レイダー・ズォークという男 スイレンside
この部屋の先には私の弟レイダーがいる。
家族なのに、これまでは身体が弱く病院生活をしていたせいで一緒に生活することすら稀だった。
それが今日からは一緒に朝食も取れる。
学園も同じ場所だから、これからが楽しみだと気分よく部屋の中に入った。
「…………」
部屋の中にはレイダーが穏やかに寝ている。
偶に病院に見舞いに行った時と同じ寝顔。
それが同じ家で見れることに本当に退院しただと実感が湧いてしまう。
「レイダー!朝食が出来たので起きなさい!」
本当は、もう少し寝顔を鑑賞したいがご飯の時間だから叩き起こす。
身体を揺らして、わずかに抵抗する姿。
それすらも夢に見た光景で顔がにやけてしまいそうになる。
「ぅん………。もう朝………?」
「そうよ。起きて着替えなさい」
起きたと思ったら、こちらを見て朝かと質問する弟に頷き、寝間着から着替えることを促す。
素直にこちらの意思に従ってくれるが寝惚けてか私の前で着替えて下着姿になる。
姉弟だから何とも思わないけど矯正する必要があるかもしれない。
「………はぁ」
そしてレイダーは自分の二の腕や体全体を見て溜息を吐く。
それにつられて私も弟の身体全体を見るがガリガリ過ぎる。
父上と比べると、あまりにも情けない身体だ。
女である自分と比べても力負けをするだろう。
きっと同じ血を引いていなければ嫌っていた。
だが血縁だからこそ弟の貧弱さもリハビリの様子も知っている。
どれだけ退院するための努力をしてきたかも当然ながら見てきた。
その姿は私の弟として誇らしい姿だった。
だが弟としては自分の身体が嫌いなのだろう。
自分の身体を見て溜息を吐く姿は嫌っているモノを見る目だった。
弟の理想が父上だとしたら、やはり血縁だなとおかしくなった。
「溜息を吐く気持ちも分かるけど、さっさと着替えなさい。最近まで病院で入院生活をしていたんだしガリガリなのは当然でしょう」
それよりも今はいつまでも下着姿だから着替えるのを促す。
貧弱だけど鍛えれば並程度までには筋肉も付くはずだし、それまでは私が護れば良い。
「大丈夫よ。出来る限り私が護って上げるし、同じ父様と母様の血を引いているのよ!今から鍛えても直ぐに強くなれるわ!」
あっ。
私が護って上げると言ったら反抗心からか睨んできた。
可愛い。
「レイダー、それにスイレンも来たか」
着替え終わるのを待ってダイニングルームへと一緒に行くと父上が待っていた。
「はい、父上。おはようございます」
「おはようございます」
父上は私とレイダーが手を繋いでいるのを見て嬉しそうに頷き、座るように促す。
少し私は恥ずかしくなるが素直に従って椅子へと座ろうとする。
「あらあらあら!レイダーちゃん、もうこっちに来ていたのね!折角、起こして上げようと思ったのに!」
「なっ!」
後ろか急に母上の声が聞こえて来て振り向くとレイダーに抱きついていた。
本当なら、それで終わる筈だが最近まで病院生活をしていたレイダーに支え切ることは出来る筈も無く床に倒れようとしていた。
「大丈夫か?お前ももう少し気を付けてくれ」
だが、いつの間にか移動したのか父上の身体で受け止められてた。
流石、父上。
全く、移動した姿が見えなかった。
「あら?二人ともごめんなさい」
母上はそんなことを言っているが私は父上の匂いを胸いっぱいに吸っていた姿を見失わなかった。
「それにしても家族全員で家でご飯を食べれるなんて、本当に久しぶりね!!」
テンションが高い母上に家族全員が頷く。
例外としてレイダーが居心地悪そうにしていたのに全員がフォローに回った。
「ねぇ?本当にスイレンと同じ学校に行くの?寮生活だし私としては一緒に暮らしたいんだけど……」
食事が一段落して母上が質問するがレイダーは頷く。
私としては嬉しいが、これまで病院生活だった息子に母上は心配らしい。
少しは私を信用して欲しいと思う。
「我慢しよう。これまで病院で生活してきたんだ。好きな事をやらせてあげたいと言ったのも君じゃないか」
これまで自由に色んなことを経験できなかったからか学園に興味があるらしい。
自分以外の同い年の子供たちが病院へと来ては学園のことを話してくれたりと羨ましかったのかもしれない。
それを考えれば私も学園のことを話していた気がする。
「だが一週間後まで時間があるし、私と手合わせをしないか?私ならお前の得意そうな戦い方など見付けたりアドバイスできるだろうからな」
そういえばと父上が話の内容を変える。
学園では戦闘をする必要もあるから、得意な戦い方を今の内に見付けようと考えたらしい。
その眼は輝いており、母上が私を着せ替え人形にするときと同じ眼だ。
やはり娘の私と手合わせをするよりは息子のレイダーとしたいみたいだ。
そのことに少しだけ嫉妬をしてしまう。
レイダーも頷いたし、自分も観戦することに決めた。
「そちらから来い」
父上の言葉にレイダーは出来るかぎりの全力で攻撃をしたのだろう。
だが私から見てもへっぽこで色々な速度が遅すぎる。
現に父上も平然と受け止めている。
同じ年頃の男子たちや年下の子たちと比べても弱弱しい姿に私は更にレイダーに庇護欲を湧いてしまう。
「なるほど。ではこちらの攻撃だ」
父上が反撃をする。
得意な戦い方を探すんじゃなかったっけ。
明らかに私でも一撃で戦闘不能になる一撃だったんだけど。
急すぎて止めることすら出来なかった。
「耐えたか……」
だから父上の言っていることが理解できなかった。
今の一撃を耐えた?
病院生活をしてきたせいで身体が貧弱なレイダーに?
精神が強いのは認めている。
むしろ私よりも強いとすら思っていた。
それでも精神と肉体は違う。
「…………あぁぁぁぁぁぁ!!」
レイダーの動きにキレが増す。
攻撃もキレが増して威力が上がっている。
平然と受けていた父上も今度は防ぎ始めている。
「はっ!!」
父上の攻撃をレイダーは避けて反撃し、偶にギリギリで直撃を防ぎ立ち上がり反撃をしている。
その姿に一緒に後から来た母親は顔を青くし、私は無性に誇らしくなる。
まさしくズォーク家の男だと。
父上も嬉しそうに剣を振るっている。
そして、ついに父上の剣がレイダーの身体を捉える。
「まさか病院生活を終わって直ぐにここまで戦えるとは………な。惜しむべきは身体能力の無さか。学園でそこを鍛えれば私にも勝てるようになるだろな」
父上の評価に私も笑顔で頷く。
そして何も言わないレイダーに何か言えと向くが仰向けに倒れていた。
どうやら意識を失っているらしい。
「貴方?」
そして母親の怒りの声に私は一目散に弟を抱えて家の中へと逃げていった。




