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08 殺戮




 キャサリンの、思わぬ程の近距離戦闘能力の高さに、男達は二の足を踏み、攻め時を見失っていた。

 だが――内一名が、恐怖に駆られ、衝動的に前へと躍り出る。


「……ッ、おらああぁッ!!」


 男は剣士であり、片手剣を構え、がむしゃらに振り回しながらキャサリンへと接近していく。

 これにキャサリンは、引くことで対処をした。下手な技を使うよりも、こうしたがむしゃらな、何の理屈もない無茶な攻撃の方が、予測による回避が困難となるため、危険である。

 故にキャサリンはまず距離を取り、棍の端を握り、上段から強く振り下ろし、遠心力も乗せた打撃を放った。


この打撃を、男は剣で受け止めようと構え――キャサリンの実力を未だに理解しておらず、舐めてかかっており、棍という武器の破壊力を冷静に判断出来ていなかった。

 遠心力も加わり、上段から振り下ろされた棍は、その長さ、重量もあり、非常に重い一撃となる。宛ら、槍を用いた薙ぎ払いに近い威力を発揮し、男が持つような軽量の片手剣で受け止めることなど、不可能であった。


 更に加えて、キャサリンは打撃の瞬間、棍へと土の魔術を施し、土を固めて岩を生み出す時と同じ魔力でもって、強度を高めた。僅か半秒にも満たない、刹那の、しかしその分強度の高い魔術によって、棍は恰も鉄塊のような堅さ、重さを発揮する。

 当然、大した技能も、身体能力もあるわけではない男に、この一撃を防ぐ術など無かった。剣は割り砕かれ、男の手から叩き落された。


 衝撃に顔を顰めながらも、しかし男は諦めず、ここで決死の行動に出た。攻撃に、武器を失ったことに怯むこと無く前進し、キャサリンが棍を振り下ろした隙を突いて、棍を掴んで奪おうと試みる。

 これは成功し、辛うじて棍の先端を掴むことは出来た。キャサリンと男で棍を引き合うような姿勢になり、男は、自分の膂力が優れていると考え、勝ちを確信し、顔をニヤつかせる。


 だがキャサリンは、意外にも棍を奪い返そうとはせず、逆に男が奪おうと強く引く時に合わせ、むしろ渡してやるかのように押し付ける。

 男は想定していたキャサリンの抵抗が無く、むしろ逆方向への力が加わったことにより、強すぎる勢いで棍を引き寄せてしまうこととなり、体勢を崩す。


 キャサリンはこの隙に間合いを詰めつつ、男の眉間に向けて手の甲を向け、指を握り切らずに放つ裏拳にて攻撃を繰り出した。

 これが正に、キャサリンがカワードと訓練していた、波を利用した打撃であり、かつ、腕の丈夫な部分を使い、更には棍を強化した時に近い土の魔術を発動した結果、単なる裏拳の打撃とは比べるべくもない破壊力を発揮した。


「――ギャッ!!」


 靭やかに、宛ら鞭の如き動きで放たれたキャサリンの打撃は、男の眉間を正確に突き、作り出した波による衝撃を叩き込みつつ、骨を砕いた。

 強い衝撃により、男は脳に甚大なダメージを受け、また眉間の骨を砕かれた痛みもあり、この時点で意識を失い、倒れる。


 そうして倒れた男の首を、キャサリンは強く踏みつけ、首の骨を折ることで命を断つ。

 カワードと共に揃え、仕上げた装備の仕掛けは靴にも及んでおり、踵は堅い素材で強化されており、つま先もリンドブルムの膠によって固められ、補強されている。

 こうした戦闘用の改造を施された靴により、更に無詠唱の魔術による瞬間的な強化も加わったことで、男の首は容易く折れ、絶命に至った。


 味方が瞬殺されたことにより、残る二人の男は恐怖し、背後を見遣り、逃走経路を塞ぐ位置に立つカワードへと視線を向ける。

 するとカワードは、近場に倒れたままの死体を一つ、頭を掴んで拾い上げ……そのまま握力に任せ、頭蓋を握り潰した。


「そんなにこっちが好きかい?」


 ニヤリ、と鬼のような形相のまま笑みを浮かべるカワードに、男二人はキャサリン以上の恐怖、暴力性を感じ取り、おとなしくキャサリンへと立ち向かう道を選ぶ。

 二人は顔を見合わせ、同時にキャサリンへと襲い掛かる。


 男は両者共にナイフ使いであり、キャサリンはそのうち向かって左側の男の、さらに左側へと回り込みつつ、男の突き出して来たナイフに無手のまま対処する。

 最短距離で、可能な限り柔らかく、致命傷を与えやすい部分、つまり腹部に向かってのナイフによる突きを、キャサリンは腕を絡め取るような動きで抑え、ナイフの刃を腕を畳むことで挟み込み、そのまま男の腕を捻り、ナイフを奪うことに成功する。


 ナイフを奪われ、かつ腕の関節を取られ、一瞬怯んだ男に対し、キャサリンはそのままの姿勢、ほぼゼロ距離の状態から、全く構えを取るようなこともなく、そのまま拳を突き出す。

 カワードの前世において寸勁、と呼ばれる技に近いその打撃は、身体の内側で関節を動かすことにより、内部で波を起こし、この波を腕へ、拳へと伝える事により、予備動作無し、かつゼロ距離でありながらも、既に加速を終えた拳を放つことが可能となる。


 そうした技を、未だ不完全ながらも習得しつつあるキャサリンは、更に無詠唱の魔術、炎の爆発を、打撃の瞬間に合わせて発生させる。

 これにより、拳の破壊力は高められ、キャサリンの細腕から繰り出されただ、ゼロ距離の打撃とは思えぬ衝撃を発生させ、男の鳩尾を貫き、身体を大きく吹き飛ばす。


「ゴゲッ!!」


 強い衝撃、爆発、熱による皮膚を焦がし、身を焼かれたことによる負傷、そうしたものが重なり、男は意識を失う。

 ここでもう一人の男は、攻撃を繰り出した直後のキャサリンへと接近し、隙を狙い、突きはナイフを奪われるだけと考え、斬り掛かる。


 この斬撃を、キャサリンは身を捻って回避しつつ、男の脛に向かって、つま先を使って蹴り込む。

 強度を補強されてあるキャサリンの靴は、つま先も武器相当に頑丈であり、さらに先端を土の無詠唱魔術により補強し、重さも加わったことにより威力が増す。

 結果、男の脛は、キャサリンが振り子のように軽く振った蹴り足の、そのつま先により、鋭く切り裂かれる結果となる。


「チッ――」


 負傷し、痛みに反応し、身体を強張らせる男を見て、キャサリンはさらに追撃を繰り出す。蹴りの為に接触した足を戻すこと無く、維持し、さらに伸ばし、男の足首を絡め取る。

 痛みにより浮足立った男の片足は、体重がほぼ掛かって居なかった為に、容易く掬われ、投げられ、転倒。

 そうして転んだ男の喉笛に向けて、再度キャサリンはつま先を使った蹴りを放つ。今回は土ではなく、風の無詠唱魔術によって刃を生み出し、男の喉笛を正確に蹴る。


「ガフッ――」


 当然これを防ぐすべも無く、男は首を深く切り裂かれ、絶命した。


 この段階になって、ようやく吹き飛ばされ意識を失っていた男が回復し、立ち上がる。しかし足元は覚束ない状態であり、立ち上がったことを確認して急接近するキャサリンに大してまともな抵抗すら出来なかった。


「う、うわぁああぁっ!!」


 男はがむしゃらに、無様に腕を振り回し、後退りながら逃げようと試みる。しかし、無闇に振り回される腕の対処に、事ここに至って困る筈もなく、あっさり捕まり、腕を取られ、そのまま投げられ、地面へと抑え込まれる。

 そしてキャサリンは手刀を構え、男の頸動脈に沿うような形で振り下ろし、同時に氷の無詠唱魔術を使い、刃を生み出す。


 風の無詠唱魔術では、手刀のような柔らかい部位では十分な押し込む力が得られず力が分散し、かつ己の掌が負傷するリスクが発生する。

 そのため、鋭さでは劣るものの、手刀を固め、そのまま刃として実態を持ち、反動による負傷のリスクの無い氷の魔術が、この場面では適切な魔術であった。


「うぎゃあああぁぁッ!?」


 男は氷の刃により頸動脈を切り裂かれ、その首から血が吹き出し、明らかな致命傷を与えられていた。

 それでも尚、キャサリンは攻撃の手を緩めることなく、土の無詠唱魔術により己の膝を強化し、うつ伏せに倒れる男の背に向けて膝落とし蹴りを放ち、背骨を折り砕いた。


「いてぇ、いてぇよぉぉお……ッ!!」


 男の泣き言がその場に響き――こうして、キャサリンと因縁の男達四名の闘争の決着がついた。

 キャサリンの、完全勝利という形である。

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