出ようとする。

 店を出る瞬間、ずっとすまなそうな顔をしていたはずのシャルドが「役立たずがいなくなってせいせいしたぜ」と言っている声が、聞こえた。

 多分、向こうは僕に聞こえないと思って、言ったのだろう。ばっちり聞こえて閉まったが。


 振り返ってもよかったが、僕はそのまま走り出し、外へ出る。

 走って、走って、誰もいない路地で、僕は泣きながら――古代転移魔術を発動した。


「ちくしょーーーー! もうしらんわーーーー! ばーかばーかぁあああ! 《記録転移レコード・テレポート》ぉおお」


 どこでもいいから、この場所から逃げ出したくて、隠し続けてきた古代魔術を、惜しげもなく使った。

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