09 決闘その後
カワードと『竜の首狩人』の決闘は、カワードの勝利という形で幕を閉じ、カワードとキャサリンがパーティを組むことに口を挟む者は居なくなった。
キャサリンという優秀な魔術師を狙っていたパーティは他にも存在していたのだが、カワードが決闘で見せた立ち回り、圧倒的な実力を前にして、誰もがツバを吐かずに飲み込むしか無かった。
そうして無事決闘を終えたカワードは、キャサリンと共にギルドの救護室に向かった。龍の首狩人の四人もまた、負傷を治療する為に同じ場所に向かったのだが、カワードの場合は、キャサリンが念の為に、と矢を受けた額を診てもらおうと半ば無理やり連れて来られただけである。
無論、カワードには傷一つ無かった為、検査らしい検査も無く用事を終え、救護室を後にしようとしていた。
「……待ってくれ」
そこで、カワードの背に声が掛かる。振り向くと、意識を取り戻したエベックが救護室のベッドから身体を起こしていた。
「すまなかった、まさかここまでやれる奴だとは、想像もしていなかった」
「気にしないでくれ、俺もあえて煽るようなことを言って、不快な気分にさせただろう。それでおあいこだ」
言うと、カワードはエベックの方へと歩み寄り、手を差し出す。
「良い試合が出来て、俺に不満は無い。貴方達の技は紛れもなく一流だった」
「はは、アンタほどの奴に言われるなら、悪い気はしないな、ありがとう」
互いに認め合うような言葉を交わし、カワードとエベックは握手をした。
その後――カワードとキャサリンは、ギルドの近場の食堂に立ち寄り、夕食を取る。
食事を取りながら、キャサリンは今日の決闘の内容を振り返り、カワードに問う。
「ねえ、最後の弓矢だけど、あれは結構危なかったんじゃない?」
「そう見えたか、なら俺もまだまだだな」
ふっ、とカワードは笑みを浮かべ、キャサリンの疑問を解消するように答える。
「そもそも、あの程度の鈍らでは、俺の皮膚は貫けない。せいぜい、浅い切り傷が限度だ」
言われて、キャサリンは改めて、カワードが人間ではなく魔物であったことを認識する。
「それにあの体勢からでも、姿勢を変えて瞬時の回避をすることも可能だった。あえて額で受けたのは、そういった俺の手札を必要以上に見せず、実力を隠せる分は隠しておくためだ」
いつどこで、誰と闘うことになるか分からないからな、とカワードが付け加え、キャサリンは苦笑いを浮かべた。
カワードの人間離れした――実際に人間ではないのだが、ともかく常軌を逸した身体能力に加え、それを十全に使い、知恵まで絡め、勝利に貪欲である姿勢。これらがカワードらしさであると知りながら、一方で理解の及ばない極端さに対する困惑もあった。
「ごめん、カワードのこと、ちょっと舐めてたかも」
「気にするな――と言いたいところだが、君には俺の理解者であって欲しいという気持ちもある、難しいところだな」
こうした歯の浮くような言葉が自然と出てくるところもまた、カワードらしさの一つであった。
「――話は変わるけど、カワードはどうして決闘を受けたの? カワードにとって、あの四人は敵じゃなかったでしょ、それなのに、わざわざ決闘なんて受けて、正面から闘う必要は無かったと思うんだけど」
「まあ、合理的に行くなら、無視してパーティ登録の手続きを済ませてしまっても良かったとは思う。だが、何にせよ、何らかの形でああいう試合をする必要はあったからな、都合が良かったとも言える」
「都合?」
キャサリンが首を傾げると、カワードはさらに詳しく説明を続けた。
「俺はより強い相手と戦いたいとは思っているが、勝負にもならないような雑魚を相手に、弱い者いじめのような真似をしたいわけじゃあない。だから、あえてある程度、俺の力を誇示しておくことで、今後半端な力しか持たない人間と闘う可能性を減らしておきたかったんだ」
「な、なるほど……弱いものいじめ、ね」
その言葉に、今日戦った『竜の首狩人』も含まれているのかどうか、キャサリンは気になりこそしたものの、実際に問うような真似はしなかった。
敢えて言葉にすることで、必要以上に名誉を傷つけることも無かろう、との判断である。
こうして――カワードの記念すべき、人間社会に紛れ込んだ初日は無事、思惑の範疇から逸脱することなく終わりを迎えるのであった。
ここまでが第ニ章の内容となり、次話以降、第三章の話が開始します。
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