06 更なる高みへと
ジェネラルゴブリン――即ち今生における己の父親を殺して、男の胸中に渦巻いていた感情は、感謝であった。
父という存在が、紛れもない上位の存在が、強者が、人生において乗り越えるべき最大の壁として立ち塞がってくれたことを。
決意が揺るがぬ内に訪れた試練、苦難のことを。
それらにあえて、何らかの言葉を当てるのならば、やはり感謝であった。
そして、ようやく訪れた勝利の実感を味わいながら、男はその場にどさり、と倒れ込んだ。極限まで追い込む鍛錬の後に訪れた、ジェネラルゴブリンの奇襲――余力など、一切残らず使い果たした上での勝利。
掴み取ったものこそ大きかったものの、男の消耗もまた激しく、立っていることすら辛く苦しい程であった。
そうして……大地に突っ伏したまま、男はこれからの事に思いを馳せる。
紛れもなく自分こそが勝利者であり、強者であり、上位者であるという実感、そして快感――しかし同時に首を擡げる、きっとジェネラルゴブリンなど、この森の中においては弱者に過ぎないであろうという確信。
それは事実、自分という未だ弱者の範疇を出ない矮小な存在が勝利したことで証明されている。
勝利するからこその快楽と疑惑、つまり己が勝利者であるという歓喜に加え、己が勝てる相手が他の誰かにも敗北しうるだろうという実感。
この二つが絶妙にせめぎ合い、男にさらなる欲望を抱かせる。
強くなりたい。
今よりも強く、誰よりも強く、どのような存在にも敗北などあり得ない、そう確信できるほどの絶対的な暴力を振るいたい。
ただの敗北への嫌悪でも、過去の汚点の払拭の為でもなく、純粋に己を強者足らしめたい。
やがて日が暮れ、沈み、夜闇が森を包み込み、朝日が差し込み明るみ始めた頃になり、ようやく男は立ち上がる。
この時――男の胸中には、一つの目標が明確に定まっていた。
俺は――地上最強になりたい。
男の心を、欲望を捉えて話さぬ甘美な称号、地上最強という言葉。
それを実現するべくして、男はさらなる窮地に自らを追い込む事を決めた。
より強い敵を、より上位の存在を喰らい潰す為に、男の足は自然と森の奥へと向かっていく。
そうしてこの日……一匹のゴブリンの姿が、森の深部へと消えていった。
そして――二十年後。
ここまでが第一章の内容となり、次話以降、第二章の話が開始します。
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