06 竜の首狩人
カワードが案内されたのは、冒険者ギルドの裏手、訓練の為に用意された広場であった。冒険者が決闘を行う場合、こうした開けた場所を利用する場合が多く、今回『竜の首狩人』が決闘に選んだ場所も同様であった。
広場には騒動を聞き付け、集まった野次馬が既に集まっており、また、決闘の見届人として、ギルドマスターが顔を出し、関係者でもあるキャサリンはその隣に立っていた。
「しっかし、登録早々に決闘騒ぎとは、騒がしい奴だな」
「それは、向こうが突っかかってきたからで……」
ギルドマスターが呆れたように言うと、キャサリンが反論するように呟くが、当人にも感情的になって騒ぎを大きくした自覚があったため、語気は次第に弱まっていった。
「まあ、これもいい機会だ、嬢ちゃんの連れてきたルーキーがどの程度やれるのか、この目で見定めさせてもらうぜ」
「はぁ、そうですか……ところでマスター、カワードの対戦相手はどういう輩なんですか?」
「うん? 竜の首狩人か。うちのBランク冒険者の中でも実力が――戦闘能力が高い、討伐系の依頼を中心にこなしている武闘派の冒険者だよ」
言うと、ギルドマスターは龍の首狩人の面々に、順に視線を向けながら語っていく。
「リーダーのエベックは、肉厚の両手剣を使いこなして大型の魔物も的確に切り伏せる剣術のプロで、重量で叩き切る、典型的でありながら理想的な対魔物向けの剣術の使い手だ」
視線の先には、キャサリンに声を掛けてきた張本人、騒動のきっかけとなった男がおり、ギルドマスターの言葉通り、巨大な両手剣を軽々と握り、構えていた。
「そんで、サブリーダーのカイル、こいつがパーティの防御の要だ。大盾と、鈎の付いた槍を駆使して敵の攻撃を防ぐ、手足を引っ掛けて自由を奪うといった補助を担いながら、槍の打撃や突き、大盾の重量を生かした体当たりなんかも攻撃手段として使ってくる厄介な相手だ」
大盾と、槍を持った男に視線が向く。決闘になってから装備を持ち出して来たのか、ギルドの受付前で絡んできた時とは異なる装備をしていた。
「さらに、カイルの守りの後ろには弓士のレイドも居る。元狩人だったが、その腕を見込まれて辺獄攻略の為にパーティへ勧誘された口だ。正確でありながら、速射もかなりのもんで、カイルを盾に使いながら、常に動き回り標的を狙う集中力、体力、足の速さもある」
弓を装備した男、レイドは、大盾を持った男、カイルよりも十数歩程後方に控えており、素手のカワードが直接標的として狙うには困難な立ち位置に居るように見えた。
「最後が斥候のアヴァン、暗器使いで、中距離用の投擲武器も得意としている。状況に応じて仲間をサポートしつつ、本人は近づいてこない。本領は辺獄探索での索敵や先行偵察だが、中距離、近距離の戦闘能力も十分にある。戦士じゃねぇが、簡単に落とせる相手でもない」
そう言って、ギルドマスターが最後に語った男が、エベック、カイルに並び前衛に立つ男、アヴァンであった。厚く着込んだ服装は、各所に暗器を隠す為のものだろう、とキャサリンは推測した。
「――とまあ、冒険者としては間違いなく一流の奴らだ、お嬢ちゃんの連れはどこまでやれると思う?」
「それは……もちろん勝ちますけど」
キャサリンは、その点に関しては疑っていなかった。よもや、カワードがその程度の冒険者を相手にして敗北するなど、到底あり得ないことだと考えていた。
「なんだよ、そんならどうして、シケた面してやがるんだ?」
「それは……」
言い淀むキャサリンに、これ以上の追求はしないことにするギルドマスター。
無論、キャサリンが不安に思っているのは、この決闘の勝敗、カワードの敗北の可能性を思ってではなく。
(――被り物、うっかり取れちゃったらまずいんだけど、カワードったら、ちゃんとそこんところ分かってるのかしら)
という、極めて単純な、勝負とは限りなく無縁な点においての心配に過ぎなかった。
「――そんじゃあ、お互い準備は完了したか?」
ギルドマスターは、カワードに、そして龍の首狩人の四人に視線を向け、確認する。そして両者が頷くのを確認してから、言葉を続けた。
「よし、最後にルールの確認だ……殺しは無しだが、武器は普段どおりの得物を使っていい。先に相手を無力化した方が勝利とする」
要するに、命を直接的に奪うような、即死に至るほどの攻撃でなければ、何をしても良いというルールであった。
「両者構え――始めェッ!!」
そうして――ギルドマスターの掛け声により、決闘は開始された。




