07 復讐の機会
死屍累々――そういった言葉が、今この場では相応しかった。
カワードが男達の退路を塞ぎ、逃走を試み、決死の覚悟で前に出た者を次々となぎ倒し、一人残らず念入りに頭部を破壊し、皆殺しにした。
残ったのは四名、キャサリンを襲った冒険者達だけであった。
彼らは、自分達が何故残されたのか、理由を察していた。
「――さあ、キャサリン、ここからは君の闘いだ」
カワードの言葉に反応し、男達はキャサリンの方へと振り返る。そこには――棍を構え、臨戦態勢を整えたキャサリンが居た。
「復讐するんだ、キャサリン。かつて君の敵となった者達に、君に恐怖を与えた存在に――君が抱いた怒りをぶつけ、後悔を、恐怖を克服する為に」
語り、キャサリンを鼓舞するカワード。
「ただ一度の敗北も許すな、認めるな、受け入れるな。その傷は癒えない、君の人生を最期まで呪い続ける悪夢になる」
カワードの脳裏には、己の前世での死の間際に浮かんだ、暗く淀んだ後悔と、そして身を焦がすような怒りが思い返されていた。
「そんなものを、それほどの危害を加えられて、黙っていては駄目だ。やり返せ、貴様らなどに屈することは無いと、暴力でもって宣言しろ。それだけが、君の心を開放する唯一の選択肢だ」
「――わかってるよ、カワード」
キャサリンは応え、棍を強く握る。
「私は、こいつらを許さない。ここで決着を付ける」
鋭い視線で、キャサリンは外敵を――四人の元冒険者を睨み付ける。
「……クソがぁッ!!」
男達の内、一人が先走り、キャサリンへと向かって駆け出す。得物は棍棒、先端を金属で補強してあり、細い棍であれば粉砕できるだけの破壊力がある武器であった。
これを振り上げ、キャサリンを棍ごと纏めて叩こう、と考えて男は攻撃に出たのであった。
しかし、その狙いを成立させる為には、一つ問題があった。
圧倒的にリーチが不足しているのだ。
「――ハッ!」
キャサリンは棍の先端を突き上げるようにして、男の喉を突く。すると、棍の先端は、まるで刃物でも装着してあるかのように、喉を切り裂き、深く突き刺さった。
「がふッ――」
致命傷を負い、男はそのまま倒れ、キャサリンは油断なく、その様子を警戒しながら眺めていた。
キャサリンが男の喉を切り裂いたのは――突きと同時に、詠唱することなく風の刃を魔術で生み出していた為であった。
優秀な魔術師であるが故に、最低限の威力を保証した、極小の魔術であれば、キャサリンは詠唱することなく発動させることが出来る。敵に向けて飛ばすことも出来ず、大型の魔物を即死させるほどの破壊力も無いが、こうして打撃と同時に魔術を発動し、重ねて攻撃することが出来れば、高い殺傷能力を発揮する。
これが――キャサリンがカワードとの訓練、特に辺獄での一年間を通して習得した、無詠唱魔術を伴う近距離戦闘術であった。
そしてこの技を、この技によって容易く屠られた仲間を見て、残る男達三人は恐怖に慄く。キャサリンの操る棍は、リーチの長いだけの単なる棒ではなく、人を殺傷しうる凶器であると、この段階になって理解したのであった。