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08 圧倒




 レイドの弓から逃げるようにして、カイルの正面に入り込んだカワード。当然、この好機をカイルが逃すことは無く、既に目の痛みからも回復しており、即座に大盾を構え、体当たりを繰り出した。


 カワードは、これを受け止める形で迎え撃つ。両腕を掲げ、前膊、そして手の甲をカイルへと向け、脱力した上体で体当たりを待ち構えた。

 そして大盾と前膊が衝突した瞬間、カワードは全身に瞬時に力を込め、弾けるような反発力を生み出し、押し返す。


 この衝突により体勢を崩したのは――体重でも、衝突の勢いでも勝っていたカイルの側であった。巨大な壁に衝突したかのような衝撃に、そして押しつぶすような方向への圧力によって、カイルは体勢を崩し、カワードによって押し返される。


 これはカワードの防御の衝撃に押し返された――だけではなく、衝突の瞬間、瞬時にカワードが沈み込むような腰の動きを伴い、カイルへと作用する力の角度に変化を付けたことも影響していた。

 思わぬ角度へと圧力を受けたことにより、カイルは反射的に、踏ん張ろうとして身体を緊張させた。結果、正面へと圧力をかける分の踏ん張りが弱まり、衝突の反動を抑え込めず、体勢を崩すことに繋がったのである。


 しかし、カイルにも大盾を使う、パーティの守備を担う者としての矜持があり、故に体勢を崩しきることなく、寸でのところで踏ん張り、膝を曲げた状態でどうにか静止する。

 だが――無慈悲にカワードの追撃がカイルを襲う。崩れた体勢を、どうにか力ずくで抑え込み、倒れ吹き飛ぶことを防いだ、その軸足に目掛けて、カワードが足を出す。そのまま足首同士を引っ掛け、引っ張り、軸足を外すことにより、カイルのバランスを崩し、転倒させる。


 こうした味方の危機的状況に、すぐ隣に立っていたエベックが黙っているわけには行かなかった。

 カイルの体当たりが失敗に終わったと悟った時点で、既にエベックはカワードに向け、大剣を振りかざしていた。


 だが――これもまた、カワードにとっては脅威となることは無かった。

 予想外の出来事、カイルの大盾による体当たりが弾き返され、窮地に陥るという事態に反応したため、エベックの太刀筋は単純、かつ分かりやすい、最速の一太刀となっていた。

 重さにより相手を叩き切る剣術は大ぶり、かつ上段からの振り下ろしとなるのが定石であり、焦りも重なり、速さ以外を犠牲にした一撃は、カワードにとって対処の容易いものであった。


 僅かに身を捩って、振り下ろされる大剣の軌道から逃げるカワード。そして迫りくる大剣を迎えるように手を伸ばし、懐へと潜り込むような動きで、大剣を持つエベックの腕を掴んだ。

 そのままエベックの振り下ろしの勢いを殺さず、奪い取り、円運動、螺旋を描くような軌道で絡め取り、己の力も加え――投げる。


 大剣を振り下ろす勢い、重み、全てを利用され、さらにはカワードの桁外れの膂力も加わり、エベックは宙に浮き上がるほどの勢いで投げられる。

 その腕をカワードは手放すことなく、投げ飛ばさぬよう注意を払い、最後まで勢いを乗せたまま――倒れ込むカイルの上へと、墜落させる。


 ドゥッ、と、重い衝突音が広場に響く。それだけの勢いと重さでもって、カイルとエベックが衝突した証拠でもあった。

 堅い土や大盾の上に墜落したエベックは無論、そのエベックと大地に挟まれ、衝撃を逃がすことも出来なかったカイルもまた、無事では済まなかった。

 二人はぐったりと折り重なったまま、完全に意識を失い、戦闘不能に陥ってしまう。


 ――そうした一連の攻防の後、エベックを投げ落とした直後のカワードを狙い、ようやくレイドの弓から矢が放たれる。投げの直後の、身体が伸び切った瞬間を狙った、最も無防備な状態を射抜く、最高のタイミングでの射撃であった。


 矢はカワードの眉間を狙い、飛ぶ。それは一般的には即死級の攻撃に該当し、決闘のルールに違反する一撃であった。だが――余りにも理不尽に味方を撃墜され、一瞬のうちに三人の前衛が無力化される恐怖を前に――そして何より、戦闘中にも関わらず、嗤う鬼のような表情を浮かべたカワードを見て、レイドは冷静で居られなかった。

 ほぼ本能的に放った矢は、本人も無意識の家に、即死を狙える部位、眉間を正確に貫く軌道で飛んでいった。


 後悔しても遅く、既に矢はカワードの眼前へと迫っていた。常人であれば、到底この状態から回避することなど叶わず、運良く頭蓋骨に矢が滑ることを祈る他無い状況であった。

 だが――カワードの浮かべた、凶悪な笑みは、生まれて初めて人間を相手にする闘争の中感じる喜びは、ここに至ってなお収まることは無い。


 そしてカワードは――矢に向かって、額を突き出した。

 さながら頭突きのようなその動きは、しかし真っ直ぐ突き出された訳ではなく、首を傾け、角度を付けてあった。

 飛来する矢は、正にその角度のついた額に――ちょうど斜めから入射した時と同じ角度で衝突する。レイドの使う矢は、刃の付いていない、先端の尖った金属を嵌め込んだ鏃を使っており、接触しただけで皮膚を切り裂くようなことは無く、カワードの額を滑り、軌道を逸してゆく。


 結局、レイドの放った矢がカワードの眉間に突き刺さるような事はなく、額を滑り、後方へと受け流される形となった。

 レイドは、己の放った致命の一撃が、無事回避されたことに一瞬安堵し、しかしすぐに今は決闘の途中だと気を取り直す。

 だが、時既に遅し。カワードはレイドに向かって、素早く距離を詰め始めていた。本来放ってはならない攻撃を放ってしまった事により生まれた焦りが、レイドに隙を生み、次の矢を構える余裕を失わせた。


 そうして――最後はレイドが弓を構えるのが間に合わず、カワードによって距離を詰められ、鳩尾を拳で突かれ、崩れ落ちる。

 一瞬の静寂、その後、ギルドマスターが決闘の終了を宣言する。


「――勝者、カワードッ!!」


 こうして、カワードの初となる対人戦は決着を迎えたのであった。

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