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01 足跡




 カワードとキャサリン、二人の冒険者としての活動は順調であった。

 魔物を狩ることは無論のこと、辺獄での採集活動や、辺獄に最も近い区域に存在する農作地での護衛依頼等、多岐に渡り問題なく、優良に仕事を務めてみせた。


 そうして約一ヶ月程経過したこの日もまた、同様に無事依頼を終え、冒険者ギルドへと帰還したところであった。

 この日は農作地を巡業する商人の護衛業務を請け負っており、無事巡業を終えた商人から依頼完了の証明証を貰い受け、これを冒険者ギルドに提出することで依頼は完了となる。


「――依頼完了の証明証だ、宜しく頼む」


 カワードが証明証をギルドの受付――丁度、担当をしていたレミリアに提出すると、レミリアは穴が開くほど証明証をしっかりと確認し、その後ようやく受理する。


「……また優良判定なんて、アンタ、まさか不正か何かしてないでしょうね?」

「そんなことをしても、いずれバレるだろう?」


 カワードが苦笑すると、諦めたようにレミリアはため息を吐く。


「そりゃそうだけど、でも、なーんか納得いかないのよね、アンタがちゃんと冒険者してるなんて」

「心配しなくとも、俺は命に関わるような危険を犯すつもりは無い」

「いや、別に心配してるってわけじゃ」


 レミリアが困ったように言いながら、カワードから視線を外し、そっぽを向くと、キャサリンが飛びつくような勢いでカワードの腕を取り、抱き締める。


「そうよ、カワードに心配する必要なんて無いんだから! 今日だって、辺獄から作物目当てに姿を現したファットビーストを、毛皮を傷つけずに一撃で倒して、しかも討伐証明部位以外は全部依頼主の農家さんに渡しちゃうぐらいの太っ腹だったし?」


 ファットビーストとは、猿に似た、しかし太ったような巨体を持つ魔物であり、縄張り意識が強いため、毛皮を使って作った案山子は他の弱い魔物やファットビーストを近寄らせない効果がある。匂いが完全に薄れるまでしか効果の無い代物だが、収穫時期に丁度作ることが出来れば重宝する代物でもある。


 一方で警戒心が高く、知能にも優れた魔物でもあるため、積極的に仕留めることは難しいとされる魔物であり、今回の護衛依頼では、収穫中にファットビーストに襲われないよう追い払うだけで良かったのだが、カワードは気配を殺し、距離を詰め、頭部に衝撃を通す拳の一撃で内部破壊を起こし、傷一つ付けることなく仕留めることとなった。


 討伐したファットビーストの毛皮は高く売れる為、カワードが所有権を主張し、持ち帰ることも可能だったのだが、経済的な充実を目標としないカワードは、依頼主でもある農家で使い道があると知り、ファットビーストの毛皮だけでなく、肉も全て寄贈した。

 その結果、護衛依頼の完了証明証には『非常に優良』という評価が下されたのであった。


「――っと、それよりも、今日はキャサリン、貴方に話があるのよ」

「私に、レミリアが?」


 カワードという存在を間に挟み、肯定か否定かで日頃から対立する関係にあるキャサリンとレミリアである。キャサリンにとって、レミリアから個人的な話題を振るというのは考えづらく、首を傾げる。


「私から、というより、ギルドからね」

「ああ、なんだそういうことね」


 納得した、というように頷くキャサリンと、それに構わず話を進めるレミリア。


「以前、貴方の死亡届が提出されていた件についてなんだけど、調査が進んで、ある程度の情報が纏まったから、それについての報告よ」


 その言葉を聞いた途端、キャサリンは表情を硬く、真剣みを帯びたものに変える。死亡届の件とは、つまりキャサリンを襲った冒険者達についての調査でもあった。


「貴方の死亡届を虚偽報告で作成した冒険者四名は、全員が元々は貧民街の出身だったみたいね。で、貧民街で幅を利かせている怪しい組織の拠点に何度も出入りしていたっていう目撃証言も上がっているわ」

「つまり、その組織とやらと例の四名には関係があると?」


 カワードが、緊張して固くなったキャサリンの代わりに問うと、レミリアは頷く。


「確証は無いけど、ほぼ間違いないと見ていいでしょうね。いい噂を聞かない組織だから、構成員でもないのに何度も出入りする理由は無いはずよ」

「となると――今も彼らはその組織に?」

「いいえ、ここ一年程は姿を見せていないそうよ。……これはただの仮定の話だけれど、組織から何らかの理由で誘拐の依頼と受けた彼らが、仕事に失敗、その見せしめとして処分を受けた、という可能性は十分にあるわ」


 レミリアの推測に、カワードも頷き同意する。相手が組織的に犯罪行為に手を染めていた可能性がある以上、実行犯が計画を立てた人間によって罰を受けた可能性もまた否定できない。

 と、同時に、ある可能性が一つ浮かび上がってくる。


「と、言うことは、その組織とやらが健在である以上、キャサリンが再び狙われる可能性もある、ということだな?」

「そういうこと。だからこそ、ギルド側での調査結果を貴方達にも教えるっていう決定が下されたわけ」


 情報が開示された理由もまた、レミリアによって告げられ、合点がいったと頷くカワード。


「で、その組織というのはどういう組織なんだ?」

「名前は共済組合、っていう組織よ、貧民街の住民同士で助け合っていきましょう、っていうお題目を掲げてはいるけど、実際は下部組織から上が利益を吸い上げる為の組織になってるわね」


 カワードは、前世の知識におけるマフィアに近い存在なのだろう、と凡その当たりをつけた。


「で、その共済組合のトップに君臨する男――組合長の名前なんだけど」


 レミリアの口から、カワードにとって思わぬ言葉が飛び出てくる。


「ショーゴ・スズキって言う、ちょっと変わった名前の男よ。黒髪黒目で、顔立ちもこの国の人間とは違っていて、外見にも特徴があるわ」


 その名前は、そして身体的特徴は、カワードの前世の知識における、日本人の特徴に完全に合致していた。

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