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05 追跡者




 カワードの訓練が功を奏し、キャサリンは順調に技術を習得し、実力を高めていた。

 だが、キャサリンは習得した技術、近距離での戦闘能力に関しては、冒険者としての活動の中で見せることは無かった。

 表向きには、ごく普通の魔術師としての姿を見せ、近距離戦闘の技術があるとは思われぬよう取り繕った。


 魔術師を確実に仕留めるなら、近距離戦闘の可能な人員で取り囲むのが有効である為、組織的に活動し、多くの人員を運用可能な共済組合から見て、近距離戦闘能力が無いと見られるキャサリンのような魔術師は良い標的である。

 よって、この偽装により、共済組合の構成員が釣り出せるのではないか、とカワードは考えていた。


 実際には、カワードの教え、訓練により、また当人の努力と、魔術と絡めた工夫により、近距離での戦闘能力に関しても非常に優れているのだが、それを知るのは訓練の一部始終を見ていたギルドの職員、そして一部の冒険者のみである。


 そして、偽装が有効に働いたのか――ついに、共済組合の構成員らしき者が動いた。

 その日、ギルドでの訓練も終えた帰りの時間帯、キャサリンとカワードが連れ立って歩いていると、何者かが追跡してくる気配があり、これにカワードが気づく。


「キャサリン――釣れたようだ」

「っ、分かった」


 キャサリンの表情に、緊張が走り、それを慰めようと、カワードはキャサリンの手を握った。


「大丈夫だ、君は今日まで訓練し、強くなった。奴らを間違いなく撃退できる。そして、俺もついている」

「……うん、ありがとう、カワード」


 そのまま、二人は追跡者の気配を伺いながら移動する。

 どうやら追跡者は一人や二人、といった数ではなく、かなりの人数が動員されており、追跡を撒こうとすれば、また別の追跡者が現れる。

 そうした動きを繰り返すうちに、どうやら追跡者達は、カワードとキャサリンをどこかへ誘い込もうとしているのではないか、という結論に至る。


 つまり――目的地に到着すれば、向こうは確実に仕掛けてくるつもりだ、とも取れる。


 その思惑に乗ってやろう、とカワードは考え、追跡者に逃げ道を塞がれるがまま、先へと進んでいく。

 やがて二人は、路地裏の行き止まりに追い込まれ――これを待っていたとばかりに、十数名の武装した男達が姿を現した。


「――何の用があるのか、聞いてもいいだろうか」


 カワードが問うと、男達は一斉に笑い声を上げる。


「テメェなんざ何の用もねぇ、あるのはそこの女だよォ!」


 そんな男達の中の一人が、怒りにも似た声を上げる。見れば、男の顔には最近出来たばかりと見える青痣や切り傷があり、同様の負傷をしている男が他にも四名見当たった。

 四人、つまりキャサリンを襲った冒険者達と同じ数であり、カワードがキャサリンの方に視線を向けると、緊張した面持ちで頷き、肯定の意を示した。


 つまりこの負傷した四名の男が、キャサリンを襲った冒険者であり、真新しい傷があるのは――キャサリンが生きて帰ってきたことを知った組織に、再び罰せられたのだろう、とカワードは推測する。


「キャサリン……他の奴らは、俺が片付ける」


 言って、カワードは一歩前に出る。現在の装備は――冒険者としての普段の装備に加え、買い足した消耗品の類――瓶入りのポーション、何かと用途の多いロープ、そしてメモ等に使う質の悪い紙束。そして、晩酌用にとギルドを出た後に買ったワインが一本。


「――やっちまえェッ!!」


 負傷した男の掛け声で、男達は一斉にカワードへと襲い掛かる。負傷した四名は様子見とばかりに動かず、後ろに控えたままであった。

 どさくさに紛れて片付けてしまう可能性が無くなったため、好都合だ、とカワードは思う。

 あの四人には――キャサリン自身の手で、引導を渡してもらおう、と考えていた為だ。


 そうして思考を巡らせたのは一瞬限りであり、後は迫りくる敵、武装した男達の対処に意識を割く。


 初手――カワードはワインの瓶を掴み、素早く前進し、これを振りかぶり、最前まで突出していた男の顔面に叩きつける。


「ガヒ――ッ!」


 見かけ以上のカワードの素早い動きに対応できず、男の顔面にワインボトルが直撃し、砕ける。

 男が痛みと衝撃に呻くような声を上げた直後、カワードは割れたワインボトルを、男の首に目掛け突き刺した。


「ぎゃあぁっ!!」


 悲鳴を上げる男に構わず、カワードはワインボトルを捻って回し、男の首に突き立てた状態であるが為に、頸動脈も含め周辺を無残に引き裂く。

 刹那の出来事でありながら、勢い良く鮮血が吹き出た為、そして躊躇いも無く――男の命を奪うような攻撃を繰り出したカワードが、まるで虫を相手でもするかのように、自然体であった為、一斉に躍り出た男達が、一人残らず足を止めた。


「――どうした、ワインは苦手だったか?」


 カワードは煽るように言って見せ、それにより男達は怒りの表情を浮かべるも、感情のまま襲い掛かるような真似はしなかった。

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